ADAMAS
噂が広まるのは早いようで遅かったが、概ね草薙の予想通りだった。元より、男所帯の吠舞羅だ。装飾品など少しファッションに気を使っているような男でなければ気づかない。けれど草薙と伏見の指で光るのは明らかにファッションではない本物で、それに気づいた一人二人を介して、情報は広く行き渡っていく。けれども直接聞いてくる輩はいなかった。元より伏見は吠舞羅で唯一の女子として距離を置かれているし、本人の気質もあって馴れ合いを好まない。なので聞く相手は自然と草薙に絞られるのだが、彼は吠舞羅の限りなくトップに近い立場にいる幹部だ。キングである周防の右腕にも等しい。だからこそ聞くに聞けないといった空気が流れ、じりじりうずうずといった視線がちらりちらりと二人の指に向けられていた。そんな様子を草薙が楽しみ始めて一週間後、ようやく真正面から聞いてくる勇者が現れた。じゃんけんで負けたか何かなのだろう。ソファーの方では他の面々が好奇心丸出しの顔で窺ってきており、カウンターについている十束が笑った。目の前に立つ、緊張の余り冷や汗すら浮かべている新入りに、草薙はふっと唇の端を緩める。
「ああ、伏見の指輪か。せやで、あれは俺がプレゼントしたやつや」
嘘は言っていない。伏見の指輪も草薙の指輪も、すべての代金は草薙が負担している。半ば言いくるめて押し付けたようなものだが、意外と律儀な伏見は少なくとも吠舞羅関係の場に出てくるときは必ず指輪をしてきていた。これやからなぁ、と草薙が自然と浮かべた微笑みをどう取ったのか、聞いてきた新入りや遠くで様子を見守っていた他のメンバーたちが動揺している。え、あの、それって。しどろもどろになる新入りに、野暮はあかんで、と草薙は今度は意識的に笑った。大人の顔で。
「男が女に指輪を贈る理由なんか、ひとつしかないやろ?」
さて、これで後は勝手に誤解してくれることだろう。伏見がやってきて、カウンターの端で一人ぽつんと座っていたとしても、それは草薙と話すためだとでも思ってくれるに違いない。曖昧にぼかして、それでも割合と直接的に、勘違いでも何でも利用して牽制し、外堀を埋めて伏見を庇護することが草薙の目的だ。あんなに繊細で可愛らしい存在を、傷つけるなんて許せるわけがない。
ええええええ、とようやく衝撃から戻って騒がしくなり始めた店内の中で、十束だけが訳知り顔で呆れていた。意地の悪い大人だよね、草薙さんって。呟きに、草薙は我が事ながら苦笑する。
っちゅうことやから、堪忍なぁ、八田ちゃん。
2014年11月8日(pixiv掲載2013年3月1日)