※捏造ヴェルデにつきご注意下さい。
「ランボ、今日は楽しかったよ」
にこりと笑う綱吉は、背は伸びたけれども10年前とほとんど変わらないベビーフェイスだ。
そんな彼とは逆に成長しすぎて別人になったかのようなランボは、いえいえ、と頭を下げる。
「俺も、久しぶりにドン・ボンゴレにお会いできて嬉しかったです」
「ドン・ボヴィーノによろしく。またおいで」
「ええ。それでは失礼します」
ひらひらと手を振って見送られ、ボンゴレのオフィスを出る。こうして違うファミリーのヒットマンであるランボが堂々と出入りできるのは、ボンゴレとボヴィーノが和解して同盟ファミリーとなったからだ。
幼い頃から綱吉に世話になっていたランボとしては、この現状にとても満足している。
月に二・三度はこうして会えて、昔のようにキャンディーを食べながら綱吉と話が出来て。
これ以上の幸せはない。そう感じながら、浮き立つ足取りでイタリアの街を歩いていた刹那。
後頭部にものすごい衝撃を受け、ランボは意識を失った。
Badshit boy
次にランボが目を覚ましたのは、頭に走ったずきっという痛みによってだった。
思わずきつく両目を瞑り、眉を顰めながらうっすらと目蓋を開ける。
しかし眼前に広がったのは薄暗い闇だった。倉庫などではない。もっと視界が狭く、息苦しい。
手を動かそうとして、後ろで縛られているのに気づく。足も何かに縛り付けられていて、そこでランボは自身が椅子に拘束されていると判った。
そして視界に広がる薄闇は、頭から袋を被らされているのだ。繊維の間から僅かに光を感じる。
その向こうに―――複数の、人の気配。
ランボが目を覚ましたことに気づいたのだろう。場の空気が一気に緊張感を増して。
己に課せられるだろう拷問をランボは覚悟した、瞬間。
「それじゃ、第1299回『ツナ様に可愛がられてんじゃねーよ格下ごときが』略して『牛吊るし上げパーティー』を始めまーす」
愛らしい、声だけならば、声だけじゃなく容姿だけならば愛らしいだろうそれに、ランボは死を覚悟した。
これなら拷問の方がまだマシだと思った彼は、おそらく間違っていないだろう。
「っていうか、許せないんだよね。こんな十人並みのヒットマンが昔からの馴染みだからってツナ様に可愛がられてるなんて」
姿が見えなくても判る。この理知的で棘のある声はアルコバレーノの一人、ヴェルデだ。二重人格のヴェルデ。
「・・・・・・ドン・ボンゴレがボヴィーノと同盟を組んだ理由に、この人の存在があるっていうのがずるいです」
比較的小さな声で、けれどはっきりと主張するのは、やはりアルコバレーノの一人、スカル。ちなみにランボはヘルメットの下の彼女の顔を見たことがない。
「格下は相手にすんなって何度言えば判るんだ、ダメツナが」
聞きすぎるほどに聞いている声。恐ろしさと表裏一体のそれは、前者二人と同じくアルコバレーノの一人、リボーン。
気配が三つのことから、他のアルコバレーノはいないらしい。そのことにランボはほっと胸を撫で下ろしたが、命の危機であることに変わりない。
加えて言わせてもらえれば、ランボのヒットマンとしての腕前は上の下といったところである。アルコバレーノと比較すれば、それはまぁ格下と言われても仕方ないけれども。
でもってボヴィーノとボンゴレの同盟は両者の利害が一致したからであって、確かに橋渡しをしたのはランボの存在だけれど、それが決め手というわけでは多分なくて。
言いたいことはたくさんあるのだけれど、ランボは何一つ言葉に出来なかった。被せられている袋の下、ガムテープで口を塞がれているからではなく、ただひたすらに恐ろしくて。
相手が年下の少女たちといえど、関係ない。ランボは彼女たちが恐ろしかった。
そんな彼女たちから想われている綱吉が気の毒だと、やはり言葉にはしないけれど常日頃から思っていた。
「で、牛」
「・・・・・・ランボです・・・」
「てめぇなんか牛で十分だ」
鬼がいる。鬼がいる。容姿だけなら間違いなく美少女なのに、中身は100匹の鬼を凝縮したような鬼がいる。
悪魔だ。そう呟いたランボの声が聞こえたわけではないだろうに、椅子を蹴り飛ばされたのはどうしてだろう。
「可愛い可愛い女の子から、牛柄シャツの男に質問でーす。あなたは今日、ボンゴレファミリーのボスこと沢田綱吉さんとお茶をしましたね? 返事はイエスかノーでお願いしまーす」
ちなみに嘘発見器を設置してるからバレバレだよ? っつーか嘘ついたら指が減ってくと思え?
甘い声で語られる内容にランボの肩が震える。恐ろしさのあまりランボは泣きたかった。でも慰めてくれる綱吉はここにいない。いたらいたで血の海になりそうでもあったが。
「答えは?」
「・・・・・・い、いえす、です・・・」
「じゃあ、そのときにした会話を教えてもらいたいなー?」
言葉遣いが愛らしい分恐ろしい。すべてが恐ろしくて堪らない。
「ドン・ボンゴレとどんなお話をしたんですか・・・・・・?」
尋ねてくる声はスカルだ。ヴェルデよりは比較的まともだが、彼女もやはりアルコバレーノ。
日本にいたことからタコは食べれるけれども、巨大タコは勘弁したくてランボは大人しく白状する。
「ド、ドン・ボンゴレとは・・・・・・」
「ドン・ボンゴレとは?」
「こ、この前あったサッカーゲームや、新しくオープンしたケーキ屋の話などを・・・・・・っ!?」
ドンッという腹に響く音がして、ランボはバランスを崩した。椅子の足が一本打ちぬかれ、倒れるまま床に転がる。
「・・・・・・そういうことを聞いてんじゃねーよ」
リボーンだ。リボーンだった。向けられる殺気に慣れているとはいえ恐ろしい。めそめそと泣き出し、ランボは心の中で綱吉の名前を百回唱えた。
「さっさと喋ろ、バカ牛が」
「手荒な真似は駄目ですよ、先輩。まだこの人には用があるんですから・・・・・・」
「でもボクも無駄な時間は嫌いだなー。指一本やっとく?」
「ドドドドドドドドドドン・ボンゴレはっ!」
叫んだランボを誰が責められようか。
「ドン・ボンゴレは赤飯を作ったと言ってました・・・・・・っ!」
「「赤飯?」」
「もち米に小豆を混ぜて蒸あげた日本料理だ」
首を傾げたヴェルデとスカルにリボーンが解説するが、それはまた疑問を増やしたらしい。
「何でそのセキハンを、ドン・ボンゴレが・・・?」
「―――牛」
「ド、ドン・ボンゴレはそれをアメリカ海軍に空輸すると・・・・・・っ」
空気が変わった。おそらくこの方向にいるのはヴェルデだ。ひぃっと脅えつつ、ランボは床の上で身を縮める。
「あぁ? 何でツナ様が手ずから作ったセキハンを、コロネロの野郎なんかに送るんだよ」
「な、何でもおめでたいことがあったとかで・・・・・・っ」
「「おめでたいこと?」」
やはりヴェルデとスカルが首を傾げたのだろう。しかし一つの気配が色を変えた。この方向はリボーンだ。
さっきまで剣呑なオーラを出していたのに、今はそれが変化している。どちらかといえば憐憫に。
それに気づいたのか、スカルが不思議そうに声をかける。
「先輩・・・・・・?」
深い、深い、声が聞こえた。
「・・・・・・・・・日本には、初潮を迎えた女を、親が赤飯で祝う風習がある・・・」
親というところにか、好きな男に知られてしまったことにか、それとも祝われてしまったことに対してか。
いろいろと感じ入るところがあったのだろう。しんみりとした、どこか哀れむような空気がその場に広がった。それらを肌で感じながらも、ランボはリボーンたちも成長してるんだなぁ、と兄のようなことを考えていた。
「他には?」
「アアアアアアアルコバレーノの成長を喜んでました・・・っ!」
「ほう?」
「こ、ここ、今度一緒に買い物に行こうかなぁって・・・!」
「いいね、ツナ様とデートしたーい」
「誰がさせるか、てめぇなんかと」
「うるせーよ、黙れ寸胴」
「殺るか、ペチャパイ」
「えっと・・・・・・他には?」
「みみみ、店を貸しきろうかなって・・・!」
「大体おまえは気に入らないんだよ。家庭教師ってだけでいちいちツナ様にまとわりつきやがって」
「嫉妬してんのか? まぁ所詮てめぇはツナにとってファミリーじゃない無関係者だからな」
「10年も傍にいて何も出来なかった甲斐性なしがよく言うぜ」
「薬や機械で画策しまくってるてめぇに言われたくねぇな」
「お店って、何のですか・・・?」
「ララララララ、ランジェリーショップって言ってました・・・・・・っ!」
ランボの半悲鳴に、いがみ合っていたらしいヴェルデとリボーンのこちらを向いた気配がする。
どこか緊張感を帯びているそれらは、一体どういう理由でだろうか。ざくざく痛い視線は気のせいだろうか。否。縛られている手や足より痛いのは間違いない。
「・・・・・・・・・おい、牛」
「は、はいっ!」
「それは本当か?」
「はい・・・・・・?」
「だから、ツナが俺たちをランジェリーショップに連れてくって言ったのか!?」
「ひぃっ!」
三本になっていた椅子の足が、更に数を減らした。足が撃ち抜かれなかっただけ感謝するべきなのだろうが、到底そうは思えない。
ぷるぷる震えながら、ランボは被せられている袋の下で何度も頷く。
「い、いいいい言ってました・・・っ! アルコバレーノ全員つれて行くって・・・! みんな大きくなって興味あるみたいだから、下着とか揃えてやるんだって・・・・・・っ!」
にこにこ笑いながら話していた綱吉を思い出し、その名を必死で唱えながら。
「ドン・ボンゴレは・・・・・・『俺があいつらに似合うのを選んでやるんだ』って言ってましたぁ・・・・・・・っ!」
ぽつんと残されたその場で、ランボは腹の底から息を吐き出した。
この場を支配していた三人の悪魔はすでに姿を消した。その際に「早く帰ってお肌の手入れをしなきゃ・・・!」とか「豊胸マシーンを作らなきゃ・・・!」とか「あのバカ余計なこと考えやがって・・・!」とか聞こえたが、それも全部過去の話。
命がある。助かった。それだけで幸せだ。そうは思うのだけれども。
「助けて下さぁい・・・・・・ツナさん・・・・・・っ」
めそめそとランボは泣いた。
未だ袋を被せられ椅子に縛られている彼がいつ自由になれるのか、誰も知らない。
2006年2月7日