あなたがすき





あの頃に戻れるのら、やりたいことが一つある / リボーン
夏と共に会いに来て / コロネロ
単純に、恋というのは / スカル
ガール・イン・ザ・スカイ / ヴェルデ
すごく、すごく / マーモン
君たちは笑っておいで / 沢田綱吉













あの頃に戻れるのら、やりたいことが一つある



―――いつから。いつから、だろうか。
元より接触は許さなかった。触るなと、何度も言った。
殺すぞと脅しをかけて銃を向ければ、あいつは不平を言いながらもおとなしく従った。
だから数えるほどしかないはずだ。必要にかられての場合がほとんどで、それ以外の記憶はまったくない。だからだろうか。
「リボーン」
呼ぶ声はとても優しいのに、向けられる笑顔はあんなにも温かいのに。
彼が自分に手を差し伸べてくれることは、ない。
・・・・・・いつから、だろうか。それを切なく感じるようになったのは。

だってあの頃は、こんなに触れてもらいたくなるなんて。こんなにも触れたくなるなんて。
・・・・・・・・・思いも、していなかった。

手を出せばきっと、彼は握ってくれるだろう。だけどもうそれも出来ない。月日がそれを許さない。だからただ、無言で歩み寄る。
ようやく・・・・気づいた。

自分は今更、彼に愛を告げられない。



月日があったから今があるのに、それすら憎く思う日が来るなんて。














夏と共に会いに来て



売れっ子教官として世界中の軍隊を飛び回っているコロネロだが、彼女はどんなに忙しくとも、夏には必ず裏マフィアランドに帰る。
その理由はただ一つ。
「コロネロ!」
手を振って列車から降りてくる。今となってはマフィアのドンらしさを問う入国審査なんて、たやすく合格できるだろうに。
わざと失敗しては不合格になり会いに来てくれる綱吉を、コロネロはただただ嬉しさを抱いて待っていた。
滅多に会えないからこそ、気合を入れて。自分の精一杯の魅力を出せるように準備して。
どきどきしっぱなしの胸を抑えて、白い砂浜で出迎える。
「久しぶりだな、コラ!」
愛しさが溢れてたまらない。

彼に会うそのためだけに、コロネロは毎年この地へ帰ってくるのだ。



会いに行くことも出来るけど、やっぱり会いに来てほしいんだ。














単純に、恋というのは



部屋に戻り、内側から鍵を閉めてフルフェイスのヘルメットを脱ぐ。持っていた荷物を床におろすと、リンゴが一個、袋から転がり落ちた。
静電気を帯びた髪がぺっとりと頬にくっつき、スカルはふるふると頭を揺らす。
レイダージャケットからキャミソールと短パンに着替えて念入りに顔を洗い、少し伸びた髪をバレッタで抑える。
そして冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、テーブルに置いてあったままの本を手にとる。
開かれたページに映るのは、美味しそうなアップルパイ。
「・・・・・・よし!」
覚悟を決めて立ち上がり、リンゴと先ほど買ってきた材料を拾い上げてテーブルに並べる。
準備はOK。後はスカルの腕次第。
「ボンゴレ・・・・・・食べてくれるかな・・・?」
少しの不安とたくさんのどきどき。真っ赤なリンゴにちゅっと軽いキスを落として、スカルは作業に取り掛かった。

愛の詰まったケーキの行方は、彼女と贈られ主だけが知っている。



あなたを振り向かせられるなら、何だって出来ちゃうんです。














ガール・イン・ザ・スカイ



ヴェルデはリボーンのようにボンゴレに属しているわけじゃないし、コロネロやスカルのようにフリーでもない。
彼女はボンゴレと同等に近い勢力と格式を持つ、ヴェレーノ・ファミリーのお抱え研究者だった。

フラスコを揺らし、いくつもの液体を手際よく精密に調合していく。
ぶかぶかの白衣を着た後ろ姿を、ドン・ヴェレーノは興味深げに眺めていた。
「それで? ドン・ボンゴレは落とせそうなのか?」
からかいを含んだ声音に、ヴェルデは実験の手を止めずに答える。
「まだスタートラインに立ったくらい」
「年齢差があるからな。二十歳くらいまでの長期計画で臨めよ」
「ツナ様は相変わらずボクたちを子供扱いするし、もう十分だって認めさせるのには年齢が一番の物差しだしね」
「おまえがボンゴレと結婚したいっていうから、わざわざ同盟を組んでやったんだ。ボンゴレにその気がなかろうと、そのうち俺がおまえを愛人に昇格させてやるよ」
「ありがと、パパ!」
振り向いて頬を染めたヴェルデに、ドン・ヴェレーノは肩をすくめて笑う。そう、すべては計画通り。

いずれ来る未来のために、今はじっと機会を伺う。
最後に笑うのは絶対に自分なのだから。



部下にはならない、ドンはもう決めてあるから。だって部下になりたいわけじゃない。














すごく、すごく



もう10年も前になる。綱吉とXANXUS、彼らの守護者たちの直接対決により、ボンゴレ十代目は沢田綱吉に決定した。
敗れたXANXUSは今まで通りヴァリアーの長を担い、今では綱吉の良きビジネスパートナーになっている。
「じゃあこれでお願いします。すいません、こんな遅くになっちゃって」
「いや、俺たちの活動は夜が基本だ」
「怪我とか気をつけて下さいね。何かあったらすぐにホットラインにかけて下さい」
「あぁ。いってくる」
XANXUSがきびすを返すと、控えていたスクアーロたちもそれに従って執務室から退室していく。
けれどその中で最も小さな影を、綱吉は肩に手を置いておしとどめた。
「・・・・・・綱吉?」
気づいて振り向いたヴァリアーの面々に、綱吉はにっこりと笑顔を向ける。
「マーモンはダメです。子供は夜に寝ないと育ちませんから」
至極まっとうな台詞のはずなのに、発する人間の立場によってはこうもおかしく聞こえてしまうものなのか。
両肩を掴まれているマーモンは、じっと綱吉を見上げる。
「・・・・・・ドン、僕もヴァリアーなんだけど」
「分かってるよ。いつも任務頑張ってくれてありがとな。でもマーモンは子供なんだから、夜は出歩いたりしちゃダメだよ?」
「う゛おおぃ・・・・・・」
「何言ってんだ、こいつ」
「でも確かによふかしすると、お肌も荒れちゃうのよねぇ」
スクアーロたちは呆れ、ルッスーリアは違う視点で納得する。
どうしたものかと黙るXANXUSを余所に、マーモンをぎゅっと抱き寄せて綱吉は笑った。
「さぁ、子守唄歌ってやるから早く寝ようなー」
にこにこと優しく告げてマーモンを寝室へと引っ張っていく姿は、とてもじゃないがイタリア最強のマフィアを束ねる男には見えない。
まるで幼稚園の保父のようだったと、後にXANXUSは語ったとか。



優しい手も子守唄も苦手。どうしていいのか分からなくなる。














君たちは笑っておいで



沢田綱吉は一人っ子にも関わらず子供の扱いが上手かった。
それはひとえに中学校一年生のとき、「おまえはボンゴレファミリーの十代目だ」と言われたことに起因する。
綱吉にそう告げたのは、当時一歳にも満たない家庭教師だった。次に現れたのは五歳のヒットマンだった。五歳の拳法家、九歳の情報屋、一歳の軍人や軍師、暗殺者とも知り会った。
どうしてこんなに子供率が高いのだろうと綱吉が思ったことは一度や二度じゃない。
彼らと接しているうちに、知らず知らず身についたスキルが『ベビーシッター』。イタリア最強のマフィアのドンとして、異色すぎる特技だろう。
けれど彼は真の意味で、実に良い『ベビーシッター』だった。
特異な環境で育ってきた子供たちを、綱吉だけが『ただの子供』として扱ったのだ。

「うん、分かった。じゃあ仕事は別の人に回して」
電話越し、書類にペンを走らせながら綱吉は優しい言葉で命令する。
「あぁ、もちろんあの子たちの腕を信じてないわけじゃないよ。だけど今は、仕事よりももっといろんなことを体験させてあげたいんだ。あれでもまだ10代だからね」
控えていた右腕に決済した分を渡し、また新たに受け取る。綴られていく名前は流暢なイタリア語。
「働くのは成人してからで十分だよ。そう、その頃にはきっと今よりもずっと成長してるはず。楽しみだなぁ」
まるで実の子の話をするかのように、柔らかな顔で彼は笑って。

「あの子たちには今までの分も、色鮮やかな世界を知ってほしいんだよ」

きっと大きなお世話だと言われるだろうけど。そう言って笑う綱吉は、間違いなくボンゴレ・ファミリーを継いだドンだった。
その手のひらに数多くの家族を載せて、大切に包み込む。

彼の愛は、まるで大空。





みんなが笑ってくれるなら、俺はいくらでも世界を守るよ。
2006年5月30日