※捏造ヴェルデ、身体的女性ネタにつきご注意下さい。
女は、0歳でも女、100歳でも女である。
Gunfire girl
「つーなーさーまーぁっ!」
ぽんっと背中に軽い衝撃。次いで耳元で聞こえてきた高い声に、綱吉はうわ、と驚きを漏らした。
首を巡らせば、右肩に少女の顔が乗っている。茶色のふんわりとした髪に、フレーム無しの眼鏡。知己の愛らしい少女に綱吉は笑いかける。
「久しぶり、ヴェルデ。いらっしゃい」
「こんにちは、ツナ様! ヴェルデ、ツナ様に会えなくて寂しかったぁ」
「あはは、本当に久しぶりだよね。今日は一人で来たの?」
「ううん。スカルと一緒」
「スカル?」
首に抱きついているヴェルデをそのままに身体ごと振り向けば、そこにはレイダージャケットの上下にフルフェイスヘルメットを被った小柄な少女が立っている。
綱吉は穏やかな笑顔を浮かべたまま腰をかがめ、ヘルメットに手をかけて、すぽんっと脱がす。
ボブカットのこげ茶の髪が静電気で頬に張り付く。それらを丁寧に払ってやると、スカルは顔を真っ赤にさせて俯いてしまった。
「いらっしゃい、スカル。元気だった?」
「・・・は・・・はい・・・ボ、ボンゴレもお元気そうで・・・・・・」
「俺はそれだけが取り得だからなぁ。二人ともよく来たね―――・・・・・・って!」
ドンッという音と同時にヴェルデとスカルを抱き込み、床に伏せる。第二撃がないのを確認して顔を上げれば、そこには漆黒のスーツを身に纏った発砲者の姿が。
「リボーン、おまえ何やってんだよ?」
「うるせぇ、ダメツナが。そいつらは敵ファミリーだぞ」
「ヴェルデのとことは和解してるだろ。スカルは今はフリーだし」
「だからってやすやすと迎えてんじゃねぇ。今そいつらが銃を取り出したらどうするつもりだ?」
「二人はそんなことしないよな?」
首を傾げて尋ねてくる綱吉に、腕の中でヴェルデは満面の笑みで、スカルは真っ赤な顔で頷いた。
ほら見ろ、と得意げに自分を見てくる綱吉に、リボーンは舌打ちする。このドンはどうも子供に弱いのだ。しかもその原因の大半が幼い頃から共にいる自分の所為だとくれば、今更更生させることも出来ない。
「じゃあ俺の部屋でお茶でも飲む?」
「わーいっ! ツナ様大好きー!」
「あ、ありがとうございます・・・・・・」
「ほら、リボーンもおいで」
右腕はヴェルデ、左手はスカルに独占されているから、向けられたのは微笑みだけだったけれど、リボーンは再度舌打ちして三人の後に続いた。
ちらりと振り返って口角を吊り上げたヴェルデを、いつか蜂の巣にしてやると思いながら。
ドン自ら紅茶を、しかも自分のファミリーじゃない相手に振舞ってくれるだなんて、おそらくイタリア中を探してもボンゴレだけだろう。
慣れた手付きに日常を垣間見る。毒見の手間を省くため、なんてものではない。どう考えても日頃から振舞っている所作だった。
「ごめんな、ケーキしかなくて。二人が来るって判ってたらパティシエに何か作ってもらったんだけど」
ティーセットとケーキを並べて美少女たちに従事する綱吉は、傍から見ればギャルソンにしか見えない。
リボーンはそんな綱吉に深い溜息を吐き出したかった。低姿勢は止めろと言っているのに、何度言っても直りゃしない。
「気にしないで、ツナ様。ヴェルデ、ケーキ大好きだもの」
「お・・・・・・ぼ、ボクも、好きですっ」
「そう? よかった」
微かな違和感にリボーンは無表情の中、片眉を上げる。けれど綱吉はそれに気づかず、鳴り出したデスク上の電話を取った。
「はい、俺だけど。・・・・・・・・・ん、判った。・・・・・・いいよ、後は俺のサインだけなんでしょ? だったら俺が行くから。・・・・・・だから気にしなくていいって。すぐ出るから、獄寺君が来ると行き違いになるよ? ・・・・・・あはは、じゃあね」
穏やかに告げ、子機をスタンドに戻すと今度は済まなそうな顔をする。
本当に、こんなに表情豊かに自分たちと接してくれるのは、ドン・ボンゴレだけだと三人は思う。
「ごめん、ちょっと行ってくるから待ってて。ケーキ食べてていいからな?」
「は、はい・・・・・・」
「いってらっしゃいませ、ツナ様! あ、何か今の奥様みたーいっ」
嬉しそうに笑うヴェルデに、綱吉もそうだね、と朗らかに笑った。その瞬間テーブルの下で漆黒の靴がピンク色のサンダルを踏みつけたが、そんなことは表面にも出ない。
三人に見送られ、綱吉は執務室を後にした。
「で、リボーン」
パタンと扉が閉まるや否や、蹴り返してきたサンダルをリボーンは避ける。
ヒールでふくらはぎを攻撃したヴェルデに、先ほどまでの愛らしさはない。美少女だけれども、浮かんでいるのはどことなく柄の悪い、簡単に言えば性格の悪そうな表情だ。
「黙れ、この二重人格野郎」
「女は裏表があって当然だろ? それが恋する相手を前にすれば尚のこと。仏頂面ばっか晒してるおまえに言われたくないね」
「喧嘩売ってんのか? なら高く買ってやるぜ」
「いいね、ツナ様にまとわりつく邪魔者が一人減るわけだ。受けて立つよ」
リボーンが銃の安全装置を外し、ヴェルデが何を取り出すのかジャケットの懐に手を入れる。
それを慌てて止めたのは、おろおろと冷めていく紅茶と二人を見比べていたスカルだ。
「ちょっ・・・ふ、二人とも止めて下さい! ヴェルデ先輩、今日はリボーン先輩と戦うために来たんじゃないでしょう!?」
「あぁ・・・・・・そういえばそうだっけ」
ヴェルデは面倒くさそうに呟き、懐から手を引く。リボーンはそんな様子を確認してから銃を収めた。
代わりにほとんど冷めてしまった紅茶のカップを手に取り、口をつける。ウバの渋みが心地よい。
「で、リボーン。おまえ生理きた?」
スカルはその瞬間、勢いよく紅茶を噴出すリボーンというハワイで雪が降るようなレアな光景を目の当たりにした。
漆黒のスーツと赤いシャツに染みが出来てる。布巾を差し出せば大人しく受け取ったあたりに、動揺の度合いが現れているというものだ。
「ヴェルデ・・・・・・てめぇ、何のつもりだ・・・・・・っ」
「何って単刀直入に聞いただけだけど。あぁ、生理の意味が判らなかった? だったら説明するけど―――・・・・・・」
「すんな! それくらい知ってる!」
机を叩くリボーンというこれまた珍しいものをスカルは見た。
僅かながら肩で息をしている彼女の様子が楽しいのか、ヴェルデはそれはそれは嬉しそうに笑っている。
この変態野郎、というリボーンの呟きは、もちろん耳に入っているだろうに。
「で、どう? 来た? 来てない?」
「てめぇに関係ねぇだろ」
「今の反応は『ヴェルデ特製真偽ハンダダーン』によってノーと判断された。ってことは、リボーンもまだか」
そんな怪しい機械の持ち込みを見抜けなかったなんて、ボンゴレの警備は何やってんだ、とリボーンは後で彼らを再教育しようと誓った。
「・・・・・・『も』ってことは、てめぇもまだか」
「まぁ、隠すほどのことでもないし。ちなみにスカルもまだだね」
話題のスカルは顔を真っ赤に染めるが、彼女たちはまだ11歳と10歳。特殊な状況下にいることを考えれば、来ている方が早いくらいである。
だったら何だ、とリボーンが忌々しげに問おうとした瞬間。
「だけど、コロネロは来たらしいんだよ」
ウェッジウッドの、ドン・ボンゴレのために作られた一点物のティーカップにヒビが入るのをスカルは見た。
あわあわとそれを訴えようとするが、手にしているリボーンは力を込めてさらに被害を大きくするばかり。
「ってことで、絶対にコロネロとツナ様を会わせるなよ」
いつの間にか紅茶もケーキも平らげていたヴェルデは、低いテーブルに行儀悪く両足を載せる。
「生理が来たってことは子供が産めるってことだ。あいつのことだから無理やりツナ様を押し倒して既成事実も作りかねない」
「あ、あの・・・・・・コロネロ先輩は、そんなことはしないかと・・・・・・」
「甘いね、スカル。コロネロは軍人だ」
「軍人だからこそ、人道にもとるようなことはしないんじゃないかと・・・・・・」
「甘い! スカル、おまえコロネロが今どこにいるのか知らないだろ!?」
「―――『CAT』だな」
ついにカップが壊れた。ごめんなさいボンゴレ、とスカルは自分がしたことではないのに謝罪する。
「女だけで構成された、アメリカ海軍の特殊部隊。今はそこの指導官をしているはずだ」
「年上の女に囲まれて、いらない知識を身につけてるに違いないね」
「ツナは押しに弱い。しかも不味いことに子供には更に弱ぇ」
「強引に持ち込まれたら、たぶんツナ様は断れない。ってことでリボーン、絶対に会わせるなよ」
「てめぇに言われるまでもねぇ」
密約を交わす二人が恐ろしい。アルコバレーノの中でも生まれの遅いスカルにとって、リボーンやヴェルデ、コロネロは逆らうのが危険な部類に属する人だ。
けれどここまで妨害するのはどうかと思う。コロネロの恋愛を無碍にしすぎてはいないだろうか。あぁ、でも。
「コロネロ先輩・・・・・・確かに、スタイルいいですもんね・・・・・・」
ぽつん、とスカルは無意識のうちに言葉を漏らしていた。
「もう、ブラジャーもしてるみたいだし」
己の思考に沈んでいたスカルは、何だかやけに部屋が寒いことに気づき顔を上げた。
刹那、可哀想なくらい肩を震わせる。彼女の前にいるのは先輩二人ではない。般若二匹だ。
「へぇ・・・・・・あいつ、もうそこまで成長してるわけ」
ゆらぁり、とヴェルデが茶色の髪を揺らしながら立ち上がる。
「コロネロのくせに・・・・・・生意気だな」
くくく、とリボーンが漆黒の帽子を引き下げて笑い声を上げる。
あぁ、うわ、というスカルの悲鳴はもう届かない。
展開されるのは乙女の戦場、それだけだ。
「・・・・・・何してるの、綱吉」
「あ、雲雀さん」
己の執務室のドアに寄りかかり、床に座り込んでいるドンを雲雀は呆れたような眼差しで見下ろした。
綱吉の手には作りたてと思われるバナナのベニエがあり、彼は行儀悪くそれをつまみながら、執務室を指差す。
「盛り上がってるみたいだから、邪魔するのも悪くて」
「ふーん?」
分厚い扉に視線を移せば、その向こうから騒がしい声が聞こえてくる。耳を切り裂くような子供の声に、雲雀はあからさまに眉を顰めた。
その中にはリボーンの声もあって、彼女が騒ぐのは珍しいと思うけれども。
「・・・・・・・・・馬鹿らしい話をしてるね」
心底そう思っているらしい声音に、綱吉は苦笑する。
「つーかヴェルデ! てめぇスポーツブラする必要ねぇだろ!」
「だったらリボーン、おまえこそ尻をどうにかしろよ! 全然柔らかくないしそれじゃ男だね!」
「あ、あの、二人とも・・・・・・」
「スカル、てめぇも脱げ!」
「え、ええ!? 何で俺まで・・・っ」
「ちくしょう、アルコバレーノ全員のスリーサイズを調べ上げてやる・・・! 見てろ、コロネロ! このヴェルデ様を怒らせた罪は重いよ・・・!」
「うわっ・・・・・・や、止めて下さいーっ!」
「「黙れ、パシリ!」」
怒号やら悲鳴やらを聞きつつ、綱吉はしみじみと呟く。
「あいつらも、もうこんなに大きくなったんだなぁ・・・・・・」
その目は間違いなく『父親』の目だったと、後に雲雀は語った。
少女たちの戦いは、まだまだ続く。
2006年1月26日