成長は組がタイムトラベルしたようです。(第1話、事の始まり)





「おまえたちを集めたのは他でもない・・・」
学園長の言葉に、庵に集められている誰もがごくりと唾を飲みこむ。
「授業数が足りんのを補習で補うためじゃ!」
かっと両目を剥いて宣言された内容に、途端に場がしらける。言ってのけた学園長だけは良い仕事をしたと言わんばかりに額の汗を拭っているが、もはやきり丸などは正座していた足を崩して欠伸までし始める始末だ。後ろから土井が拳骨を落としているけれども、その隣の兵太夫でさえやってらんないと言わんばかりに肩を竦めて目を平らにしているのだから、ふたりの態度はまさには組の心情を物語っている。だがしかし、流石に学級委員である庄左ヱ門だけは愛も変わらず冷静だった。
「学園長先生、僕たちの授業数が足りないんですか?」
「うむ。実技はともかく、座学がのう。い組やろ組に比べると半分も進んどらん」
「ですが、教科書の内容はすべて教わり済みです。テストの結果はともかく」
「土井先生や山田先生が実習の際に、折に触れて教え込んでいるからのう・・・。おまえたち、先生方に感謝するんじゃぞ」
「「「「せんせーいつもありがとうございまーす!」」」
「こんな時ばかり息を揃えおって・・・」
狙っていたわけでもなかろうに、は組の生徒全員が感謝を口にする。けれども逆に土井と山田は額を手のひらで押さえて項垂れてしまった。土井に関してはもう片方の手を腹に当てているので、胃がしくしくと痛んでいるのかもしれない。大丈夫ですか先生、と声をかけるのは結局のところ六年間保健委員を務めることになってしまった乱太郎だ。
「知識はあっても、単位不足だけはどうにもならん」
「確かに僕たち、実践ばかりで授業を全然受けれてないもんね」
「でもそれって僕たちのせいじゃなくない? 実習で校外に出る度に何でかいろいろ巻き込まれてさ」
「この前の城攻めはちょっとどきどきしたなぁ」
「俺としてはその前の合戦が為になったけど。やっぱり経験に勝るもんはないよ」
「でも夏にあった潜入捜査も慎重さを学ぶ良い機会だったし・・・」
「ええい! だからそれがいかんと言っとるのじゃ! まったくおまえたちは外に出る度に問題をひょいひょいと拾ってきて! 忍術学園はよろずやではないのじゃぞ!」
和気藹々と盛り上がり始めた生徒たちに、ついに学園長が声を張り上げて目の前にあった将棋の盤をちゃぶ台返ししようとする。けれどもそれは、冷静な庄左ヱ門が前もって抑え込んでいたことで事なきを得た。やり場のなくなった衝動を持て余してわきわきと動く手を、学園長の隣からヘムヘムは気の毒そうな目で眺めている。えーと、と伊助が咳払いして場を正した。
「つまり学園長先生は、僕たちの座学の単位数を補習で補ってくださる、そういうわけですか?」
「うむ!」
「げぇ、アルバイトの時間が減る」
「こら、我儘を言うんじゃない! 拾ってもらえるだけありがたく思え!」
再度土井の拳骨がきり丸の頭に落とされた。けれども今度は似たようなことを口にしようとしたらしい団蔵にも前もって落とされ、ぐぐぐ、と頭を押さえるふたりに三治郎が「黙っていれば分からないのに」と苦笑している。
「ですが学園長先生、僕たちはもう六年生です。授業のほとんどは実技で組まれていますし、日数をかけた実習もあります。座学の補習にそう時間が取れるとは思えません」
「庄ちゃん、相変わらず冷静ね」
「うむ、確かに庄左ヱ門の言う通りじゃ。よって六年は組には、座学の代わりに実習で単位を補ってもらうとする」
「それは本末転倒じゃない?」
「だったら今までの実践を単位に当ててくれても・・・」
「ええい、わしがそうすると言ったらそうするんじゃ!」
「ええー・・・」
相変わらずの発言に、金吾や虎若が呆れ返る。しかし喜三太やしんべヱは逆に顔を見合わせて無邪気な笑顔を浮かべ合った。
「でも良かったねぇ、実習で」
「だったら僕たちもちゃんと出来そうだもんねぇ」
「・・・果たしてそうかのう?」
ぐふふふ、と学園長が笑った。は組全員が顔を見合わせ、土井と山田がやはり溜息を吐き出して頭を押さえる。庵の外からは、狼の遠吠えが聞こえた。月が空に昇り、夜が一層更けていく。



「補習の内容を発表する」
忍び装束を着替える。六年生を象徴する緑色から、所属をあらわにしない黒へと。
「わしが、これからおまえたちをある場所へと送り届ける。その場所から、これと同じものを取ってくるのじゃ」
掲げられたのはギヤマンに似た、透明な丸い玉。片方の手に載らないこともないが、若干の重さがある。
「どのような場所なのか、玉がどこにあるのか、それを調べるのもおまえたちの仕事」
刀を差す。薬瓶を持つ。苦無を、縄を、使い慣れた武器を懐に隠す。
「猶予は一晩」
覆面を鼻先まで引き上げ、頭巾をきつく結ぶ。
「明日の夜が明けるとき。それがおまえたちの刻限じゃ」
並び立つ姿に不安はない。それだけの実践を踏んできた。五年前の在り様からでは想像も出来なかっただろう成長を果たした。
「ひとりでも欠けてはならん。同時に、ひとりでも欠かしてはならん。心して行くがいい」
掲げられた玉に、団蔵が手を置いた。次いで金吾が、虎若が触れる。指先が重なるように乱太郎が、きり丸が、しんべヱが触り、喜三太と兵太夫、三治郎と伊助が手を伸ばす。玉はすでにほとんどの面が掌に覆われ、残されているのは真上の小さな隙間だけだった。透明な輝きが奥底を見せない。最後に、庄左ヱ門が覆い隠すように手を置いた。
その瞬間、眩い輝きが閃光となって庵を貫いた。全員がはっとして手を離そうとするが、もう遅い。強制的な力が、光が、十一人を包む込む。
「ぐっどらっくじゃ!」
学園長の楽しげな励ましと、頑張ってこい、気を付けるんだぞ、という担任教師ふたりの声を最後に、彼らの意識は霧散した。



忍術学園六年は組。
かつては「阿呆のは組」と呼ばれていたが、学年が上がるにつれ落第者が出て来る学園の中で、十一人全員が六年生に進級した開校以来初めての学級。
一が実践、二に実践。三・四が実践で、五に実技。トラブルメーカーの名は伊達ではなく、学園内外の問題はすべては組が発端となっていると言っても過言ではない。一年生の頃から自然に野外実践ばかりを積んできたため、実力は確か。座学の知識は身を持って学んできたまさに体験型学習。
各々の腕が立つため、後輩からは憧れられている。しかし現在でも教師陣の胃痛の理由を専ら独占している、問題児ばかりの学級である。



え、と呟けたのは果たして誰だったか。ふわっとした感覚は間違いなく浮遊感で、次いで迫り来る重力の気配に思わず身を固くする。だが、これでも忍者の卵だ。地面との距離を測って受け身の態勢を整える。その間、周囲を見回すことが出来たのは庄左ヱ門ときり丸のふたりだけだった。彼らはは組において、常に最低限の観察と警戒を周囲に配る、司令塔の役目を担っている。
無音に近く、九人が着地した。喜三太は壺を割らないよう両腕に抱えていたため調子を崩し、はにゃ、と小さく声を挙げる。しんべヱが顔から突っ込みそうになったのを、慌てて虎若と団蔵が両脇から支えた。息をひそめて周囲を窺うが、門番や誰かに見つかった気配はしない。ふう、と兵太夫が息を吐き出す。ひゅん、と飛んだのは、は組にしか分からないように定めた矢羽根だ。
(三治郎、第三者の気配は?)
庄左ヱ門の問いかけに、三治郎は地面に身を倒し、その耳をぴたりと大地にくっつける。休みの度に、山伏である父親について修行を重ねている成果なのだろう。聴力と視力において、は組で三治郎に敵う者はいない。故に足の速さも手伝って、偵察や敵索は三治郎の得意分野だ。大地を通して周囲に第三者の足音や気配がないことを調べ、三治郎が指で丸を描く。ふっと全員から緊張が抜けた。
「・・・というか、ここって」
伊助の声に、全員が顔を上げる。目の前にある大きな門は。
「忍術学園?」
見慣れた学園の門だ。閂が見えないし、達筆な看板が飾られているところからしても、敷地内ではなく外のようだ。時間は夜。空には月があり、あまり時は経っていないと思われる。何だ、と虎若が筋肉質な肩を竦めた。
「学園長が送ってくれるっていうから、どこに連れて行かれるのかと思ったら」
「っていうか、学園長いないじゃん」
「あのギヤマンみたいなの、何だったんだろうね。凄い光だったけど」
団蔵が周囲を見回し、乱太郎が首を傾げる。自分たちは先ほど実習のために準備して庵に集まったままの姿だが、そこに道案内をしてくれるはずだった学園長の姿がないのだ。仕方ない、と金吾が立ち上がる。
「一回庵に戻って、学園長にどこに行けばいいのか聞こう」
「それしかないよね。どうせ移動に格好いい術とか使おうとして失敗したんだろうし」
まったく、と言って兵太夫も立ち上がる。だが、それに待ったをかけたのは庄左ヱ門だった。彼の表情は地面に降り立ったときから一貫して厳しかった。
「きり丸」
「おう」
短い応えを返して、きり丸の姿が消える。しかしその影は学校の壁を超えることはなく、逆に手近な木の枝へと飛び乗ったようだった。下から見えるようなへまはせず、葉に隠れている姿は完全に夜と同化している。少しして静かに降りてきたきり丸の表情は、やはり庄左ヱ門と同じく険しかった。細い眉の合間に皺を刻んでいる。
「飼育小屋」
「分かった。虎若、ついてきて」
端的に言葉を返して、今度は庄左ヱ門が木の上へと消えていった。虎若は逡巡していたが、きり丸が顎で示したために同じように木を伝っていく。三治郎はその間もずっと大地に伏せたまま、第三者の存在を警戒していた。どうしたの、と伊助が尋ねるが、きり丸は答えない。そうして降りてきた庄左ヱ門だけでなく、今度は虎若も少しばかり表情を変えていた。不思議そうな、訳が分からないといった顔である。
「何かあったの?」
しんべヱの問いかけに、庄左ヱ門が口を開く。
「飼育小屋がないんだ」
「はぁ?」
首を傾げたのは、庄左ヱ門ときり丸、虎若以外の全員だった。腕を組み、顎に拳を当て、考え込むようにして庄左ヱ門は続ける。
「僕たちが五年生のとき、飼育小屋を増設しただろう?」
「あ、それって僕やしんべヱたち用具委員が手伝ったやつ?」
「そう。それがないんだ。虎若にも確認してもらった。角度的な問題で見えないんじゃない。実際に小屋が存在しないんだ」
「壊したっけ?」
「まさか! あそこは毒虫以外の子たちがいるんだから、もっと増設したいくらいだよ」
虎若が首を振って否定する。おそらく最初に落下してきた際に違和感を覚えていたのだろう。それを確認するために、庄左ヱ門は当の生物委員会委員長である虎若を連れて木に登ったのだ。同じく気づいていたらしいきり丸は、立ち上がって学園の門へと歩み寄っている。看板をなぞり、札を上下左右から眺めまわしているのは、おそらく本物かどうかの確認をしているのだろう。こちらも検分するような、警戒した表情だ。庄左ヱ門が現状を確認しながら、ひとつひとつ言葉を紡ぐ。
「学園長先生は言っていた。『これからおまえたちをある場所へと送り届ける』と」
「うん」
「そしてギヤマンの玉が光って、僕たちは庵の外に放り出された。それから学園長先生の姿はない」
「うん」
「つまり僕たちは『送り届けられた』んだ。さっきまでいたのとは違う場所に」
眉を顰めた者が数名、首を傾げた者が数名。きり丸が戻ってきて、本物だと思うぜ、と看板を後ろに指さして告げる。月に雲がかかり、僅かに全員の顔が闇に沈んだ。
「可能性を検討しよう。兵太夫、喜三太、しんべヱ。飼育小屋を一瞬で解体できる?」
「無理だね」
「無理だよー」
「っていうか、俺たちが薬か何かで何日か気を失ってたってことはないのか?」
「え? 私に効く薬なんて、そうそうないと思うけどなぁ・・・」
保健委員会委員長として、否応なしに薬への耐性をつけてしまった乱太郎が首を傾げる。手のひらを握ったり開いたりを繰り返すが、特に違和感はない。意識が朧だという感じもしないし、身体に異変は見つけられない。見上げる月の角度からいって、庵にいたときから一刻も経ってはいないだろう。周囲の木々の葉盛りも、生えている植物も空気の具合も、季節を変えたとは思えない。一日二日ならともかく、それ以上の月日は経っていないだろう。だとしても仮にも忍者の卵である自分たちが、そうそう何日も意識を奪われることなど有り得ないはずだ。少なくとも誰かひとりくらいは先に目覚めたって良いだろうに、それもなかった。
沈黙が皆の間を支配する。何か良く分かんない事態になってる気がする。そう思っている者が大半だったが、こうしていても埒が明かない。
「・・・仕方ないね。ここが昼で町中だったら、そこらへんの人に聞くんだけど」
立ち上がったのは庄左ヱ門だ。学級委員会委員長を務める彼は、こんな状況でも冷静だった。伊助が慌てて問いかける。
「ちょっと庄ちゃん、何する気?」
「とりあえず今が何年の何月何日なのか、ここは本当に忍術学園なのか。それが分からないと動きようがないからね」
「・・・誰に聞くの? こんな夜更けに、それにここが敵の屋敷なら危険すぎるよ」
「大丈夫。看板は学園のものみたいだし、ここが仮に忍術学園を模しているのだとしたら、適当な人物がいるはずじゃないか」
にこ、と庄左ヱ門は笑う。うげ、と呻いたのは団蔵だ。性質の悪い顔してるぜ、ときり丸が視線を逸らし、金吾も虎若も同じく顔を背ける。けれども庄左ヱ門はにこりと微笑み、あっさりと言ってのけたのだ。大丈夫、勝算はあるさ、と。



黒木庄左ヱ門
六年は組の学級委員長。学級委員長委員会委員長。
成績優秀、沈着冷静、は組の頭脳であり司令塔。どこかマイペースな冷静っぷりは磨きがかかり尚も健在。要領よく物事をこなしていくきり丸に対し、四年生くらいのときに対抗心を燃やして一時険悪な仲に陥ったが、今では「他人は他人、僕は僕だ」と完全に割り切り、きり丸のその要領の良ささえ組み込んだ策を立てるまでになった。
卒業後の進路は、弟の庄二郎が実家を継いでくれるのなら、外国との交易のある城仕えを希望。いずれは船に乗り、他国を学んでみたいと考えている。



うにゃ、と小松田秀作は起き上がった。いつもだったら朝までぐっすりと夢の中にいる彼がこんな夜更けに目を覚ましたのは、もはや才能と言っても良いかもしれない。夜着一枚のまま立ち上がり、ふらふらと縁側を辿って草履をつっかける。そうして夢うつつに辿り着いたのは、小松田が日中の仕事場としている学園の門の前だった。こんこん、と外から控えめな音が鳴っている。はぁい、と寝ぼけながら声を返して木戸を開いた。暗くて良く分からないが、男がひとり、立っている。
「こんばんは。遅くにすみません」
「はぁい・・・どちらさまですかー・・・?」
「学園長先生のお招きで馳せ参じました、饅頭屋の者です。本当は今日の夕方に着くはずだったんですが、道に迷ってこんな時間になってしまいまして。こちらは忍術学園でいいんですよね?」
「はぁい、忍術学園ですー・・・。じゃあ、こちらの入門票にサインをお願いしますー・・・」
いつものように紙と筆を手渡せば、分かりました、と男が頷く。纏っている着物は町で流行の柄で、歳は今年十六になる小松田と同じか、落ち着いているから少し上かもしれない。筆を走らせようとした男は一瞬手を止め、困ったように尋ねてくる。
「すみません、今日は何年の何月何日でしたっけ?」
「えーと、今日は・・・」
小松田が告げれば、男はにこっと微笑みその年号と日付を書き込んだ。
「兄弟十一人で来たので、全員分の名前を書いておきますね」
「ありがとうございますー・・・」
「今日は学園の生徒さんは全員いらっしゃるんですか?」
「うーん・・・確か、一年生は、い組もろ組もは組も、みんな兵庫第三協栄丸さんのところに行っちゃってるはずです・・・」
「そうなんですか。夜分に起こしてしまい申し訳ありませんでした。私たちも近くの縁側をお借りして仮眠を取らせていただきますね、また朝に学園長先生に御挨拶に伺います」
「はぁい、じゃあおやすみなさいー・・・」
「ええ、良い夢を。おやすみなさい」
小松田さん。男がそう言って微笑み、書き込みの終わった入門票を返してくる。それを胸に抱えつつ、迫り来る睡魔に耐え切れず小松田はうつらうつらと頭を左右に揺らし始めた。眠い。眠くて堪らない。いつもより強い眠気の中で、ふと思い返す。あれ? 僕、自分の名前、教えたっけ、と。まぁいいや、と思うと同時に小松田の意識は完全に飲みこまれた。彼の腕の中には、「饅頭一郎、二郎、三郎、四郎、五郎、六郎、七郎、八郎、九郎、十郎、十一美」と記名された入門票だけが、大事そうに抱えられていた。
崩れ落ちた身体を抱き留め、庄左ヱ門は覆面を再度鼻の上まで引き上げる。両腕で抱え上げたのは、今の庄左ヱ門よりも小柄な年配者の身体だ。
「乱太郎、薬は少し強めにしておいて。少なくとも三日は眠り続けるくらいに」
「・・・いいの?」
「僕は小松田さんを過小評価しないよ。『侵入者』に対する嗅覚と入門票に懸ける執念は超一流だ。サインはしたから大丈夫だとは思うけど、一応ね」
「分かった。任せて」
懐から小さな包みを取り出して、もう片方の手で広げた扇でふわりと風を起こす。角度的に小松田にしか当たらぬよう調節した上での行いだ。鼻から、少し開いた唇から、皮膚から、吸い込まれていく薬は強力な眠り薬だ。猪ですら昏倒するらしいそれを丁重に加減し、十分に吸わせた後に乱太郎は小松田の身体を受け取った。どこに寝かせておこうか。出来れば彼の自室が良いのだが、流石に職員長屋まで行く気にはなれない。仕方がないので門の横にある小さな受付小屋の引き戸を開け、中に寝かせておくことにした。幸いにも薄い布団があったので、それを全身にかけておく。ごめんなさい、小松田さん。謝ってから乱太郎は静かに小屋の戸を閉めた。
「・・・さて。これで皆、現状は理解出来たよね?」
振り向き、闇の中に向かって問いかける。忍者の卵としてまだ疑うことは出来るけれども、そんなことよりもは組は自身の直感を重視していた。すなわち自分で見て、聞いて、判断したものを信じるのだ。そうして目撃した小松田は、本物だと誰もが思った。しかし彼は小さかったのだ。自分たちと同じくらいの背丈でしかない。あれではまるで、見上げていた昔と変わらない。
「小松田さんの告げた年号。それが正しいというのなら」
庄左ヱ門の声が、始まりの鐘のように鳴り響く。
「僕らは時を遡ってきたんだよ。僕たちが一年生だった、五年も前にね」





定番設定ですが、一度お送りしてみたかったのです。
2013年3月31日(pixiv掲載2012年1月8日)