ボンゴレ・ファミリーのドンとして。
綱吉にはいくつもやらなくてはならないことがあるし、それもこの一つだった。
けれど、すべてが義務から来ているわけじゃない。可愛いと思っているし、愛しいと思っている。
昔から母親を、そして初恋の少女を見て育ってきたからか、綱吉は女性を愛する際の基準として「尊敬できるか否か」ということを重視していた。
それはおそらく無意識でもあるのだろう。けれど彼の選ぶ女性はすべて自己というものを強く持っている女だったし、プライドと優しさをかねそえている者たちばかりだった。
ありのまま受け止めてくれる器を持っている彼女たちだからこそ、綱吉はその腕の中で力を抜くことが出来るのだろう。
そんな彼女たちを、綱吉は心の底から敬愛していた。
故にドン・ボンゴレの持つ愛人たちは、誰もがみな優れた女たちだった。
絶望的な恋
「あれ? まだ起きてたの、リボーン」
綱吉が執務室に入るなり、鮮やかな香りが部屋中に広がった。
いや、香りとしては極微量なのかもしれない。けれど、リボーンには薔薇の花束よりも強く、その香りを感じた。
暗殺者の自分は決して、身にまとうことを許されない物だからかもしれない。
「・・・・・・報告書類があったからな」
「そんなの置いといてくれれば良かったのに。もう二時だよ? おまえは成長期なんだから早く寝なきゃ」
明日は昼まで起きてこなくていいよ。綱吉は笑いながらそう言い、スーツのジャケットを脱いだ。
細いけれど筋肉のついた背中が、無防備にリボーンの前に晒される。今なら殺せる。ドン・ボンゴレを弾一発で。
今なら触れる。沢田綱吉に、一歩の距離で。
だけどそれを拒むかのように、僅か湿っている茶色の髪から雫がポタリと落ちるから。
手を―――握るしかない。
「リボーン?」
振り向いて、綱吉が笑う。
誰かを抱いたその腕で、同じように抱きしめて。
子供扱いなんてしないで。触れて。愛して。めちゃくちゃにして。
香りが移せたらいいのに。共に夜を過ごしたいのに。
どうしても言えない。踏み出せない。
拒まれるのが、ただ、怖くて。
指先が、帽子越しに頭を撫でる。それすら嬉しくて悲しい。
「おやすみ、リボーン。良い夢を」
「・・・・・・ツナ」
こうして確かめるのは、確かめてしまうのは期待があるから。
いつの日にか違う答えが返るのを夢見て、今日も同じ弾丸を込める。
「俺は、おまえの何だ?」
「リボーンは、俺の大事なヒットマンだよ」
背中など向けなくても、ジャケットなど脱がなくても、この男はいつだって自分を殺せる。
どうしようもない己に、リボーンは笑った。
薄っぺらな胸には、常に風穴が開いている。
綱吉は尊敬する女性を愛する傾向にあると思う。
2006年4月4日