【 『伏見ちゃんと八人の彼氏』を読むにあたって 】

○ 伏見猿比古くんが生まれつき女の子です。女体化です。
○ そんな伏見ちゃんがセクハラ発言をしています。被害者はセプ4特務隊の皆様です。
○ 伏見ちゃんの隊服は男のときと変わらないものでいいと思います。細い女の子があの制服を着ていることにロマンがあるのであって、デコルテの白さと浮き出る鎖骨のラインがなまめかしさを演出しごふごふごふ。もちろんショートパンツも大好きだ。
○ とにかくそんな伏見ちゃんと、セプター4のお話です。

注意書きを無視して閲覧し、気分を害されても責任は負いかねますのでご了承ください。
それでは何でもいけるという方のみお付き合いくださいませ!

▼ GO!




















それはとても麗らかな午後のことだった。
「おまえらってさぁ、副長の胸とか尻とか見て勃起しねぇの?」
情報課から上げられてきた報告書に目を通しながら、そういえば、と思い出したかのように伏見が問いかけを口にする。しかし返事は五秒待っても返されず、不思議に思ってパソコンのモニターから視線を上げる。執務室にいる特務隊のメンバーは、全員が全員、未知の生物を目にしたかのような顔で伏見のことを見ていた。聞こえなかったのか。伏見は小首を傾げ、先程と同じ台詞を唇に載せる。
「おまえらってさぁ、副長の胸とか尻とか見て勃」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
錯乱した男たちの悲鳴が響いた、麗らかな午後。





伏見ちゃんと八人の彼氏




伏見の小さな唇は、隣の席からスライディングタックルのように突っ込んできた榎本の手のひらによって、ぱくんと抑え込まれていた。榎本自身の身体はわなわなと震えているし、今にも椅子から転げ落ちそうだし、窺い見ることの出来る耳と首筋は真っ赤に染まっているけれども、力加減をしてくれたのだろう。伏見の顔の下半分を覆う手のひらは決して痛くなく、ぶつかった衝撃もなかった。器用だな、なんてことを考えながら、伏見は他の連中に目を向ける。
執務室はつい一分前の整然とした空気はどこへ行ってしまったのか、コント会場のようになっていた。秋山は手にしていたマグカップをひっくり返して机の上をコーヒーで染め上げているし、弁財はパソコンのモニターに顔面から突っ込んでいる。加茂は姿が見えないが椅子が倒れているので床に伏しているようだし、道明寺は腹を抱えて爆笑しすぎた余り過呼吸を引き起こしている。布施は何故だか窓際のカーテンに上半身を絡まらせており、五島は両耳を塞いで見ざる言わざる聞かざる状態。唯一日高だけは榎本のように顔を真っ赤にして伏見を見ていた。指さしてくる手が化け物でも見たかのように震えており、あ、あ、あ、なんて意味のない呟きを繰り返し、ようやくそれは絶叫に代わった。
「あああああああああんた一体何言ってんだ!?」
「ぎゃはははははははは! 伏見さん最高っ! マジやばい! 超好き!」
「道明寺さんは黙っててください!」
机を叩いて爆笑して、ついには椅子から転げ落ちた道明寺を、日高は赤い顔のまま一喝する。ごろんごろんと転がりながらコートで床掃除をしている道明寺を見下ろし、伏見は自身の口を覆っている榎本の手のひらを外しにかかった。元よりしっかりと押さえられてはいたけれども、力は入れられていなかったので簡単に外すことが出来た。腕をだらりと重力に従って落とした榎本は、そのまま椅子の上で丸くなり始める。何だこれ、と伏見は眉間に皺を寄せる。
「・・・・・・伏見さん」
名を呼ばれて視線を上げれば、乙女のように顔を両手で隠している秋山の姿があった。彼の耳もまた赤く染まっており、何なんだこいつら、と伏見は自分を棚上げしてそう思う。
「・・・伏見さんは、女性なんですから・・・そういうことは、言わないでください・・・」
「はぁ?」
男女差別を臭わせる言葉に、自然と伏見の顔が歪む。けれど日高はぶんぶんと首を縦に振って同調を示した。
「しっ、下ネタとか、女が男に言わないでくださいよ!」
「別にあれくらい世間話だろ」
「あんたの世間話ってどんなですか! っつか、何でいきなりそんな話題になってんすか!? 俺ら真面目に仕事してましたよね!?」
「気になったから?」
何だこいつら、美咲と同じで童貞かよ。初心すぎる反応にそんなことを思うが、セプター4は一般的に見て外見の良い男たちが揃っている。ぶっちゃけた話、入隊するのに顔面偏差値が必要なのかと思うくらいだ。故に女性にもてそうな彼らが童貞ということは有り得ないだろうし、伏見はそこらへんは何となく見分けることが出来る。だからこそ気になって振った話題だったのだが、どうやらそれは不味かったらしい。
「女は下ネタ喋らないとか、それどこの都市伝説だよ。もっと現実を見た方がいいんじゃねぇの?」
「・・・夢を見させてくださいお願いします・・・」
「おまえらだって男だろ? 副長みたいな美人が、目の前で胸とか尻とか見せながら歩いてたらヤりたいとか思わねぇの?」
「だからそれがぁ!」
日高が頭を抱える一方で、立ち上がる気配があった。
「・・・では、僭越ながら答えさせていただきます」
がちゃがちゃと、キャスター付きの椅子を立て直して発言をしたのは加茂だ。秋山は未だに顔を手で覆ったまま立ち尽くしているし、弁財はモニターから手元のキーボードに突っ伏す体勢に変更している。道明寺はようやく笑いが収まったのか引き攣る腹筋を押さえており、榎本は椅子の上で猫のように丸まったままだ。カーテンの影から布施がちらりと顔を覗かせ、五島が恐る恐ると目を開ける。日高は唇をへの字に結んで、不服そうな顔で伏見を睨み付けていた。ごほん、と冷静な咳をしてから、加茂が口を開く。
「我々は、副長はああいう生き物だと認識しています」
「・・・つまり副長は、女じゃないと?」
「そうです。ああいう形の生き物であると考えれば、自然と受け流すことが出来ます」
「副長は巨乳を揺らして尻をチラ見せさせながら歩く生き物だと」
「そうです」
「おまえら、何気に酷いな」
返ってきた答えは、伏見の想像の斜め上を行っていた。セプター4の副長を務める淡島は、同じ女である伏見の目から見ても魅力的な女性だ。もちろん餡子とか餡子とか餡子とか問題点は少なからずあるけれども、容姿だけで判断するのなら間違いなく一級品である。すらりと伸びた身長に、小作りな顔。目鼻立ちのはっきりとした造形に艶やかな髪、新雪のように白い肌。そして男の目を釘付けにして止まない大きな胸に形の良い尻。短すぎるスカートから覗く足も程よい肉付きで、そんな彼女が胸の谷間と尻の欠片を披露しながら仕事をしているのを見ていて、伏見は常々不思議に思っていたのだ。何であんなにエロい女が目の前にいるのに、こいつら勃起しねぇんだよ、と。不能なのか、と失礼千万なことすら考えていたのだが、どうやら違ったらしい。
「・・・副長は、尊敬すべき上司です。そういった対象として見ることは、副長に対して侮辱でしょう」
ようやく顔を上げた弁財の額はモニターにぶつけたため赤く、キーボードに突っ伏したため痕がついていた。そんなもんか、と伏見は納得する。
「じゃあ現場で副長がうっかりポロリとかしても問題ない、と」
「いやぁ、それはやっぱりラッキーって思いますよ。俺らも男なんで」
「道明寺!」
けろりと言い放った道明寺の頭を秋山が足蹴にした。痛い、と悲鳴が上がるが秋山は無視し、僅かに紅潮している頬を誤魔化すかのように、先程ぶちまけてしまったコーヒーを拭い始める。その頃になれば榎本もどうにか身体を起こして眼鏡の位置を戻し、布施もそそくさとカーテンから離れて椅子へと落ち着く。五島も耳を押さえていた手を離し、自身の髪を整えた。日高は未だ伏見をぎりぎりと睨み付けているが、それも無駄だと悟ったのだろう。はぁ、と大きな溜息を吐き出して肩を落とした。
そこで伏見は二つ目の疑問をぶつけてみた。にやりと唇の端を吊り上げて。
「じゃあおまえら、俺のことも女として見てないってことだよな?」
びくっといくつの肩が跳ねたのか、瞬時に判断できない伏見ではない。不自然に全員の視線が自分から反らされていくのを見やり、伏見は手を伸ばした。とりあえずは一番近い、隣の席にいる榎本だ。背中から抱きつくように、その肩に腕を回してやる。ひっ、と榎本の口から悲鳴が零れた。
「なぁ、どうなんだよ。榎本さん?」
しなだれかかって、背中に胸を押し付けてやる。淡島には負けるけれども、伏見の胸だって決して小さくはない。アンダーバストが細い分、トップバストが平均でも十分なカップを維持することが出来るのだ。すぐ傍にある榎本の耳が再び真っ赤に染まっていく。伏見は悪戯に、ふう、と吐息を吹きかけてみた。ひえええ、と榎本が泣いた。勘弁してくださいと泣きごとを漏らしながらも自ら逃げようとしないのは、伏見が上司だからか、それとも榎本が男だからか。ああっ、と道明寺が声を荒げた。
「エノばっかり狡い! 伏見さん、こっちも! 俺もお願いします!」
「自分から腕広げてる奴に抱きついて何が楽しいんだよ。拒めない奴をからかうから面白いんだろ」
「伏見さん、女王様過ぎます・・・」
五島のその言葉に、伏見は彼に向かってにっこりと笑ってみせた。滅多に披露されない完璧なスマイルは、何か良くないことの前兆に思われてならない。五島はぴゃっと跳ね上がって布施の後ろに隠れた。獲物に逃げられた伏見は笑顔を消して舌打ちする。とりあえず腕の中の榎本を更に抱き込もうとしたとき、両者を物凄い勢いで引き離した手があった。日高だ。
「だからっ・・・伏見さん! あんた一応女なんすから、そういうことしないでくださいよ! 俺らだっていつも紳士でいられるわけじゃねーんすよ!」
「副長は良くて俺は駄目なのかよ」
「副長は俺らを誘惑しないからいいんですよ! でも、あんたは違うでしょう! 俺らだってそんなことされて黙ってられるほど枯れちゃいねーんすよ!」
「ふぅん」
怒りなのか照れなのか羞恥なのか、眉を吊り上げて説教してくる日高に、伏見は適当に頷く。彼女自身にも、まぁ自覚はないわけではなかった。どうでもいいと思っていたから利用はしてこなかったけれども、どうやら伏見の容姿は色気というものを多分に含んでいるらしい。小学校高学年の頃から、道端で知らない男に声をかけられることが多々あった。中学に入ってそれは数を増し、八田と一緒にいるようになってからは表だってはなかったけれども、一人になればすぐさま男が近寄ってきた。服装だって髪型だって化粧だって気を使っていなかったのに、どうしてか男たちは近づいてきては伏見の関心を引きたがった。吠舞羅に属してから、草薙にも指摘されたことがある。カクテルを作る手のひらで前髪を掻き上げられ、遮るもののなくなった伏見の顔を見て、草薙は困ったように笑って言ったのだ。おまえは魔性の女やなぁ、と。
「・・・こんな女のどこがいいんだか」
伏見は心底そう思っている。外見は確かに良い方かもしれないが、小食が祟ってか細すぎて抱き心地が良いとはお世辞にも言えないだろうし、スタイルだって淡島の方が断然上だ。セプター4に移ってからは髪型も変えて、社会人のマナーとしてうっすらとしたメイクはするようになったけれども、爪は相変わらず何もしていないし、全身とて手入れのしてなさは変わらない。中身なんてもっての外だ。それなのに自分のことを「女」として見る者は数多くいる。例外は八田くらいのものだった。まぁ、それも今となっては過去の話だが。
「・・・そんなこと言わないでください」
知らず険しい表情になっていたのだろう。伏見が顔を上げれば、秋山がほんの少しだけ眉を顰めて彼女を見ていた。手にはコーヒーを拭った布巾を握っていたけれども、表情はアンバランスに真面目だった。
「伏見さんは魅力的ですよ」
「そうそう! 美人だし仕事も出来るし女王様だし? ちなみに俺、下ネタいける子って大好物でっす!」
「おまえの趣味は聞いてねぇよ」
「ひっでー!」
道明寺がきゃらきゃらと笑うので、釣られて伏見の唇も僅かに緩んだ。世の中には物好きもいるもんだな、と思う。ふむ、と机に肘をついて見回してみれば、つい先程まで真っ赤な顔で怒鳴っていた日高まで神妙な顔つきでこちらを見つめている。弁財と加茂はどこか心配そうな表情をしているし、逃げ腰だった榎本も振り向いて気遣いを浮かべていた。布施も五島もそれは同じで、彼らは伏見を異性として意識していながらも、無理に感心を引こうとはしてこない。むしろ、どちらかと言えば伏見を立て、振り回されてもそれに付いてきて、時折もたらされる気まぐれな誘惑にその場の勢いで乗って伏見を傷つけないよう、自らに自制を促している。
「おまえらって本当に馬鹿だよな。目の前にこんなにいい女がいるのに口説かないとか」
うぐぐ、と言葉に詰まる彼らに、伏見は笑った。それは意図的ではない、珍しく本心からの純粋な笑みだった。だから彼女は言ったのだ。
「でも、おまえらの彼女にならなってやってもいいかもな。おまえら『全員』の彼女になら、な」
「・・・え?」
目を瞠って呟きを漏らしたのは秋山だったか弁財だったか加茂だったか榎本だったか布施だったか五島だったか日高だったか分からない。でもとりあえず道明寺ではなかった。いち早く理解した彼は挙手して叫んだのだ。
「今度の非番の日、俺とデートしてください! 伏見さんの行きたがってたサイエンス・インカレを観に行きましょう!」
「費用は?」
「俺持ちで! なので伏見さんは是非ともスカートでお願いしまっす!」
「絶対領域で悩殺してやるよ」
「よっしゃ!」
いつもは淡島のミニスカートと異なり、男性隊員と同じパンツで隠されている足を組み替え、伏見がにやりと笑う。道明寺がガッツポーズしたことで我に返ったのか、狡い、と一斉に非難と罵倒が飛び交った。静かだった執務室が火がついたように騒がしくなる。
「伏見さん、俺も・・・っ!」
「映画観に行きましょう! 遊園地でも水族館でもいいです!」
「自宅デートはありですか!?」
「服装指定ってどこまでなら許されますか!?」
わいわいぎゃあぎゃあと二十代の男たちが年甲斐もなく喚き始める。うるさい。でも何か楽しい。寄ってたかられるのは好きではないし、見え透いた下心は嫌悪するけれども、目の前の彼らを見ていると、それよりも大事にされていると感じる。だから伏見も少しばかり付き合ってやってもいいかな、と思うのだ。十把一絡げの男を傍に置くつもりはない。どうせなら厳選した上で、きちんと愛してくれる男がいい。その点でもセプター4の男たちは条件を満たしていたし、何より彼らは伏見のことをちゃんと見つめていてくれる。甘くなったもんだな、と伏見は自分自身に心中で苦笑した。
執務室の扉を開けて、他部署との会合に出ていた宗像と淡島が帰ってきた。隊員たちは即座に唇を閉ざし、きちんと姿勢を正して挨拶したが、喧騒は廊下まで聞こえていたのだろう。宗像が物珍しそうな顔で聞いてきた。
「随分楽しそうでしたが、何の話をしていたんです?」
そう言われても、流石に答えは返せない。一応勤務時間内であるし、ばれようものなら宗像はともかく、その背後に控える淡島の説教は免れないことだろう。視線を交わし合い、けれども誰もが口を開こうとはしない。そんな様子を見やって、伏見はわざとらしく肩を竦めた。
「別に大したことじゃないですよ」
秋山の、弁財の、加茂の、道明寺の、榎本の、布施の、五島の、日高の視線を感じながら、伏見はにぃ、と笑った。
「俺に八人の彼氏が出来たってだけで。ね、大したことないでしょう?」
今度ミニスカデートするんです。そう続ければ、宗像が「おや」と目を瞬いた。淡島は面食らったような顔をしており、そんな彼女を見て、伏見はやっぱりこの人エロい格好してるよなぁ、なんて思うのだった。





何だかんだで寂しがり屋な伏見ちゃんは、八田君の反動もあって自分をきちんと見てくれる人に弱いだろうなぁと思います。大事にされればいいよ!
2013年7月28日(pixiv掲載2013年1月24日)