いただきます。
ドイツから一体どのような手段を用いたのか知らないが、アイゼンヴォルフにTRFビクトリーズを加えた面々がアメリカのアストロレンジャーズを急襲したのは日付の変わった八時間後のことだった。つまりは新年を迎えた元旦の朝八時。時間など関係のないNASAで仕事に追われるようにして働かされているブレットたちは、それぞれが自宅に戻って束の間の眠りに浸っている最中だった。そんなところにピンポン攻撃はやってきた。無視し続けてもエンドレスで鳴り続けるため根負けて、渋々ドアを開けた瞬間に引きずり出されること嵐の如く。結局のところ相変わらず意中の人であるリョウに迎えに来られたジョーだけが幸福で、残りの男四人は寝起きのぼやっとした頭のままパーティー会場に連れて来られてしまったのである。手際よくセッティングされたホテルの一室が、今は同窓会の会場に早変わりしていた。第一回・第二回WGPのメンバーを可能な限り集めたらしく、どことなく面影の残る面々が思い思いに集っては話に花を咲かせている。けれどそれらの中心には、間違いなく「華」が咲いていた。
「不機嫌そうだね、ブレット君」
くすくすと笑いながら近づいてきたのは、今年からミニ四駆を学問として学ぶべくアメリカに留学してきているJだった。物腰が穏やかで理知的なJは、ブレットにとっても楽に付き合うことの出来る存在だ。NASAとマサチューセッツ大学という生活拠点の違いはあれど、時間があれば時々会って話をする。特にブレットにとってJは、すでに趣味となってしまったミニ四駆についても熱く語れる数少ない人物だった。差し出されたコーヒーに礼を言って受け取り、温度を確かめてから口をつける。
「三日徹夜して久し振りに帰った我が家で睡眠を貪っていたところ、叩き起こされた挙句ドアを開けた瞬間にあった顔がシュミットだぞ? これで上機嫌になれる奴がいたらお目にかかりたいものだ」
「お疲れ様。でもそれだけじゃないんじゃない? さっきからブレット君、凄い顔して睨んでるよ」
「当たり前だろう。レツ・セイバが、あの小憎たらしいミハエルの選んだ着物を着て、ミハエルに肩を抱かれて、ミハエルの隣で笑っているんだぞ? これで不機嫌にならない奴がいたら、そいつはまず間違いなく男じゃないな」
「ミハエル君、楽しそうだね」
「違う。あれは『自慢そうだ』と言うんだ」
会場の中心で咲いている「華」は、実は女性だったと約一年前に発覚した烈だった。今はドイツに留学してミハエルの家にホームステイしているらしいが、とはいえ当然のように彼女をリードしているミハエルがどうしても気に入らない。ぶすっとブレットが不貞腐れていると、Jが小さく噴出した。
「仕方ないじゃない。烈君が快適なドイツ生活を送れているのは、ミハエル君のおかげなんだから」
「それは否定しないが肯定もしない。レツ・セイバなら自力で己の生活を勝ち取れたはずだ」
「烈君は女の子だもの。本人の努力次第じゃどうにもならない危険もあるよ」
「・・・・・・尚更気に入らないな」
「素直に『アメリカに来れば俺が守ってやったのに』って言えばいいのに」
笑いながらの言葉に、ブレットはJをじろりとねめつけた。けれどもその程度で引くような性格をJはしておらず、にこにこと微笑んだままで大きく手を挙げる。
「おーい、烈君! ブレット君が久し振りに話したいって!」
大きめの声に、ミハエルと豪に挟まれていた烈が振り向いた。肩を越すほどに伸びた赤い髪が揺れて、そこに小学生の頃のような幼い雰囲気はほとんどない。すでに女性と言っても差し支えの無い雰囲気の中で、瞳の輝きだけがブレットの知っている烈と変わらなかった。左右の二人に断りを入れて、輪の中から烈が出てくる。小さな歩幅で一歩一歩近づいてくる姿を前に、Jがこっそりと囁いた。
「滅多に会えないんだから素直にならないと、本気でミハエル君に攫われちゃうよ」
「・・・・・・分かってる。おまえこそいいのか」
「僕は僕で方法があるから、この場は君に譲ってあげるよ」
食えない笑みを浮かべるJに、ブレットは眉を顰めた後に小さく「サンクス」と呟いた。実際に彼の言うように共有する時間は自分が一番少ないのだから、それがどんなものであろうと有効活用しなくてはならない。目の前に辿り着いた相手に向かって、ブレットは口を開いた。まずは新年の挨拶と、そして美しい着物姿に賛辞の言葉を贈らなくては。
ドイツとブレットとJ君が好きです。れっちゃんには知的なパートナーが似合うと思います。
2008年12月23日