よいお年を!





「滝夜叉丸先輩は、お正月は実家に帰るんですか?」
体育委員会の帰り、今日も今日とて委員長のマラソンとバレーボールに付き合わされてぐったりとした後輩を長屋へと送っていく途中、滝夜叉丸は投げかけられた問いに隣を向いた。少し下からは一年生の金吾が見上げてきている。彼はこの夏、滝夜叉丸の実家に世話になった経緯から、滝夜叉丸が本当は「少年」ではなく「少女」であることを知っている数少ない人物だ。忍術学園内では教師を抜かせば唯一の相手でもある。だからこそ人気のないときには、個人的な会話もするような仲になっていた。
「新年の集まりがあるからな。明日の朝には学園を発つ」
「そうなんですか」
「金吾は居残りか?」
「はい。だけど今回は戸部先生だけじゃなくて土井先生やきり丸も残るみたいだし、寂しくはなさそうです」
「それは良かったな」
手を伸ばして頭を撫でてやれば、金吾は嬉しそうにそれを甘受する。一ヶ月を隣で過ごしたからか、金吾はまるで姉に対するように滝夜叉丸を慕ってきていた。そのことが面映くて、けれど後輩が可愛くて、滝夜叉丸もついつい彼を甘やかしては小平太などに「ずるい!」と言われている始末である。くい、と袖を引っ張られて態勢を屈めれば、金吾が耳にこっそりと囁いた。
「・・・・・・真田様も、またいらっしゃるんですか?」
出てきた名に滝夜叉丸は苦笑した。同じように金吾の耳に手を添えて、ひっそりと答える。
「いや、正月は平家も信玄公にご挨拶に伺うから、その際に会うことになるだろう」
「滝夜叉丸先輩、まだお嫁に行ったりしないですよね?」
「だから行かないと言ってるだろう。私はちゃんと忍術学園を卒業するのだから」
ほっと安堵の表情を見せて、金吾が笑った。夕陽もとうに沈んで、暗くなった道を長屋へと辿る。遠くに見える部屋の明かりが温かくて、吐く息は白い。次に会うのは新学期だな、と言えば、金吾は頷いた後にぷくっと頬を膨らませた。
「・・・・・・滝夜叉丸先輩の晴着姿、僕も見たかったです」
真田様だけずるい、という言葉に、思わず滝夜叉丸は笑ってしまった。頬は冷たいけれど、握られた指先が徐々に温まっていく。年の瀬の冬空の下、新年はすぐそこだった。





よいお年を、と言って学園を出た先輩は、次の瞬間から見惚れるほどに『姫君』だった。
2008年12月26日