20くらい.十束多々良のアドバイス
「・・・『そいつは俺の』とか思うのって、やっぱちょっと、変っすよね・・・?」
力なく呟かれたにしては切羽詰った響きの問いかけに、思わず十束と草薙はカウンターを挟んで顔を見合わせた。質問をした張本人である八田は、隅の椅子に腰かけてカウンターに突っ伏しているため、その表情は窺えない。けれどどんな顔をしているのか何となく見当がついて、十束は軽く笑い声を上げた。
「変なことじゃないよ。相手を特別に思うなら、嫉妬するのも当然じゃない?」
「と、特別なんかじゃないっすよ!」
「八田がそう思うならそれでもいいけど」
がばっと上げられた顔はやはり真っ赤で、十束は更に声を上げて笑う。からかわれていることに気が付いたのだろう。八田が唇を尖らせるが、その額を十束はとん、と指先で突いた。途端に目を丸くして不思議そうな顔をするのだから、十九という年齢よりも幼く見えて仕方がない。
「でも、相手が友達なら、その感情は程々にした方がいいかもね。友情はお互いを尊重し合ってこそ成り立つものだから。たった一人にのめり込んだら世界が苦しくなっちゃうよ」
「尊重・・・」
「でも、恋愛なら話は別かな」
茶目っ気たっぷりでウィンクを飛ばし、十束は親切心からアドバイスを送る。異性に奥手な八田がどこまで理解出来るかは分からないけれども、何かしら得るものがあればいいとその程度の気持ちだ。
「相手のことが好きで好きで堪らないなら、独占したいと思うのは仕方ないよね。もちろん両思いであることが前提だけど。片想いのうちにそんな独占欲を発揮したら、一歩間違えばストーカーになっちゃうし」
「ストーカー!?」
「自分が想うのと同じくらいに相手も想ってくれたなら、もうそれは独りよがりの気持ちじゃないよ。所有したい、所有されたい。それが恋愛の醍醐味だからね」
「十束、語るなぁ。経験者はっちゅうやつか?」
「あはは! 残念ながらそっちの経験は皆無なんだけどね」
草薙の揶揄にも十束は笑って返す。その間もずっと八田は眉間に皺を刻み込んで考えていた。あいつは、俺のだ。宗像に引き寄せられる伏見を見て、湧き上がってしまったその占有欲はもはや否定しきれないところまで来てしまった。あの瞬間、確かに八田は伏見を自分のものだと考えたのだ。だからこそ宗像に勝手に触れられているのが許せなかった。だとしたら、この気持ちは友情なのだろうか。それとも、まさか。
「友情と恋愛の境目は単純だよ」
八田の思考を読んだかのように、十束が先回りして台詞を口にする。
「友情は『セックスしてもいいけどしなくてもいいかな』って気持ちで、恋愛は『自分以外の人とセックスしたら許さない』って感じかな」
「おまえ、それはいくらなんでも極論やろ」
「えぇ? 結構当たってると思うんだけどなぁ」
草薙と十束が話し合うのを、どこか遠くで八田は聞いていた。脳裏に、ここしばらく消えてくれない伏見の姿がまた蘇る。気が付けばいつでも伏見のことを考えている気がして、八田は再度カウンターに突っ伏して呻いた。セックス、してもいいけど、しなくてもいいかなって。そんなの。
・・・したいに、決まってる。
吠舞羅の良きお兄さん組。
2012年12月24日(pixiv掲載2012年12月23日)