家訓八、父さんと呼ぶべし





実の父親に毒を盛り、遠い親戚にバトルを仕掛け、敗れてイタリアに戻ったら赤ん坊にされたXANXUSは、再来日してからずっと綱吉のことを観察していた。自分を差し置いてボンゴレ十代目に指名され、自分とガチンコ勝負をして勝利を収め、その割にどこか弱々しく草食動物の感が拭えない綱吉は、見ていれば見ているだけダメダメっぷりを披露してくれた。彼の通う学校に隠れてついて行ったときに知った「ダメツナ」というあだ名にひどく納得したものである。何でこんな男に自分が負けたのか。怪しい術でも使ったんじゃないのかと半ば思い始めていたXANXUSだが、彼はふと気づいた。
最初にその傾向を見せたのは、ルッスーリアだった。元来人なつっこく、他人となれあうことを好む彼だが、綱吉と打ち解けるのはさらに早かった。クール宅急便で送られたその日の内には共に洋服を選び、仲良くお風呂に入っていたのだ。
次に続いたのは、意外にもレヴィ・ア・タンだった。自分にしかなついていなかった彼が綱吉の後ろをついて回る姿に、XANXUSは思わず我が目を疑ったものだ。試しに綱吉と似たような位置に立ってレヴィがどちらに行くのか観察してみたのだが、彼はXANXUSに一礼した後で綱吉の方へと駆けよった。ちょっと悲しかったなんて、絶対に言うつもりはない。
スクアーロは綱吉と一緒に風呂に入ることが多い。長い彼の髪は綱吉によって洗われる。丁寧な優しい手付きで泡立てられ、シャンプーハットの上からシャワーで流す。もちろん出た後はドライヤーでさらさらにブラシをかけられ、寝るときは邪魔にならないよう緩い三つ編みで結ばれる。もはや毎日の習慣といえるそれをスクアーロが享受している時点で、彼の綱吉へのなつき様も分かるというものだ。
そして意外だったのがベルフェゴールだ。すべてにおいて最も好き嫌いの多い彼が、XANXUSの見る限り一番綱吉になついている。繋いだ手は放さない。どこでも一緒。どこに行くのも一緒。わがままな彼は綱吉に怒られることもあるけれど、それを嬉しそうに聞いている。ごめんなさいと言うベルフェゴールを、XANXUS知り合ってから初めて見た。
ゴーラ・モスカは静かに綱吉に構われている。食卓で綱吉は必ずゴーラ・モスカの隣に座る。彼が箸をつけるかつけないか迷っているおかずを、綱吉は「はい、あーん」と言って差し出すのだ。
マーモンは六人の中では最も長く綱吉から離れていたが、何があったのかあるときを境に、自分から綱吉へスキンシップをするようになった。だっこ、と言って両腕を伸ばす様は、さすが現役の赤ん坊である。綱吉も嬉しそうに抱き上げるものだから、彼らの触れ合いは増えるばかりだ。
以上のことからXANXUSは考察した。綱吉は自分の部下を手懐けた。一筋縄では行かない個性的すぎるヴァリアーの面々を、それも短期間のうちでだ。弱々しい草食動物のくせに、すべてのものを抱きしめて庇護する。なるほど、これが「大空のリング」を持つ者の特性か。そりゃ自分には無理だ。XANXUSはあっさりと納得した。
草食動物だが、まぁいいだろう。底力はあるし、日頃は頼りないボスだからこそ優秀な部下が集まり、強いファミリーを形成するに違いない。対等な者としてXANXUSは綱吉を認めた。なので彼は朝食の席で、赤ん坊たちの面倒を見ている綱吉に言ったのだ。

「これからよろしくな、オヤジ」

一瞬、面白いくらいに朝食の場が静まり返って、次の瞬間には綱吉の「ちょっと待てーっ!」という悲鳴が響いた。ルッスーリアの「パパっていうよりママじゃなーい?」という提案とか、マーモンの「納得だね」という頷きとか、スクアーロやベルフェゴールの「ママ」コールや、レヴィとゴーラ・モスカの何気なく嬉しそうな顔を見やり、XANXUSはやはり頷く。自分の判断は間違っていない。



こうしてヴァリアーの七名は、ボスの許可も下り、名実共に沢田家の子供―――というか綱吉の息子になったのだった。





こうしてボンゴレファミリーは最強の家族を形成しましたとさ。
2006年6月28日