家訓六、好き嫌いせずに食べるべし
ゴーラ・モスカは基本的におとなしい。チャンネル争いには加わらないし、最近激化してきた綱吉の隣で寝る権利もほしがらない。出来た赤ん坊だなぁ、なんて思う綱吉は、別に彼らが元はそれなりの青年たちだったことを忘れているわけではない。けれど体格的に小さな赤ん坊は、無条件で彼の庇護する対象になってしまうのだ。
手がかからないけど、手をかけないわけじゃない。他のヴァリアーの面々と同じくらいゴーラ・モスカのことを気にかけていた綱吉は、ある日の食卓でふと気づいた。
「・・・・・・ピーマン、嫌いなのか?」
ぴくりとガスマスクのようなものが揺れた。こんなものをつけながら良く食事が出来るなぁと綱吉は思うが、まぁちゃんと食べてるのでいいとしよう。そう思いかけた矢先、皿のすみっこにちょこんと残されている緑黄色野菜を見つけたのだ。子供の好き嫌いランキングでも上位に君臨するそれは、確かに苦みがあって綱吉も好きではない。けれど母親である奈々が「食べず嫌いは人生における損よ!」と常々豪語していたので、とりあえず綱吉に食べられないものは存在しなかった。
ふむ、と考えて箸を置く。ぴょんっと食卓から逃げようとした体を捕まえて脇に抱え込み、冷蔵庫を開ける。取り出したジュースは乳酸菌がたっぷりの五個パックになっているもので、最近お子様組で争奪戦の起こっている一品だ。それにストローを刺し、綱吉はゴーラ・モスカを再度椅子に座らせる。左手に持ったジュースを顔の前で揺らすと、マスクをしていても分かる視線もそれに従って左右に揺れた。あまり主張しないゴーラ・モスカもこのジュースが好きだということは、当然知っている綱吉である。右手に持った箸でピーマンをつまみ、彼は笑顔でそれをゴーラ・モスカの口元に近づけた。
「はい、あーん?」
左手では変わらずに、ジュースが「飲んで飲んで」と揺れている。
悩みに悩んだ10分後、ごくごくとジュースを飲むゴーラ・モスカの頭をやさしく撫でる綱吉がいた。
ずるいずるいコールが起こる。
2006年6月28日