Carissima COLONEL(親愛なるコロネロへ)

元気でやってる? 俺は相変わらず仕事に追われている毎日だよ。サインしなくちゃいけない書類が山積みで、今日なんか部屋から一歩も出してもらえなかった。
こっそり抜け出そうとしたらリボーンに見つかって、スーツに穴を開けられたよ。Ermenegildo Zegnaの春物スーツ、気に入ってたやつなのに!
そう訴えたら「てめぇが悪いんだろ」の一言で一蹴されたし・・・。何だろう、俺、これでも一応ドンだよな? ボンゴレの中で一番偉いはずだよな?
それなのに何でこんな扱いなんだろう。リボーンもあんなに口が悪くなっちゃって・・・・・・小さい頃は可愛かったのに。
(あ、これ秘密な? リボーンにばれたらスーツに穴どころじゃすまないし!)
コロネロも口が悪いのはまだいいけど、簡単に暴力を振るうようになっちゃ駄目だぞ? おまえはせっかく美少女なんだから。
仕事は大変だろうけど、怪我しないように気をつけてな。今度暇ができたら遊びにおいで。ケーキ焼いて待ってるから。
それじゃ、またな。

Tanti baci, TUNAYOSHI(たくさんのキスを君へ、綱吉より)





Transmarine LOVEWAR





「あっれー? 教官、機嫌良さそうですね」
太平洋の海原を駆ける巨大な空母の中、ランチを食べていたコロネロは、かけられた声にふと顔を上げた。
テーブルの横に立っているのは、同じようにランチを載せたトレーを持っている女性海兵の姿。ブロンドの髪を持つジェーンという名の彼女は、じろじろとコロネロの顔を覗き込む。
「何かイイコトあったんですか?」
「あ、本当だ。嬉しそうな顔」
「もしかして、例の彼氏から連絡でもあったんですかー?」
共にいたショートヘアのアグネスと、褐色の肌を持つワンダもにやにやと笑いながら聞いてくる。
彼女らは女性のみで構成されているアメリカ海軍特殊部隊『CAT』の隊員であり、今は教官として招かれているコロネロの生徒たちだ。
任務中は上下関係に厳しすぎるほど厳しいが、一歩離れれば彼女たちの方がコロネロより10歳以上は年上である。
故にまるで妹に接するかのように、彼女たちはコロネロのことを可愛がっていた。正確には、可愛がるようになったのだ。
一週間ほど前のある日、鬼教官として疎まれていたコロネロの元に、一つの荷物が空輸されてきてから。

空輸されてきた「赤飯」という日本食が、女児の成長を祝うときに贈られるものと知って。
しかもそれを贈ってきたのが、11歳のコロネロより12も年上の男だと知って。
コロネロがその男を好きだと知り、好きな男に初潮を祝われてしまったことを知り、あぁ可哀想にと思ってしまったが最後。
『CAT』のメンバーたちは全員、コロネロの可愛い恋を応援をするようになったのである。

三人はコロネロと同じテーブルの空いていた席につき、それぞれにランチを食べ始める。
けれど教官の恋話を逃すことはなく、楽しそうな眼差しで尋ねてきた。
「で、どうなんですか? メールでも来たんですか?」
軍人としてならまだしも、女として20年以上生きている彼女たちが、コロネロの動揺に気づかないわけがない。
ぴくっと揺れた青い目に、彼女たちは一様ににやりと笑う。こうなってしまっては11歳のコロネロなど、最高のオモチャに早変わりだ。
「メールが来たんですね? 何て書いてあったんですか?」
「『愛しいコロネロ、君は今日も元気だろうか』」
「『会いにに行けない僕を許してくれ。遠い空から君と会える日を願っているよ』」
「『次に会えたときは感激して抱きしめてしまうかもしれない。君に溺れる愚かな僕を許してくれ』」
「「「『あぁ、愛しいコロネロ』」」」
「〜〜〜〜〜ふざけんなっコラ!」
だんっとテーブルを叩いたコロネロに、三人は笑い出す。件の気障な台詞は昨日のテレビドラマを真似たものだ。いささか誇張されているそれは、初心なコロネロにはこれくらいで丁度いいだろうと思っての配慮だったのだが、いかんせん今の彼女の顔は真っ赤で。
可愛いわぁ、と彼女たちは心中でコメントを送る。
「そっ・・・そんなこと、あいつが言うわけねぇだろ!」
「分かりませんよー? だって23歳のイタリア在住でしょう?」
「事業家でしたっけ? だったら交際範囲も広いでしょうしー」
「水を飲むようにワインを煽り、挨拶するように相手を口説いてるかもしれませんよー? どうします、そうしたら」
「・・・・・・っ!」
目を見開いたコロネロの目には、愛しい男が他の女に手を出している姿でも浮かんでるのだろうか。
黙っていれば美少女な顔が途端に歪み、次いで痛みを堪えるかのように顰められる。
それを止めるように、ジェーンが微笑んで提案する。
「ね、だから教えて下さいよ。確かに私たちは軍人としては教官の後輩ですけど、女としてのキャリアは上なんですから」
「アドバイスしますよ。私たちだって教官にうまくいってほしいし」
「そうですよ! だからほら、教官!」
純粋な応援が五割、好奇心が三割、残りの二割は暇つぶしだろうか。
彼女たちの心の内訳など知らないコロネロは、先ほどの想像に背中を蹴られたのか、唇を噛み締めて小さな声で話し出す。
「・・・・・・元気か、って」
「遠距離ですもんねぇ。心配してくれるのは嬉しいじゃないですか」
「・・・・・・仕事が忙しくて、毎日大変だって」
「愚痴を零してくれるんですね。それだけ頼られてるってことじゃないですか」
「・・・・・・暇ができたら、遊びに来いって」
「デートのお誘い! これは次の休みが勝負ですよ!」
「・・・・・・・・・あと」
「「「あと?」」」
声を揃えて尋ねられ、コロネロは俯く。少し長くなった金髪が、彼女の目元を隠した。
そうすると11歳とは思えない雰囲気をコロネロは帯びる。将来は間違いなく美女になるだろう。そんなことを考えながら、三人が眼福物の光景を眺めていたとき。
ぽつんと落ちた呟きは、言い切れないほどの悔しさと切なさに満ちていた。
「・・・・・・リボーンの、話があった」



巨大艦内を、放送が駆け巡る。
『アメリカ海軍特殊部隊、誇り高きCATの隊員に告ぐ! ただちに食堂へ集合せよ! 繰り返す、ただちに食堂へ集合せよ!』
ダダダダダダッという足音が、長い廊下に響き渡る。
『ならびに女性仕官、手の空いている者は集まれ! 特に長期の任務明けに恋人にふられた者、あるいは任務中に浮気された者、他の女に恋人を横取りされた者!』
ぞくぞくと人が増え、けれど誰もが列を乱さない。
『今こそ我ら戦う女の意地とプライドを見せるとき! 集え、マリーンの女たちよ!』
ザッという音を立て、百は越すだろう女性たちが食堂へと集まった。
規則正しい並びは軍人ゆえか、その目は誰もが限りない強さに満ちている。
その中、ジェーンは行儀悪く、けれども颯爽とテーブルの上に立ち上がり、高らかに声を張り上げた。
「集まってもらったのは他でもない。我らがCATの教官、コロネロ嬢のためである!」
え、と呟いたコロネロは、もはや誰の目にも映っていない。小さな彼女は今や演説の影に隠れてしまっていた。
アグネスとワンダもテーブルに上り、見渡す限りの女性たちに感情をぶつけるがごとく事態を告げる。
「教官が遠い異国の地にいる年上の男性に恋しているのを、この艦内で知らない者はいないでしょう。だけど今! その恋に危険が迫っている!」
ざわっと食堂が揺れる。ちなみに知らない者がいないのは、女性特有のネットワークのせいだ。一人に知れれば、二人に知れる。鼠算式に増えていく人口は、音や光よりも早く巨大艦隊を駆け抜ける。
はい、と手を上げて仕官が尋ねる。もちろんその人物も女性であり、この場に女性以外の姿はない。
「危険とは、具体的にどのようなものですか?」
「教官の想い人に、他の女が近づいているのだ。それも一人ではなく、複数!」
食堂のざわめきが先ほどとは比べ物にならないほど大きくなった。しかも殺気を帯びているのは気のせいだろうか。
戦場ならまだしも、今起きているのは女のみが持つ、炎よりも熱く、氷よりも鋭い殺気。まだ11歳のコロネロには持ちえない、女そのものと言える威圧。
それらすべてを向けられ、コロネロは「・・・っ!」と小さな悲鳴を上げた。アルコバレーノの彼女にそうさせるくらい、ものすごい迫力だったのだ。
「「「「「コロネロ教官!」」」」」
何百という女性の声が、食堂中をこだまする。



「「「「「私たち、全力で教官を応援しますから! 距離だけは近くにいる女なんかに、絶対負けちゃ駄目ですからね!」」」」」



「・・・・・・・・・ぉ、おう・・・」
引き攣る顔でそう答える以外、コロネロに一体何が出来ただろうか。
間違いなく九割九分が私怨であり己の実体験から来ているだろう意地とパワーで、女性たちは計画を企てていく。曰く、「遠距離だからこそ出来る成長を見せ付けてドキッ計画」らしいが、果たしてどうなることやら。
ともかく、こうしてコロネロは心強い味方を得て、女としての自分に磨きをかけるのだった。
・・・・・・・・・本人は多少、引き気味だったけれども。





2006年3月3日