セプター4は伏見さんの私生活改善を試みたいと思います。(美容編)





今日も今日とて異能者は良い子にしている。吠舞羅もこのまま大人しくしてろよ、と思いながら、セプター4では夜勤から日勤への申し送りが行われていた。今日の伏見は夜勤明けだ。夜中に一時間程度の仮眠が取れるとはいえ、やはり夜勤は楽ではない。このまま寮に帰って寝るのだろう。誰もがそう思っていたのだが、伏見は珍しく制服のコートを脱ぎ捨てた。持参していたらしいジャケットを代わりに羽織れば、セプター4のトレードマークである鮮やかな青がなくなるため、一見して隊員であるとは分からなくなる。あれ、と布施が首を傾げた。
「伏見さん、どこか行くんですか?」
「あんたに関係ないでしょう」
「どこに行くんですか?」
「ちっ! ・・・髪を切りに行くんですよ」
しつこく問えば、伏見は嫌々ながらも答えてくれる。これはセプター4の面々が伏見と接するようになって学んだことのひとつだ。もちろんしつこくし過ぎると怒鳴り返されるし、睥睨を残して無視ということもありえるけれど、答えてくれることが六割だ。へぇ、と日勤の道明寺が瞳を輝かせて声をかけてくる。
「伏見さん、どこの美容院に行ってるんですか?」
「・・・渋谷のアフロートってとこですけど」
「えっ!? アフロートってあの!?」
「道明寺、知ってるの?」
「完全予約制の一見さんお断りのとこだよ! 芸能人御用達で有名な美容院!」
「伏見さん、そんなとこに行ってんですか?」
「確かに伏見さんお洒落だしなぁ」
何だかんだ全員話を聞いていたらしい。大騒ぎし始めた道明寺に、伏見は再度舌打ちをする。どこから雑誌を持ってきたのか、街中で配られるクーポン付フリーペーパーの美容室版を開いて、これこれ、と道明寺が示すのを全員で覗き込んだ。一度は行ってみたい美容院、という項目の最初に紹介されている店がそれらしく、誰もが知っている芸能人の名前が顧客として並んでいた。敷居に相応しく料金も高いが、腕も比例して素晴らしいらしい。いいなぁ、と道明寺が自身のウェーブの髪を指に巻きつけて唇を尖らせる。
「伏見さん、俺も紹介してくださいよ。一度行ってみたいです」
「別に髪なんて切れりゃどこでもいいじゃないんですか」
「芸能人御用達の店に行ってる人の台詞じゃないんですけど!」
「別に俺、行きたくて行ってるわけじゃないんで。カットモデルすればただで切ってくれるって言うから行ってるだけだし」
「あー・・・」
何だか微妙な感じで全員が納得する一言だった。基本的に物臭な伏見である。やれば何でも出来るのに最低限の力で適当な結果を出す伏見は、自身の容姿にも最低限の気配りしかしていないらしい。まぁ、それでも元がイケメン過ぎるほどイケメンなので普通に格好良いのだが。むしろ手を入れ過ぎれば逆にくどくなってしまうのかもしれない。今でも十分街中で女性を振り向かせるので、これくらいでいいのだろうとセプター4は考えている。
「毎月向こうから電話がかかってくるんで、それに行くだけだし」
「・・・伏見さん、イケメンですからね」
「カットモデルとか、そりゃ普通に声をかけられますよね・・・」
「もう行っていいですか?」
「ああ、はい、呼び止めてしまってすみませんでした・・・」
「じゃーお先です」
さっさと執務室から出ていく伏見を、隊員たちは生温かい目で見送った。何て言うかもう、流石伏見さん、と言うしかない感じだった。確かに伏見はちょっとそこらにはないようなイケメンだし、彼本来の色気が更に魅力を助長している。十九歳とはとてもじゃないが思えない、そんな性的な印象を与えるのだ。撒き散らしていると言ってもいい。あの人、歩くエロスだろ。そう言ったのは日高だったか道明寺だったか。
「金をかけずにイケメン維持とか、伏見さんマジ伏見さん」
「何だろう・・・。逆に心配になってきた」
あの人、あれで大丈夫なのか? 秋山や弁財の不安を余所に、その日もセプター4の勤務は始まるのだった。

それから一週間後。街中を出歩いていた五島からの一通のメールにより、セプター4の面々は日勤後、渋谷に集合していた。正確に言えば美容院アフロートの前にだ。暇だった隊員は全員出てきていた。一見さんお断りの美容院は、なるほどホテルのような外観をしており、見るからに敷居の高さを窺わせる。そのガラス張りの窓一面に、伏見はいた。正確に言えば、伏見のポスターは貼られていた。スリムなブラックジーンズに、肌蹴た白いシャツから胸元が覗く。襟足を飾る黒い髪。青いフレームの眼鏡を唇で咥え、気だるげな表情で伏見がこちらを見ている。背後を行き交う女性たちの声が聞こえる。
「あ! アフロートの看板変わったんだ!」
「今月も格好いいねー! この人、芸能人じゃなくて一般人なんでしょ?」
「この店のお客さんなんだって。色っぽい、格好いい!」
「一回抱かれてみたいかも。なんちゃって!」
きゃっきゃと黄色い声を挙げながら、何組もの女性たちが通り過ぎていく。うん、道明寺が頷いた。
「伏見さんマジ伏見さん・・・」
力なく呟いた後に、隊員たちは皆それぞれタンマツを取り出して目の前の伏見のポスターを写真に収めた。あの人、普通にモデルとかになっても成功するんじゃね? 誰もがそう思ったが、口には出さない。あの人本当に何者。それが隊員たちの心の声だった。





八田ちゃん、渋谷のアフロートっちゅう美容室行ってみ? 面白いもんが見られるで。
2013年5月16日(pixiv掲載2013年1月3日)