※ヴェルデ捏造につきご注意下さい。





ドン・ボンゴレこと沢田綱吉の「密やかなる愛人」に、黙っていられないのは何もボンゴレ幹部だけではない。
むしろ彼女たちの方が何倍も何十倍も、その存在を暴くのに躍起になっていた。
これはそんな、恋とは偉大かつ盲目的な話である。





時に恋は嵐よりも凄まじく





「出ましたー! ヴェルデ様特製『尾行ならお任せタンテーイ』!」
「「おーっ!」」
人差し指と親指で摘まめるくらいの機械を示し、ヴェルデは自身の研究成果を誇る。
向かいの席ではリボーンとスカルが両手を叩いてそれを喝采した。
彼女らアルコバレーノのテンションがいつもと違うのにはそれなりの理由がある。それは、ありていに言えば「切羽詰っている」のだ。
故にいつもは反りの合わないヴェルデとリボーンがおとなしく会話を交わしているし、スカルも怯えることなくソファーに腰かけている。
「この『タンテーイ』は対象者を常にマークし、その映像と周囲の音声を拾い、衛星を介してボクのパソコンに送ってくる尾行用機器。ちなみに一回の充電で168時間の稼働が可能。雨風雷にも耐える優れ物」
「ヴェルデ先輩、形がテントウムシなのは何でですか?」
「蚊だと潰されるからね。コレなら見つけても窓から放されるくらいで済む」
てきぱきと机の上にパソコンを広げ、ヴェルデは電源を入れる。キーボードを高速―――彼女にとってはこれが普通の速さなのだが、パソコン初心者からしてみれば神技以上のスピード―――で叩くと、画面が色とりどりに変わり、スピーカーからざわざわとした音声も聞こえてきた。
「で、これが試作品の中継映像」
画面の中には、金色の髪に海軍の隊服をまとった彼女らと同じアルコバレーノの一人が映っている。
どこかの軍艦なのだろう。年上の女性隊員に囲まれて、何やらコロネロも会話に加わっている。
聞こえてくる音声もさすがヴェルデ印。ノイズが加わることなく滑らかだ。
『きょーうーかんっ! 今日はもう訓練ないですよね? じゃあ泳いできても構わないですかー?』
『あぁ? あれだけ訓練で泳いだってのにまだ泳ぐのか、コラ』
『訓練と遊びは別物ですよー。コロネロ教官も一緒に泳ぎましょ!』
まるでお茶の間番組を眺める昼下がりの主婦のように、リボーン・ヴェルデ・スカルは画面を見ていた。ちなみに前者二人は、断じて久しぶりに姿を見た盟友の元気さを喜んでいるわけではない。
「コロネロ先輩、何か綺麗になってませんか」という言葉を、スカルは今までの自分の経験から飲み込んだ。
『ほら、教官の分の水着も用意したんですよ。じゃーんっ!』
『ぶっ!』
ドリンクを噴き出したのは画面の中のコロネロだが、持っていたフォークを超能力がごとく曲げたのはリボーンだ。心なしかヴェルデの口元も不規則に引きつっている。
『なっ・・・・・・! なななななな何だその水着は!?』
『可愛いでしょう? 水色にピンクのハイビズカス! もちろんワンピースじゃなくてビキニです!』
『さ、三角じゃねーかっ、コラ!』
『そりゃそうですよー。これくらいやらなきゃ年上男は落とせませんよ?』
ぴくりと震えたのは一体誰の肩だったのか。
『というわけで教官、お着替えターイム!』
複数の女性隊員によってコロネロが運ばれていく。時間にして10分も経っただろうか。画面のこちらで起こるトントントントンと机を叩き続ける音やら、イライライライラという擬音が聞こえるわけでもないだろうが、コロネロが再度登場した。
そのときのアルコバレーノ三名の驚愕といったら・・・・・・もう。
『きゃーっ! 可愛い! コロネロ教官、似合いますよっ!』
『やっぱり水色で正解でしたねぇ。教官のブルーの瞳と相まって綺麗二倍!』
『髪もハイビスカスのピンで留めてみたのよ。さらに女らしくなって可愛いでしょ?』
きゃあきゃあと部下たちによって褒められるコロネロ。確かにその愛らしい姿から、先ほどまでの軍服を身にまとい、金糸をバンダナでまとめていた軍人の影は見ることも出来ない。
照れているのか戸惑っているのか、困っている表情がうぶさを強調させ、それが幼い色香にもなっている。
―――パリンと、ティーカップが割れた。
「・・・・・・なっ・・・にあいつ! いつの間にあんな胸でかくなりやがった!? 豊胸手術だな、さては!」
「あの足・・・・・・っ! 尻からのライン、どうやりやがった・・・!」
「すごい・・・ウエストも足首も鎖骨もちゃんとある・・・・・・! コロネロ先輩、いつの間に・・・・・・っ」
アルコバレーノ11歳、周囲の発育が気になるお年頃。
「でも! でもでもツナ様が巨乳好きって決まったわけじゃない! ボクだってまだ巻き返しは出来るはずだ!」
「やっぱりスーツばっか着てんのが悪いのか!? それとも食事か!? 就寝時間の不規則か!?」
「・・・・・・・・・タコにウエスト絞めてもらおうかなぁ。それともコルセットとか・・・・・・」
アルコバレーノ11歳、自分の世界に篭りたがるお年頃?
震える拳を握りしめたり、帽子の上からペットごと頭を抱えたり、顎に手を添えて真剣に考えたりしている少女たちを尻目に、画面の中のコロネロが不意に視線を険しくする。
『―――どこのどいつだ、コラ!』
声と同時に発射された弾丸はどんどんと大きくなり、ついにモニターは爆発音を残して砂嵐に変わった。
そこでようやく我に返ったヴェルデは、いまいましげにソファーに深く座り込む。
「ちっ! コロネロの野郎、ボクのせっかくの発明品を・・・」
「い、今ので僕たちがコロネロ先輩を見てたってバレちゃったんじゃないですか・・・?」
「別にバレたってどうってことないよ。ツナ様の愛人を探るためって言えば、あいつだって文句は言わないさ」
事実、鳴り始めた携帯電話もヴェルデがこれまた高速でメールを打って返せば、途端に静かになった。ちなみに余談だが彼女たちアルコバレーノの所持している携帯はみな同じ形をしており、それぞれのおしゃぶりの色でカラーリングされている。言わずもがなそれらは、綱吉から贈られたものだった。
「それじゃ、いよいよ本番いきまーす」
軽い口調とは裏腹に、場の空気は張り詰めたものに変わる。
映し出される映像を前に、正座すらしそうな雰囲気が漂った。



くしくも今日は雨。いつものようにバジルだけを伴い、綱吉は傘をさして出かけていた。
すでに購入したらしい大輪の花束を抱えている。半歩控えて付き従うバジルも、その手には最近街で美味しいと評判になっている洋菓子の包みを持っていた。
そのバジルが後ろを、ちょうどテントウムシこと『タンテーイ』の方を振り返る。
『どうしたの、バジル君』
『いえ・・・・・・視線を感じたような気がしたのですが・・・』
『そう? 気のせいじゃない?』
朗らかに笑う綱吉の着ているスーツは、彼の今一番のお気に入りだ。それを知っているからこそリボーンは舌打ちする。
『今日はご機嫌いいといいなぁ』
『そうですね』
『あの人は美形だけど中身がなぁ・・・・・・。この前なんか、雨の数分の飴がほしいなんて言われちゃったよ』
『だから今日のお土産はキャンディーなのですね』
『うん、せめて質で我慢してもらおうと思って』
わがまま女かよ、とヴェルデが呟いた。
『綱吉殿はお優しいですから』
『頭が上がらないだけかもしれないけどね』
『そんなことはございません。綱吉殿は拙者たちボンゴレのまごうことなき主です』
『あはは、ありがと。でも部下に秘密を持ってるドンっていうのも申し訳ないなぁ』
『それは綱吉殿がボンゴレのためを思ってのこと。皆も納得してくれますよ』
『そうだといいけど』
微笑ましい上司部下のやりとりであるが、不意に綱吉が振り向いた。
魅惑的な笑顔を、まっすぐにテントウムシに向けて。
その画面の向うにいるリボーンたちに向けて、綱吉はゆるやかに微笑んだ。
『・・・・・・そのうちちゃんと紹介するよ。だから・・・今は、ごめんな?』
ちゅっと軽い音がして、テントウムシは綱吉の微笑を最後に砂嵐に変わった。
ちっというリボーンの舌打ちが、部屋に響いた。



雨は相変わらず降り続いている。このイタリアの雨の下、綱吉は女の傍にいるのだろう。
もしかしたら愛を囁いているのかもしれない。柔らかな身体を抱きしめているかもしれない。
スカルがおずおずと、けれどはっきり口にする。
「・・・・・・あのバジルって人を問いただすことは出来ないんですか?」
「無理だな。あいつはもとより、うちの幹部はツナのためなら潔く死を選ぶような連中ばっかりだ」
「あーあぁ、ツナ様の超直感を甘く見てたよ」
ヴェルデも降参、と呟いて両手を上げた。
けれどリボーンだけはいまいましげに爪を弾き、低い声音で呟いた。
「ダメツナが・・・・・・この俺に隠し事なんて100年早いんだよ・・・っ」
その様子はとてもではないが恋する少女には程遠い、むしろ嫉妬に身を焦がす女のようだったとか。



ドン・ボンゴレの密やかなる愛人の発露は、リボーンのプライドと妄執に懸っているのかもしれない。





ヴェルデは胸がなくて、リボーンは尻がなく骨っぽくて、スカルはウエストがありません。コロネロは今のとこ完璧。会えない分の努力かも?
2006年5月14日