11.八田美咲の喜び
青い隊服、セプター4の証。巡回よりも多くの隊員が集まっているのは、どうやら能力者が事件を起こしたからのようだった。八田に何の連絡も入っていないということは、おそらく吠舞羅の人間は無関係なのだろう。近くまでやってきて、八田はスケートボードを止めた。野次馬が群がっているから、これ以上ボードで近づくのは不可能だ。脇に抱えて、人混みを掻き分けるようにして前に出る。器物損壊か、籠城か、そんなものに興味はない。あるのはただ、伏見がそこにいるのかどうかという一点だ。そうしてアンナの示した通り、八田の望んでいた姿はそこにいた。
パソコンなどデータ処理の道具を積んでいる指揮情報車から、細身の影が降りてくる。青いコートが二ヶ月前に見たときよりも僅かに大きく見えるのは、きっと伏見本人が痩せたからかもしれない。病的に白い肌。相変わらず短い黒髪。縁のある眼鏡。やる気なく伏せられる睫毛。鮮やかな色の唇はつまらなさそうに引き結ばれている。猿、と八田が漏らした呟きを聞きつけたわけではなかろうに、伏見が顔を上げる。目が合った。瞳が大きく瞠られ、そして蕩けるように細められていく。伏見の頬が薔薇色に紅潮していく。一瞬前までの怠惰などどこにもない。喜色満面を体現していくその様に、自意識過剰ではなく執着を向けられているのだと八田は思う。消えてしまえ、と言われたあの日がまるで嘘のように。
「みさきぃ」
鳥肌が立つほど甘い声で、狂気的な音を響かせて、嫌な下の名前を呼ばれることを、これほど待ち望んだ日はなかった。これから始まるのが拳とサーベルのぶつかり合いであっても、今この瞬間、八田は確かに、伏見と会えたことに喜びを感じていた。
さる、
2012年12月24日(pixiv掲載2012年12月23日)