6.愛のある我儘はおねだりです。





「髪、随分伸びたね」
風呂上りの伏見の髪を、いつも通り力を使って乾かしていたときに十束が何気なく口にした。言われて初めて気づいたかのように、伏見は自身の髪を指で摘まむ。
「・・・そうですか?」
「うん。もうショートっていうよりはセミロングになりつつあるよ。肩にはまだつかないけど」
それだけの数ヶ月を一緒に過ごしているのだと、十束の台詞はそう言ったも同然だけれど、当の本人も伏見も気づかない。出来た、と綺麗に乾かしてブローした髪に、十束は満足そうに手のひらを滑らせる。
「ショート以外の伏見って見たことないなぁ」
「子供の頃は長かったですよ。中学に上がってからは動くときに邪魔だから短くしてましたけど」
「じゃあもう短くしてる理由はないね?」
十束の言葉に、伏見が不思議そうに振り返る。怪訝そうに眉間に皺を刻むものではなく、純粋な疑問を浮かべている顔に、十束は背後から伏見を抱き込んだ。夜をひとつのベッドで過ごしているからか、十束が擦り込むようにスキンシップを度々試みているからか、やり過ぎない限り伏見ももう抵抗はしない。シャンプーの香りを吸い込んで、十束はうっとりと目を閉じる。
「髪、伸ばしてよ。ロングヘアーの伏見も見たいなぁ」
「・・・ロングになるまでには、二年近くかかりますよ」
「いいよ。のんびり待ってるから」
「十束さんが毎日ブローしてくれるならいいですよ」
「かしこまりました、お姫様。前髪は俺が切ってあげるね」
「そっちの方が心配なんですけど」
「酷いなぁ」
この先の二年を一緒にいるのだと、約束したつもりはない。けれど甘い言葉に、十束は吐息を漏らすように笑った。くすぐったいんですけど、と伏見が肩を竦める。いいじゃんいいじゃん、と十束は調子に乗って柔らかい黒髪にぐりぐりと頬を押し付けた。同じシャンプーの香りに酔いしれる。くすりと伏見が笑ったのが堪らなかった。





知ってるか、十束さん。それ、死亡フラグって言うんだぜ・・・?
2014年11月8日(pixiv掲載2013年3月3日)