家訓七、好きなものは好きと言うべし





一緒に公園で遊んだり、一緒に買い物に行ったり、一緒にお風呂に入ったりする際、綱吉の両手は大体の場合が塞がっている。ちなみにそれは早い者勝ちによる結果であり、占有率はベルフェゴールが一位、そしてレヴィが二位だった。スクアーロは舌打ちしながら右斜め後ろを歩き、ゴーラ・モスカは左後ろ、そしてルッスーリアはスキップしながら綱吉の前を行く。マーモンはそんな彼らを一番後ろから見守る。振り向いた綱吉に「おいで」と声をかけられるその場所が、マーモンの定位置になっていた。
綱吉は子供たちによく触れる。それこそ手を繋いだり抱き上げたり、一緒に寝たりと様々だ。あまり大きくはないけれど、温かい手はどうやらとても優しいらしい。その手に撫でられると、騒いでいたランボもスクアーロも一瞬でおとなしくなる、まさに魔法の手だ。特に綱吉はヴァリアーの面々にはたくさん触れるようにしているらしく、そこかしこで彼らとスキンシップを図る。けれどマーモンはまだ、彼の手に触れたことがなかった。伸ばされた手が、フードにかかる前に一瞬こわばるのだ。困ったように向けられる笑みに、マーモンは気づいた。



「ねぇ、何言ったの?」
マーモンの言葉に、ハンモックで愛銃を磨いていたリボーンが僅かに帽子を縁を上げた。いつもは騒がしい綱吉の部屋に、今は彼ら二人しかいない。階下から聞こえてくる声は明るさに満ちている。
「何って何が」
「ツナヨシにだよ。何言ったの?」
フードで見えないけれど、マーモンの不機嫌を悟ってリボーンは小さく舌打ちをする。同じアルコバレーノに属する二人だが、彼らの間に親しいという感覚はまったくなかった。あって同類程度の認識である。
「この家でツナヨシが触れないのは、僕と君だけだよ。君と同じアルコバレーノだから、ツナヨシは僕にも触れようとしない。ねぇ、何言ったの」
「・・・・・・テメーには関係ないだろ」
「ふぅん、そう。分かった」
くるりとマーモンの小さな体がきびすを返す。長いフードがひらりと舞った。部屋を出ていく際に振り向いて、一言だけ残し去っていく。
「ごめんね? 君の大事な生徒を奪っちゃってさ」
二度目のリボーンの舌打ちが、誰もいない部屋に響いた。階下からはまだ、明るい声が聞こえてくる。

階段を飛び降りて、一番に目に入った背中に飛びつく。少しだけバランスを崩して振り返った顔は驚きに溢れていて、マーモンはそんな綱吉に淡々と告げた。
「僕は君に触れられるの、好きだよ」
ぱちりと大きな目が瞬いて、嬉しそうにはにかむ。伸ばされた手が初めて自分に触れ、マーモンは優しい温かさを知った。抱っこされた腕の中で、彼はにっこりと微笑んだ。





マーモン、アルコバレーノ設定。
2006年6月28日