今日は右腕(候補)の獄寺が委員会で、友達の山本が部活で、綱吉はいたって平和な放課後を手に入れた。あの家庭教師が来てから早五年、遠ざかっていた平穏がとても愛おしいものに感じられる。
「っていうか、これが普通なはずなのになぁ・・・・・・」
どこでどう間違ったんだろう・・・・・・。とても今更なことだが、綱吉は思わず遠い空を見上げてしまった。
とにかく今日はさっさと帰ろう。でも帰るとランボたちがうるさいから、どこかで適当に時間を潰して。
久しぶりの自由な時間をどう使おうか。わくわくしながら昇降口を出て正門へ向かう途中、綱吉は何だか周囲がざわついているのに気づいた。
下校途中の生徒たちが、一様に門のところで動揺している。何かに気づき、驚き、ひそひそと囁きながら通り過ぎていく。
ときどき歓声が聞こえることからきっと悪いことではないのだろうけれど、綱吉は何だか嫌な予感がした。
己の直感に従い、出来る限り小さくなって人に紛れながら門を通り過ぎようとして。
ちらっと垣間見えた姿に、あんぐりと口を開けてしまう。
「・・・・・・コ、コロネロ!?」
「遅せーぞ、コラ」
一年ぶりに会う知り合いに、綱吉は自分の中のブラッド・オブ・ボンゴレが一段と鋭さを増しているのに気づいてしまった。
・・・・・・あぁ、やっぱり卒業後はマフィアかなぁ、とも。





BANG!





綱吉が最後にコロネロと会ったのは、一年前に遊びに行ったマフィアランドだった。
リボーンと同じ年ということは、コロネロは今年で六歳になるはず。けれどそうとは思えないほどに、目の前の少女は成長している。
すんなりと伸びた手足に、まだ丸みはないけれど細い身体。太陽のような金髪は相変わらずショートカットで、青い瞳もそのままだけれど。
それでも小学校高学年に見えるほど、コロネロは大きくなっていた。
「おっ・・・・・・まえ、大きくなったなぁ」
思わず久しぶりに会った親戚のような台詞を言うと、コロネロはどこか拗ねたようにそっぽ向く。
綱吉はそれに気を悪くした様子もなく、彼女の方へと近づいた。
「どうしたんだよ、急に。今日はマフィアランドは?」
「休みだ、コラ。俺だって年中働いてるわけじゃねぇ」
「こらこら、女の子がそんな言葉遣いしない」
自宅にいるリボーンで慣れているものの、容姿が美少女で口を開けばこの言葉の悪さ。綱吉が思わず注意すると、コロネロは眉を顰める。
「俺に命令すんな、コラ」
「でも勿体無いだろ、せっかく可愛いのに」
素直に告げたのに何故か黙られてしまい、綱吉は首を傾げる。
俯いたコロネロの顔は見えず、ひょっとしてセクハラだったかな、と己の台詞を思い返していると、どこかから口笛の音が聞こえてきた。
そこで綱吉はようやく、ここが正門だったことを思い出す。
コロネロ一人でも注目を集めていたのに、自分がその知り合いだということでさらに視線が増えている。
ちょうど通りかかったらしいクラスメイトにからかいの声をかけられ、綱吉は苦笑せざるを得なかった。
「沢田、彼女かー?」
「いや、違うって」
「可愛いじゃん。ロリコン?」
「だから違うって」
「えーっ! 沢田がロリコンだとちょっとショックかもー」
「だからぁ」
中学時代はダメツナと呼ばれていたけれど、リボーンの教育の所為か、高校ではそれなりにまともな成績を収められるようになり、友達も増えた。
かけられる声はどれもふざけたものだけど悪意はなく、綱吉も笑って返す。
けれどがしっと右腕がいきなり重くなり、何かと思って見下ろせば、真下に見える金色。
押し付けられている胸はぺたんこで、そういえばまだ六歳だっけ、と考えている内に。
「こいつは俺のだ。何か文句あるか、コラ」
うわぁ、と綱吉は遠い空を眺め、目を丸くさせたクラスメイトたちは次の瞬間に大爆笑。
とにかくこの場を去るべし、と引っ付いたコロネロを引きずって、綱吉はさっさと正門を後にした。



明日学校に行ったらロリコン疑惑が広まってるかもしれない。
考えただけで溜息をつきたくなり、綱吉は実際に大きく息を吐き出した。
まだ腕にしがみついたままのコロネロが、それに気づいて不機嫌そうに顔を歪める。
「おいボンゴレ、失礼だぞ」
「失礼も何もさぁ・・・・・・大体何しに来たんだよ、コロネロ」
「来ちゃ悪いのか、コラ」
「悪くはないけど、リボーンなら家だぞ? 中学の頃はともかく、高校にはあんまり来ないんだ」
「・・・・・・別にあいつに会いに来たわけじゃねぇ」
ぼそりとした呟きに綱吉は首を傾げる。けれどまぁいいか、とさらっと流してしまえるところにも、教育の成果が現れていた。
よく言えば臨機応変、悪く言えば諦めが早い。見事な処理能力の早さである。
「それにしてもコロネロ、今日は迷彩服じゃないんだな」
引っ付いている少女は、オレンジ色のキャミソールにグリーンのミニスカート、それに白いカーディガンを羽織っている。
バンダナもしていなくて、持っているのもライフルではなく斜めにかけられたポシェットのみ。
どこからどう見てもマフィアなんかではなく、美少女以外の何者でもない。
「そういう格好も似合うな。可愛いよ」
にこり、という綱吉の微笑に、コロネロの顔が真っ赤に染まった。
「とっ・・・・・・当然だ、コラ!」
「なのにその言葉遣いだもんなぁ・・・・・・。せっかくの美少女が勿体無い」
「・・・・・・!」
りんごほっぺが、今度は耳の端まで赤くなる。
「いたたっ! コロネロ、痛いって!」
かと思えば腕を握り締めている手に力がこもり、堪らず綱吉は悲鳴を上げた。
幼い子供と侮れない。どんなに小さくて可愛くても、元海軍は伊達じゃないのだ。
「・・・・・・・・・リボーンは」
ぼそっと、小さな声でコロネロが聞く。
「リボーンは、こんな格好はしないのか」
「リボーン?」
こくりと頷くコロネロに、綱吉は己の家庭教師を思い返す。
今年六歳になる少女。相変わらずやることは突拍子もないし、すぐに銃を向けるし、容赦のない行動ばかり。
そんな彼女は常に黒のパンツスーツを纏っている。それ以外では、服とは言いがたいコスプレの衣装を着ているのしか綱吉は見たことがなかった。
「リボーンのスカート姿なんて見たことないよ、俺。あいつもコロネロみたいな格好すれば、ちょっとは女らしく見えるんだろうけど」
「・・・・・・脅えてんだな、コラ」
「んー? 何か言った?」
「何でもねぇ」
綱吉にそう言いつつも、コロネロは心中でリボーンを笑った。
きっとあいつは傍にいすぎて身動きが取れなくなってしまったのだろう。今更自分を飾ろうにも恥ずかしくて出来ない。関係を変えようにも、拒まれるのが怖くて出来ない。
そんな彼女を馬鹿だと思うと同時に、コロネロはどこか共感も覚えた。
自分たちは呪われた子供、アルコバレーノだ。血塗られた運命を辿る。だからきっと、望む資格なんてない。
愛される資格はもとより、愛する資格だってない。そうは思うのだけれど。
でも・・・・・・・・・やっぱり。
「ボンゴレ!」
「うわっ! な、何だよ?」
いきなり耳元で叫ばれたかと思うと、やっぱり少女とは思えない力で引っ張られて。そして。

「覚悟しとけよっ、コラ!」

ちゅっ、と柔らかな感触が頬に一つ。
目を見開いた綱吉に、コロネロはにやりと笑った。
資格なんてなかろうと、欲しいのだから遠慮はしない。そう心で誓いながら。



この後、引っ付いたコロネロをそのままに帰宅した綱吉を見て、リボーンが銃を乱射するのだけれども、それはまた別のお話。





2006年1月20日