(注意!)
最終回後の室長のお話です。室長が若干暗くて八田君と吠舞羅にきついのでご注意ください!






世界は一人の男が支えている





1.たすけて、

「伏見君」
「はぁ」
「伏見君」
「何すか」
「伏見君」
「だから何すか」
「伏見君」
「用がないなら呼ぶんじゃねぇよ」
「伏見君」
「・・・・・・」
「伏見君」
「んだよ」
「私のこと、嫌いですか」
「どうでもいいです」
「伏見君」
「はぁ」
「伏見君」
「何すか」
「伏見君」
「だから何すか」
「伏見君」
「用がないなら呼ぶんじゃねぇよ」
「伏見君」
「・・・・・・」
「伏見君」
「んだよ」
「青の王のこと、嫌いですか」
「あんたに限らず王なんか死ねばいいと思ってますけど、それが何か?」
「伏見君」
「はぁ」
「伏見君」
「何すか」
「伏見君」
「だから何すか」
「伏見君」
「用がないなら呼ぶんじゃねぇよ」
「伏見君」
「・・・・・・」
「伏見君」
「んだよ」
「伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君、伏見君」
「・・・・・・」
「伏見君」
「はぁ」
「伏見君」
「何すか」
「伏見君」
「だから何すか」
「伏見君」
「用がないなら呼ぶんじゃねぇよ」
「伏見君」
「・・・・・・」
「伏見君」
「んだよ」
「伏見君」

「ふしみ、くん」





2.死人の献身

細かな升目でしかなかった画面に、青いグラフが刻み込まれていく。
「宗像室長の蓋然性偏向場を確認。ダモクレスの剣が形成されます」
「数値に変化は?」
「学園島事件の前と比べると若干の変動はありますが・・・。誤差の範囲内です」
「あれだけのことが起きてこの程度なら十分過ぎるだろ」
「そうですね。他、範囲、密度、圧力等に変わりはありません」
「分かった。そのまま観察を続けろ」
「了解しました」
伏見は指揮情報車の小さな窓から空を見上げた。ほぼ真上に浮かんでいる巨大な剣は、変わらぬ青い輝きを放っている。





3.無知なる静謐

今日も今日とて業務は変わらない。隊員たちはざわざわと時に笑いながら、己の仕事に従事している。
「さすが室長だよな」
「赤の王のダモクレスダウンを防いだだけじゃなく、白銀の王と無色の王の最期も看取ったっていうのに」
「それなのにヴァイスマン偏差は少しも狂ってないんだろ? さすが宗像室長」
「――おい」
かけられた声に、数人の隊員たちが振り向いた。そこにいたのは秋山と弁財で、彼らは眉間に皺を寄せて自分たちを見てきている。特務隊だ、と隊員たちは思わず身体を強張らせてしまった。このセプター4において、主戦力を担う彼らは明らかに別格の存在なのだ。
「口を慎め。軽々と話題にしていいことじゃない」
「は、はいっ! すみませんでした!」
「失礼します!」
弾かれるように頭を下げた後で、隊員たちが逃げるように駆けて廊下を去っていく。秋山と弁財はその様を溜息を吐き出しながら見送った。彼らの顔に安穏はない。





4.どうすればいいの

「八田美咲、君?」
低く、穏やかな声音だった。少なくとも八田にはそのように聞こえたから、構えることなく振り向き、そしてぎょっとした。夜も更け、人通りのない街中に立っていたのは青の王、宗像礼司だった。鮮やかな青いコートが闇に融けている。その分だけ宗像の肌の白さが浮き上がり、まるで死人のようで八田は背筋を震わせた。どうして青の王がここに。困惑が八田の足を下がらせる。宗像が目元を綻ばせる。かつ、かつ、かつ、かつ。ブーツが硬質な足音を立て、あっという間に距離を縮めさせてしまった。目の前に来た宗像は背が高く、細身で、月光を背負って尚、薄暗い。
「聞きましたよ。君、伏見君に弱音を吐いたそうですね」
今度は八田にも分かるように、宗像は表情を変えた。それは笑顔であったはずなのに、おぞましい、と八田の本能が警鐘を鳴らす。身体は自然と警戒し、構えを取った。けれども赤い輝きは現れない。赤のクランズマンとしての力は、あの雪の降った夜に、周防がすべて持っていってしまった。今やただの一般人でしかない八田は、青の王である宗像を前に余りに無力だ。けれど、それ以上に。力の差以上の何かが今、八田の身体を震わせている。
「――許し難い」
頬を平手で叩かれたかのような、そんな衝撃だった。実際に暴力は振るわれなかった。けれどもその言葉は確かに八田を打ち、地面に転がし、足蹴にしてきた。唇は笑みを刻んでいるのに、瞳はどこまでも冷ややかだった。虫けらを見るような眼差しで、宗像は今、八田を見ている。胸倉を掴まれたわけでもないのに、八田はその場に立ち尽くすことしか出来ない。足が、震える。
「君たちの王であった周防。あの男が好き放題した挙句に放り出したことをすべて私が後始末してやったというのに。それなのに君はまた当然のような顔をして伏見君に縋ろうとする。君たち赤のクランはどこまで他人に迷惑をかければ気が済むんですか? 責任を押し付けることしか出来ないんですか? 尻拭いを他人にさせて意気揚々と太陽の下を歩いているなんて厚顔にも程がある」
後になって思えば、言い返したいことは山ほどあった。それでもそのときの八田は無様にも喉をひゅうひゅうと鳴らして、崩れないようにするだけで精一杯だった。ねぇ、と宗像が問いかけてくる。青の王は、その肩書きよりも強く、その力よりも大きく、闇の中に君臨していた。
「私は君たちの王の願いを叶えてあげたんです。世界を救ったんです。だから伏見君一人くらい、私にくれたっていいでしょう?」
ねぇ、と宗像が笑う。その質問に返す答えなど、八田は持っていなかった。





5.こんなもんで縛り付けられるのなら世界はもっと単純だった

コックを捻ってシャワーを止め、貼り付く前髪を手櫛でかき上げる。バスタブの内側に引き込んでいたカーテンを除ければ、正面にある鏡が目に入った。換気扇を回しているとはいえ、湯気で曇ってしまっている。棚に置いていたバスタオルを手に取り、伏見は自身の身体を拭った。栓を抜いたため、浴槽に溜まっていた湯が排水溝に吸い込まれて減っていく。脹脛が完全に露わになる前に、伏見はバスタブを出た。そして濡れた手で鏡を擦る。その箇所だけ本来の輝きを取り戻し、けれどもすぐにまた湯気で境界線を朧にしていく。それでもはっきり見えた、青。伏見は忌々しげに自身の腹を見下ろした。眼鏡無しでは手元の文庫本の文字でさえ危うい目でも、それは明らかに認識することが出来る。存在を主張しているのだ。
周防とは異なり、宗像は己のクランズマンに「徴」を刻まない。形などなくてもクランなのだと、各個人の意識が誇りを繋ぐのだと、そう彼は言うのだ。そんな青の王が、伏見に対してのみ「徴」を刻んだ。身体の中央である腹に、大きく、深く。決して無視させないよう、忘れさせないように。学園島での一件が片付いた後に、宗像は伏見を呼び出し、再度インスタレーションを施して「徴」を刻んだ。
浴室の空気が徐々に温度を下げ、鏡も端からゆるりと目の前のものを鮮やかに映し始める。鎖骨にあった赤い「徴」は、周防があの夜に持っていってしまった。残されているのは醜い火傷の痕と、代わりとでも言うかのような腹の青。折に触れてそれを確認したがる宗像を思い返し、伏見は舌打ちする。
「馬鹿か、あの人」
濡れた髪をバスタオルで乱暴に拭いた。





6.王様の願い

「ねぇ、伏見君。私と一緒に死んでください。私は世界のために死にますから、君一人くらいは私のために死んでください」
「ソーデスネー。とりあえず手元にある未処理の書類を全部片付けてから言ってもらえますかね」
「酷い人ですね、君は」
穏やかに微笑んで、宗像はペンを手に取った。さらさらと書き連ねられる文字を確認して、伏見は溜息を吐き出す。とりあえず日常は継続されている。剣呑なものを内包しながらも、今は、まだ。世界はたった一人の男によって、均衡を保たれている。





ちょ、やべぇ、美咲に殺されるっていう俺の人生設計に支障が生じてる気がするんだけど何でだコレ。この人置いて先に死んだらマジやばくねぇか。かといって一緒に死ぬとか勘弁してほしいんだけど。でもこの人放って美咲のとこに行ったら更にやばい気がする。やべぇ詰んだ・・・? おいちょっと尊さん責任取れよ。これだから王は嫌いなんだよ自分勝手に好き放題しやがってちくしょう。あーちくしょう。あーもー・・・・・・わりぃ、美咲。おまえは精々童貞こじらせて長生きしろよ。俺の分までな。
2013年7月28日(pixiv掲載2013年1月27日)