ありがとう、よろしくね
「どうしたの、烈君」
ペンを持って唸っていたところ、後ろから声をかけられて烈は顔を上げた。肩口に触れているのは金色の髪で、すぐ横、頬の触れそうな位置にはミハエルの顔がある。弟に比べて随分とスキンシップを好む相手に、烈は苦笑しながら手元の紙を掲げて見せた。
「年賀状を書いてたんだ。家族に送るのなんて初めてだから、何だか不思議な感じがして」
「豪君に送るの?」
「うん。ミハエル君も書く?」
「うーん」
どうしようかな、と呟きながら、ミハエルはぽすんと軽い音を立ててソファーに座る。隣り合えば分かる身長差を、烈は感心しながら見上げてしまった。小学生の頃、ミニ四駆を共に走らせていたときには感じなかった性差が、今はこうして如実に表れている。病弱だったミハエルですら、今はこうして立派な青年に育っているのだ。やんちゃばかりしていた弟は、果たしてどんな高校生最後の一年を過ごしたのだろう。烈がドイツに留学してからは会うことも難しくて、いまいち想像が上手く出来ない。きっと背が伸びてるんだろうなぁ、なんて考えていると、ミハエルがぽんっと手を打った。
「そうだ! 年賀状なんて書かなくても、直接会いに行っちゃえばいいんだよ!」
「ええ!?」
「僕の家のジェット機なら一日かからないで往復できるし、学校も休みだから大丈夫だよ。あ、ついでだからアメリカも回ってきちゃう? 烈君だってJ君に会いたいでしょ?」
「そ、そりゃ会いたいけど、でも悪いよ、そんな」
「いいのいいの、僕も豪君に会いたいし、烈君がドイツにいることをアストロレンジャーズに自慢したいから。じゃあ決まり!」
跳ねるように立ち上がり、ミハエルは「シュミットー! エーリッヒー!」と名を呼びながら駆けていく。おそらく今後の手配を二人に任せるためだろう。まったくもう、と肩を落としながらも烈は少しだけ笑ってしまった。ミハエルがあんなことを言い出したのは、きっと烈の郷愁を酌んでのことだろう。出来た子だなぁ、とまるで息子を想うみたいに嬉しくなって、烈は新しい葉書を一枚取り出す。宛先は、ミハエル・フリードリヒ・フォン・ヴァイツゼッガー。新たな年を迎えても、驚いて、そして笑う顔が見てみたい。いつもありがとう、と心を込めて、烈は一文字ずつゆっくりと綴った。
同窓会のようなお正月の中、ご満悦なミハエル君と、超不機嫌なブレットがいたらしい。
2008年12月23日