三年かけて、ようやく。ようやく辿り着いた舞台は、テレビで見ていたよりも輝いて見える。緑の芝、茶色の土。砂を持って帰るつもりはない。あと一つの勝利でその願いが果たされる。まもなく始まる決勝戦を前に、ベンチ入りしている一・二年生たちは緊張が極限に達していた。三塁側ベンチの敵チームがやけに強く見えて仕方がない。震え始めた手をグローブで隠していると、決めた、と10人しかいない三年生の一人が声を上げた。
「決めた! 俺、この試合でホームランを打つ! ゲンミツに!」
ぎょっとしてベンチの中にいた全員が振り返る。一年生の頃から、何か理由があるときを除いて常に四番に座ってきた田島は、きらきらとした瞳でバッドを握り締めている。
「俺だって花井ほどじゃないけど三年ででかくなったし、今ならホームランも打てる! っつーか打つ!」
高校時代にホームラン一本も打ってない四番なんて嫌だ、と田島は大声で主張する。この決勝の舞台でなんて大それたことを、と後輩たちはおののいたが、三年生たちはすぐに我を取り戻し、それぞれに田島らしいと笑った。
「じゃあ俺は、先頭打者として必ず塁に出るぜ」
いっそ三塁打でも狙うかな、と泉が笑った。はい次、と手にしていたスポーツ飲料のボトルが隣の栄口に渡される。
「え、えっと、じゃあ俺は、指示されたバントは全部成功させて、ランナーを次の塁に進ませる」
出来るかな、と弱気な言葉に、出来るって、と数多くの声が飛んだ。ボトルは三番打者の巣山に渡される。
「俺は常にダブルプレーを狙う。沖もちゃんと取ってくれよ?」
うえ、と沖が情けない声を出した。ボトルは花井に回され、決勝戦を前にこんなことを言っていていいのかと逡巡していたキャプテンは咳払いをひとつした。
「・・・・・・俺は、田島に続いてホームランを打つ」
「おーっ!」
「だからおまえも必ず打てよ!」
「もちろん! やるよ俺は、ゲンミツに!」
あはは、と笑い声が上がる。徐々に後輩たちの緊張もほぐれてきた中、ボトルを受け取った水谷は笑顔のままだ。
「俺はー相手投手の決め球のスライダーを打つこと」
はい、とボトルが沖に回される。
「ええと、じゃあ俺は盗塁を決めること」
ボトルが隣の西広に回される。戸惑っていたが、チームメイトの視線を受けてボトルをきゅっと握り締めた。
「僕は、いけると思ったら大胆にコーチャーの指示を出す。それと試合に出ることがあれば、全力を尽くすよ」
はい、と渡されたボトルを阿部が受け取った。すでにキャッチャーの防具をつけていた阿部は、にやりとあくどいと評される笑みを浮かべる。
「相手の四番を全打席三振に取る。一塁ベースは踏ませねぇ」
「おーっ!」
「ほら、三橋」
「え、あ、うおっ」
チームメイトの手を経てきたボトルを受け取り、三橋はごくりと唾を飲み込む。しばらくじっと俯いていたけれど、顔を上げて一度スコアボードを見やり、三年前よりは格段にはっきりとした声で誓った。
「俺、は、九回裏を三人で終わらせる、よ」
「よっしゃ! みんな約束だからなっ!」
田島の叫びに審判が整列を促す声が重なる。一・二年生が駆け出し、三年生もそれぞれに帽子を手に取り、走り出していく最中、彼らはベンチを振り向いた。首を傾げる監督の百枝と顧問の志賀、マネージャーの篠岡に笑顔を向けて。
「優勝旗は、俺たちが必ず手に入れるから!」
頼もしい笑顔に試合開始のサイレンが鳴る。暑い暑い夏の日、最後の戦いが始まった。
後悔しない、団結したあの夏
(すべてが僕らの誇りになる。)
2007年8月5日