家訓四、お風呂は100まで浸かるべし





何をどうしたらこうなるのか、全身をどろどろにしてスクアーロが帰ってきた。せめて血じゃなかったことを喜ぶべきなのかな、なんて考えながら、綱吉は玄関先で靴を脱いでいた彼に待ったをかける。
「ストップ。まさかそのままうちに上がろうなんて思ってないよな?」
「あ゛ぁ? ダメなのかよ」
「ダメに決まってるだろ! とりあえず泥だけでも落とすから庭に回って」
「めんどくせぇな、お゛ぉい」
「面倒でも何でも仕方ないだろ。第一何でそんなに泥だらけになったんだよ?」
綱吉は首を傾げるが、スクアーロは黙として語らない。自分が赤ん坊だということを忘れて歩いていたら、それこそ自分より巨大な犬に追いかけられて転びまくっただなんて、彼でなくても言えないだろう。むっつりと黙りこんだスクアーロに向けてホースを構えながら、綱吉は蛇口を捻る。
「ほら、目ぇ閉じろよー」
「わっ!?」
勢い良く噴射された水に、スクアーロは反射的に目を閉じた。痛くないように調節されたシャワーが、どんどんと汚れを落としていく。Tシャツと短パンがぺったりと体に張り付く頃にはすでに泥は流れきり、自慢の長髪を絡ませて貧相になってしまったスクアーロを、綱吉はひょいっと抱き上げる。
「うお゛ぉい!?」
「このままじゃ風邪引くし、風呂入っちゃおう」
「あ゛ぁ!? 放しやがれ!」
「あーもー何でおまえらってスキンシップを嫌がるかなぁ。今は赤ん坊なんだから照れることないだろ? はい、ばんざーい」
ばんざーい、とつられるままにスクアーロは両手を上げてしまった。そんな彼からさっとTシャツを脱がし、さらにはズボンや下着まで剥ぎとってバスルームへと放り投げる。よもや恋人―――それは一夜限りの愛人に近いかもしれないが、そんな女たちにもされたことのない扱いにスクアーロは真っ赤になるやら慌てるやらで忙しい。けれど自分も服を脱いで入ってきた綱吉は、鼻歌を歌いながらシャンプーのポンプを押している。ちなみにCMのうたい文句は『赤ちゃんの敏感肌でも大丈夫』。家族の八割が五歳以下という沢田家にぴったりの一品だ。
「スクアーロはきれいな髪してるんだから、ちゃんと洗わないとなぁ」
シャンプーハットを被らせ、わしゃわしゃとスクアーロの髪を洗う手つきは、それは見事なものだった。



結局その後、言葉を失ったスクアーロは湯船で100を数えることになり、風呂上がりには綱吉によりドライヤーをかけられた。こうして彼のキューティクルは日々維持されていく。





ツンデレ?
2006年6月28日