永遠のHERO
「ああ、ランボ。いらっしゃい」
ペンを走らせていた書類から顔を上げ、綱吉は既知の少年を迎える。すでに15歳になり、いわゆる「伊達男」に成長したランボは、浅く頭を下げてからドン・ボンゴレの執務室へと足を踏み入れた。
「お久しぶりです、ボンゴレ」
「久しぶりだね、ランボ。おまえってば全然来ないんだもの。俺がどんなに待ってたか分かってんの?」
「はぁ・・・」
頷こうとして疑問を感じ、ランボの首が斜めに傾げられる。けれど綱吉はそんな彼に構うことなく椅子から立ち上がり、いそいそと壁際の簡易冷蔵庫へと近寄った。ちなみにこれは仕事で執務室にこもりがちな綱吉が、自ら持ち込んだ娯楽道具の一つである。
中から何かを取り出して、パタンと軽い音を立てて扉を閉める。座って座って、と手だけで示されて、ランボは部屋の中央にあるソファーに腰を下ろした。彼の向かい側に、綱吉も座る。
「はい、これ」
手に持っていた物体を、綱吉はランボに向けて差し出した。
「小さい頃、おまえ大好きだっただろ? この前偶然もらったんだ。懐かしいよなぁ」
ぽんっと手の平に載せられた物体を、ランボは瞬きをしながら見下ろす。今では片手に乗ってしまう少し冷ややかなそれは、中にあんこをぎっしりと詰め込んだ日本特有の「あんぱん」だった。
チョコレートやピンクのチェリーで形作られ、子供の永遠のヒーローを模した「アンパン」だった。
懐かしい。確かに懐かしい。日本にいた頃、小さかった自分はいつもこの番組を見ては必殺技を叫んでいたものである。アンパンとパンチをかけているのに気づいたのは、ちょっと経ってからだったけれども。
そんなことを思ったけれども、どうしていきなりこのパンなのか分からず、ランボは再度首を傾げて綱吉を見やる。
「あの、ボンゴレ・・・?」
「いやー懐かしいよなぁ。ランボ、それ大好きだったもんな。いつも俺にちぎってくれてたじゃん。『僕の顔をお食べよ』とか言って」
言う割に綱吉が口を開けると、「やっぱりあげないもんねー!」とか言いやがって、何度げんこつを食らわしたか覚えてないよ。
続けられた言葉にランボは肩身を狭くして縮こまる。幼い頃から世話を見てもらってきた所為で、今や彼は綱吉に頭が上がらない。今度10年前に言ったら土下座の一つでもしなくては、とランボは思う。
「しかもおまえ、いつも外側から食べていってさ。円の縁を食べきると、今度は両頬。でもって口。最後に目と鼻だけ残って、何て残酷な食べ方するんだコイツ、と俺はいつも思ってたよ」
「す、すいません・・・・・・」
「なのに金曜になるとテレビの前でスタンバイして『がんばれー!』とか応援してるし。俺、子供ほど純粋で残酷な生き物はないって思ったね。おまえが『愛と勇気だけが友達さ』とか歌ってるの聞いて、イーピンが微妙な顔してたの覚えてる?」
「な、何か・・・本当にすみません・・・っ」
「え? いやいいよ、全然気にしてないし。今となっては良い思い出だよ」
笑ってそう言う割に、何故か目の前の綱吉から堪え難いプレッシャーを感じ、ランボはソファーの上で後ろに下がる。その間も両手に載せられたアンパンは健在で、純粋な目がじっと彼を見上げてきている。
「でさ、せっかくだからランボ」
昔から変わらない優しい笑顔で、ドン・ボンゴレとなって兼ね備えたプレッシャーで、綱吉は命令する。
「そのパン、昔みたいに食べて。でもって主題歌も歌って。DVDも取り寄せたから一緒に見よう。あぁ、もちろん必殺技を叫んでくれても構わないよ?」
綱吉はにっこりと笑ったけれど、ランボは知らない。目の前のドン・ボンゴレがここ一週間執務室に缶詰で、めちゃくちゃストレスが堪っていたことを。そこに降って湧いたような懐かしのアンパン。
涙目になるランボを、永遠のヒーローがつぶらな瞳で見上げていた。
獄寺君は上品にちぎって、山本は頭からガブリ、了平兄さんは一口でごくん。雲雀さんは叩き潰して平らにしてから、骸は皮を剥いで内蔵(餡)から食べたらしい。
2006年10月4日(2006年11月4日再録)