家訓一、沢田の姓を名乗るべし
手紙をぐしゃりと握り潰し、綱吉はうなだれた。胸の奥底から湧き上がってくる熱いものは間違いなく怒りだろう。今なら死ぬ気にならずとも雲雀さんとだって骸とだって戦える。けれど元来争いから逃げたがる綱吉は、拳をきつく握り、必至でその衝動を堪えた。
「あら可愛い! リボーンちゃんのお友達?」
「そうだぞ、ママン。こいつらは家光とも知り合いだぞ」
「そうなの? じゃあ今日の夕飯は豪勢にしちゃうわね! どうぞごゆっくりしてってね」
七匹の赤子を前にしても、それらがどんなに奇抜でも、常にマイペースを崩さない母親に、綱吉は今更ながらに感動に近い溜息を吐き出した。今は再びイタリアにいる父親もそうだが、どうも自分の両親は独特のテンポを持ちすぎている。そんなところが似れば今ごろもうちょっと気楽に生きれたのかなぁ、なんて考える綱吉は、十分に環境適応能力の高さで彼らの血を引いていた。
「ずいぶん可愛らしい姿になったじゃねーか」
リボーンはにやにやと笑っているが、ヴァリアーが赤ん坊になったということは、つまるところ彼と同じサイズになったわけである。もともと赤ん坊だったマーモンだけは変化がなく、胎児に戻すわけにはいかないもんなぁ、とどこか違うことを綱吉は考えた。
「うるさいな。僕は別に変わってないよ」
「天下のヴァリアーともあろうものがいい様だ。さすがボンゴレ九世だな」
「あ゛ぁ!? やんのか、てめぇ!」
「別にあたしたちだって、好きでこんな姿になったわけじゃないわよぉ」
「そうそう。好きでクール宅急便なんかに詰められたわけなじゃいしー?」
「はっ! ツナに負けてプライドまで失ったか、XANXUS」
「ボスを侮辱するなっ!」
「この前は出来なかったけどね・・・今なら邪魔する奴もいない」
「アルコバレーノだからっていい気になってんじゃねぇぞぉ!?」
「あらやだ、やっちゃう?」
「やっちゃおーぜ? 俺もう退屈」
「てめぇらまとめて蜂の巣にしてやるよ」
リボーンがにやりと笑い、銃を構える。マーモンがコートの中に両手を入れ、スクアーロが剣を抜く。ルッスーリアがにったりと唇を吊り上げ、ベルフェゴールが歯を見せて笑う。レヴィは完全に頭に血が上っているし、ゴーラ・モスカも無言で手を突き出している。XANXUSは黙ったままで止めるわけでもなく推奨するわけでもなく、けれどノーサインのボスに部下たちはOKを見いだし、それぞれが一斉に武器を放とうとして。
「何してんだ、おまえらっ!」
げんこつを、食らった。
ぽかんと見上げれば未来のドン・ボンゴレ10代目が、腰に手を当て眉を吊り上げている。
「いいかっ!? うちに、っていうか日本にいる間はおまえらうちの子なんだから、絶対に余計なもめごとは起こさないこと! 喧嘩や殺しあいとかは一切禁止! もしも破ったらその日のおやつは抜きだからなっ!」
・・・・・・こんなことを本気で、それはそれは本気で述べた綱吉により、こうして沢田家には新たに七人の赤ん坊が増えたのだった。我に返った綱吉がいくら後悔しようとも、彼が天性のベビーシッターなのは紛れもない事実のようだった。
どうする? まあこんな形じゃ仕方ねーしな。とりあえず世話になってやろうぜー。
2006年6月28日