13.秘めていた懇願





「っ・・・!」
頬にめり込んだ拳の勢いそのままに、十束の身体は吹っ飛んでスチールをいくつもなぎ倒した。後頭部をカウンターにぶつけたけれども、今回ばかりは草薙も怒りはせずに見守っている。痛みを感じながらも、十束はすぐに態勢を起こし、瞑っていた目を開いた。正面で肩を震わせ、拳を握り締めて立っているのは八田だ。いつもは敬愛を湛えて見てくる瞳が、今は憤怒だけを滾らせて十束を貫いてくる。大丈夫すか、と駆け寄って来ようとするメンバーを片手で制止し、十束は自らの足で立ち上がった。切れた唇の端がひりひりと痛むけれども、血は拭わない。まっすぐに十束は八田と向かい合い、口を開く。
「黙ってたのは本当だから、言い訳はしないよ」
「っ・・・何で、っすか! 何でですか、十束さん!? 俺が猿を探してんの、あんた知ってただろう!?」
「うん、知ってた」
「だったら、何で教えてくれなかったんすか・・・!」
打ち震えるように、八田は泣きそうな顔をしている。ごめん、と思うけれども言葉にはしない。十束にだって譲れないものがあるからだ。伏見のことを傷つけたくない。それも確かに本音だけれど、本当は。
「――伏見のことが好きだから」
十束の言葉に、八田が目を見開く。笑うことはせずに、ただただ真摯に、十束は正直に告白した。
「伏見のことが好きだから。独り占めしたかったから。手放したくなかったから。だから、八田に教えなかった」
「・・・十束、さん・・・!」
「謝らないよ。俺だって幸せになりたい。伏見と二人で、一緒にね」
痛みを訴える唇を緩めて、十束は微笑んだ。ぐしゃりと八田の顔が歪む。けれどもそれ以上、彼の拳が振るわれることはなかった。
伏見が意識を取り戻したのは、それから三日後のことだった。





誰にも言わなかった、寂しがり屋の本音。
2014年11月8日(pixiv掲載2013年3月3日)