家訓三、悲しいときはちゃんと泣くべし





ぎゃあぎゃあと泣き喚く子供のあしらいには、不本意ではあるが慣れてしまっている。20年後はあんなに頼もしかったのになぁ、と時間軸からみればおかしなことを考えつつ、綱吉は横目でランボを見やる。しかし今片づける問題は室内を大声で笑いながらばたばたと走り回っている子供ではなく、目の前のつんつんだ。中身はともかく今は赤ん坊なのだから声を上げて泣けばいいものを。もしくは実年齢にふさわしく泣くなと言ってやりたい。両膝を抱えてしくしくと涙しているレヴィ・ア・タンの前に、綱吉は溜息をはきながら膝をついた。
「ほら、いい加減に泣きやめよー」
つんつんの髪の毛に触れてもいいものか悩んだので、とりあえず肩を撫でてみる。しかし反応は変わらない。しくしくしくしく泣き声は続く。
「別にザンザスに置いてかれたからって泣くことないだろ? あいつだって夕飯になればちゃんと帰ってくるって」
「ボスっ・・・! ボス・・・!」
「おまえだっていつまでもザンザスの後ろについてなくたっていいんだぞ? 好きなことして遊んでいいんだから」
「俺はボスに仕えることが何よりもの幸せなんだ・・・っ!」
もしもここにリボーンがいたのなら、にやりと笑って「まるでおまえに対する獄寺だな」と指摘したことだろう。綱吉自身も何かデジャヴに近いものを感じたが、やはり超直感により深く考えることを放棄した。そんな彼は大空のリングを手にしてしまいながらも、未だマフィアのボスになることを拒んでいる。
「あーもーうっとうしい! こうなったらおまえも遊び行くぞ!」
しくしくと続く泣き声にうんざりした綱吉は、そう叫んでレヴィの赤ん坊の体を持ち上げた。ランボやイーピンよりも軽いことに少し驚きながらも、そういやあいつらは五歳だっけ、と思い出す。
一方、生まれて初めて他人に抱き上げられたレヴィはというと、泣くことすら忘れてぽかんと口を開いた。遠くなった床の上で、ランボがダッシュで駆けよって来る。
「ツナ、公園行くのか!? ランボさんも行くぞ!」
「じゃあイーピンとフゥ太も誘ってかくれんぼでもするか」
「がははははは! ランボさん、負けないもんね!」
歩きもしないのに運ばれていく自分に、レヴィは相変わらずぽかんとした顔のままで。そして沢田家先住組と共にお散歩に出かけるのだった。



その日、野暮用から戻ってきたXANXUSが見たものは、綱吉の横にぴったりと座り、まるで忠犬のように彼になついている部下の姿だった。





たぶんそのうち、忠犬バトルが起こる。
2006年6月28日