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新しい学年に上がってすぐに、高学年は実習を組まれる。四年から六年までの三学年全てを対象としたそれは、組対抗の巻物の奪い合いだ。裏山を区域として、各組ごとに陣地が指定される。巻物を動かしてはならず、奪われてはならず、なおかつ傷つけられてもいけない。守るだけでは評価は付かず、守った上でいくつ他組の巻物を奪えるかに焦点が置かれる。六年と五年は経験者が故に慣れたものだが、四年は初めての実習に策を立てても実行に移す暇すら与えられない。開始直後、四年ろ組は五年い組に、四年は組は五年は組にそれぞれ襲われ、あっという間に巻物を取られてしまった。最後まで抵抗していた四年い組も、六年は組の善法寺伊作の用いた痺れ薬と、食満留三郎の武術には敵わなかった。四年生は皆がぼろぼろになり、教師の先導で裏山を後にする。その群れの中で、まず最初にひとりが足を止めた。隣を歩いていたもうひとりがそれに習い、少し離れた場所でひとりが、更にひとりが立ち止まる。そのままふと闇の中に消えていった四つの影を見止めつつ、教師たちが苦笑する。
「やはり今年は、あやつらでしたな」
「懐かしい。去年は鉢屋でしたか」
「四年い組とは組が当時の六年生に落とされて、鉢屋がその中から久々知や竹谷といった優秀な生徒をろ組に引っ張り込んだ。そして六年の組をひとつ落としたものだから、立花や潮江が憤慨していましたよ」
「ああ、ああ、覚えてますよ。あの怒りようは凄かった」
「しかし今年はあの四人ですからなぁ。実戦はおのおの腕が立つが、いかんせん」
「協調性のなさをどこまで払拭できるのか」
楽しみにさせてもらいましょう、と失笑の中に僅かの期待を含めて教師たちは裏山を下る。時は夜。鋭い三日月は東の空にあり、実習はまだ始まったばかり。





挑まし我らの御心に ( 前編 )





裏庭は体育委員の庭だ。特に今は陣地が指定されているため、それさえ外れれば誰にも見つかることなく姿を潜めることが出来る。特にすでに撤退した四年の縄張りは用が無くなっているのだ。その中のひとつ、岩を背にした茂みの中に彼らはいた。滝夜叉丸が足元の小枝を広い、地面を浚う。
「巻物はない。陣地はない。勢力は四人のみ。この状況で我々の狙うべき獲物はただひとつ」
ぐる、と枝先が円を綴る。
「最高学年の中でも、もっとも優秀な生徒が集う組。六年い組の巻物だ」
「異議なし。私も火器を扱う者として、一度立花先輩に挑んでみたかった」
「ろ組じゃ腕力の差が大きいし。かといっては組は下手物だし」
「こう言っては何だが、い組は優秀な分、応用性に欠ける生徒が集まる傾向にある。潮江先輩と立花先輩さえどうにか出来れば、後は五分五分に持ち込めるだろう」
「・・・・・・あのー」
「何か? タカ丸さん」
「僕、場違いじゃない? 足手まといになっちゃうと思うんだけど」
小さく挙手して訴えてみれば、額を突き合わせていた滝夜叉丸と三木ヱ門と喜八郎が揃って振り向いた。彼らは三人ともきょとんとした表情を浮かべており、喜八郎などは小首まで傾げて不思議がっている。しかしタカ丸にしてみれば、これは当然の進言だった。学園に戻る途中、足を止めた彼らに釣られるようにして裏山に残ってしまったけれど、忍術を習い始めてまだ一月も経っていない自分が五年や六年を相手に渡り合えるわけがない。足を引っ張ってしまうのは明白で、だからこそ申し出たというのに彼らはタカ丸のその行動が理解出来ないらしい。だって、と繰り返そうとしたタカ丸を滝夜叉丸が制する。
「いいですか、タカ丸さん。金楽寺までのおつかいならともかく、実戦形式の実習で『友人だから』という理由を持ち出すほど私たちは甘くありません。利害がなければ例え誰であろうと誘いませんし、逆に利害があれば誰であろうと誘います」
「そうそう。今回の滝ちゃんと三木ヱ門みたいに」
「上級生が相手なら、味方は少しでも多い方がいいからだ。いいか、それだけだからな!」
「はいはい。三木ヱ門、静かにしないと見つかるよ」
べしっと喜八郎が声音とは逆に勢いよく三木ヱ門の額を打つ。音さえしなかったけれども、それは随分な威力だったらしく、三木ヱ門が額を押さえてもんどりうった。呆れた眼差しでそれを見下ろしつつ、滝夜叉丸は再度タカ丸に向き直る。
「タカ丸さんは、私たちは決して持ち得ないものを持っています」
「え、何?」
「その身体です。私たちがどんなに足掻いても、年齢差と体格差だけは埋めることが出来ません。ですが、あなたは六年生に匹敵する立派な身体を持っている。力比べをしても負けることはないでしょう。それだけで十分にタカ丸さんは戦力と成りえるのです」
確かに、と言われれば納得する。滝夜叉丸も三木ヱ門も喜八郎も、まだその体躯に幼さを残しているのだ。筋肉は少なく、しなやかで細い。逆にタカ丸は二つ年上な分だけ成長しており、それこそ同じ年の六年生にも負けない身長を有している。足元の石を転がしながら、喜八郎も連ねた。
「それにタカ丸さんは辻斬りだったし。接近戦ならいいとこいくでしょ」
「私がユリコで引き付けて、綾部が罠に落とす。滝夜叉丸が巻物を奪うから、タカ丸さんはその間の護衛。この策が一番有効だろうな」
「巻物の位置が固定されているのも幸いだ。他組の巻物を奪わなければならない以上、少なくとも半数の生徒は陣地から出ているだろう」
「あ、じゃあ立花先輩か潮江先輩のどっちかがいなければ上手くいくかも?」
「何を言ってるんですか、タカ丸さん」
やはりきょとんとした顔で三人が振り向いた。あれぇ、何か変なこと言ったかな。困って首を傾げたタカ丸に、滝夜叉丸と三木ヱ門と喜八郎は合わせてたかのように揃って告げる。
「「「二人揃っているところに挑まなくては、勝っても意味がないでしょう?」」」
巻物を奪うだけなら、どんな形であろうと構わないのに。それでも組対抗ではすでに負け、敗者になっているのだからこそ形に拘ると彼らは言う。訳分かんないとタカ丸が呟けば、他愛ない自尊心ですよ、と返された。三日月が雲に隠れ、足元の影が一層色を深くする。忍者の生きる、最適な時間がやってきた。行きましょう、四つの影が立ち上がる。実習の本番が幕開けた。





すみません、この話では竹谷がうっかりは組設定です・・・。足を止めたのは、滝、綾、三木、タカ丸さんの順。
2009年1月15日(2009年6月11日mixiより再録)