レイコはいつも怪我をしていた。それは妖に与えられたものではなく、同じ人から与えられたものがほとんどだった。奇妙な力を持っていたレイコは、人に気味悪がられ、嫌悪され、距離を置かれ、悪意を向けられていた。怪我をひとつする度に、レイコは妖を負かせて名を書かせ、彼らを子分にしていった。友人帳という名の契約書は日々厚さを増していく。
「それでも、わたしはいつか死ぬわ」
レイコはセーラー服を着ていた。長い髪を乱暴に風になびかせて、彼女が笑うのはいつも妖の前でだけだった。美しい、綺麗な少女だった。
「友人帳はわたしの子供に遺すつもりよ」
「子供を産むのか?」
「ええ」
「何故だ? おまえは人が嫌いだろう? それなのに人の子供を産むのか?」
レイコは手元の友人帳をめくる。彼女は強い。それでもその横顔は線が細く、少女のそれでしかない。ふと形の良い唇が綻ぶ。
「違うわ。わたしは人が嫌いなわけじゃない。憎いし、怪我をさせられれば当然怒りを覚えるけれど、それも仕方のないことだと分かっているもの。人は自分と違うものが怖いのよ。だから私が怖いの」
分かっているわ、とレイコは呟く。
「でも、だからこそわたしは愛されたい。一人でいいの。愛されて、その人の子供を産みたい。だってわたしは人なのだから」
妖の名が書き込まれた紙の束を持ちながら、レイコはそんなことを言う。それだけの束を持ちながら、人がいいとレイコは言う。風が吹きすさんで、紙と髪を巻き上げる。空を見上げ、レイコは夕焼けに目を細める。そんな横顔を黙って見つめる。
「いつかわたしと同じ力を持った子供が産まれてくるわ。これは、その子のための友人帳。わたしのように、ひとりきりにならないように」
己が手に入れた妖たちを、自分の後生のためだと言う。それが喜ばしいことなのか悲しむべきことなのか、斑には理解することが出来ない。彼の名前はそこにはない。
「斑、あなたもその子の友達になってあげてね」
笑いかけられ、何を勝手な、と言い返せばレイコは笑った。美しい少女だった。多くの妖は彼女を愛していた。彼女は、顔を見ることもなかった彼女の孫を愛していた。
愛とは回転する断続的な運命のこと
(そして人を愛した彼女の孫は、妖を愛してくれたのだ。)
2007年8月30日