やさしいことば
ぽかっという可愛らしい音だった。
意外に大きく響いたその音に、蒼白になったのは綱吉で、息を飲んだのはラル・スカル・マーモン・コロネロ。リボーンは目を丸くし、首を傾げている。違う。首を曲げざるを得なかったのだ。綱吉に、頭を殴られた、衝撃で。
あわわわわわ、と拳を解き、綱吉はリボーンの前にしゃがみ込む。
「ごごごごごごごめ、ごめん・・・っ! ごめん、リボーン! 痛、かったよな? ごめんな!」
全然痛くねぇぞコラ、とコロネロは思った。日頃マフィアとして銃弾のやり取りを交わしている自分たちにとって、素手の何もまとっていない、しかも反射的に握り下されたグーの手など、子供の悪戯程度でしかない。しかも擬音は「ぽかっ」だった。痛いはずがねぇだろコラ、とコロネロは思うが、綱吉は泣きそうな顔で動かないリボーンを前にあたふたとしている。
「だ、だだ、だけどリボーンも悪いんだぞ・・・? ラルのこと『出来損ない』って言ったり、スカルのこと『パシリ』って言ったりするから。そういうの良くないって前も言っただろ? 言ってる方は軽い気持ちかもしれないけど、言われてる方は傷つくんだよ?」
諭す綱吉の声に、ラルの方がぎゅっと唇を噛む。何て優しい人なのだろう、と手のひらを握りしめる。今までにも同じようなことを言ってくれる人はいた。けれど綱吉は、己の脅威と絶対的な存在であるリボーンを殴ってまで否定してくれた。反射的な行為が、好意が、すごく嬉しい。
「もちろんラルやスカルだけじゃない。コロネロだってマーモンだって、ランボだってフゥ太だって、誰が酷いことを言われても俺は怒るよ。でもそれは、リボーンだって一緒だ」
触れようと手を伸ばすけれど、ほんの僅かなところで指先が降ろされる。そんな綱吉をスカルは見つめた。彼のこの性格はリボーンによって強制されたものではない。きっと、もともと持ち合わせていた性質なのだろう。それを引き出したリボーンを悔しく思う。だけどその対象に自分がいることを、喜びとともに照れくさく思う。
「リボーンが馬鹿にされたら、俺は怒るよ。誰だって殴るし、そんなことないって否定するよ。・・・・・・だから、さ? リボーンもそんなこと言うなよ」
浮かべられた泣きそうな笑みに、マーモンは深く息を吐き出す。寄せられた眉は僅かに震えている。その優しく思いやる表情に、いい気味だとマーモンは思う。リボーンはまだうつむいているので綱吉の表情を見れていない。いい気味だよ、とマーモンは思う。こんな彼の顔を見せてやるものか。
一度きゅっと握りしめられ、決意とともに伸ばされた指先が黒いスーツに触れる。そっとそっと伺うように、綱吉はリボーンを抱き上げた。漆黒の赤ん坊ヒットマンはまだ何も言わない。その背を優しく撫でながら、綱吉は笑う。
「大好きだよ、リボーン。だからもう、そんな酷いことは言わないでくれよ・・・?」
よしよし、と綱吉はリボーンを撫で続ける。相変わらず何も言うことはないけれど、小さな紅葉の手がそっと、綱吉のティーシャツを握りしめた。
それを見た他のアルコバレーノたちは、声を殺して笑みを浮かべた。
おやじにもぶたれたことないのに・・・。
2006年11月7日(2006年11月23日再録)