8.伏見猿比古の日常
宗像の執務室で一眠りすれば、随分と身体は楽になった気がする。まだ下腹部はじくじくと痛みを訴えているけれども、少なくとも夢見の悪さからなる頭痛は消えてなくなった。寝ている間は脱いでいたコートを手に、伏見は特務隊の執務室へ戻ってきた。大きな扉を押し開けようとしたところで、中で何やら隊員たちが丸くなっているのに気づく。囲まれているのが自分の机だと分かり、伏見はドアを開けかけた手を止めて様子を窺うことにした。道明寺や秋山、弁財や加茂たちの声が聞こえてくる。
「だから生理痛対策は温かくすることだろ? 伏見さんのテーブルの下に絨毯を敷くとか」
「椅子にクッション置いて、毛布も必須だよな」
「豆乳を飲むといいって聞いたことあるけど、伏見さんって豆乳飲める人か?」
「あの人の食生活って本当に酷いからな・・・。炭酸水もいいとか聞くけど」
「アロマもいいらしいぞ。リラックス出来るっていうし」
「温湿布は用意できたし、とりあえず今日はこれを使ってもらって、後は今夜にでも準備すれば・・・」
「――仕事中に何駄弁ってんだよ」
「ふ、伏見さん!」
扉を開けて姿を見せれば、秋山たちが慌てた様子で振り向いて、それぞれ手に持っていたものを背中に隠す。けれど伏見の椅子に置かれている座布団と、テーブルの上の湯気を立てる飲み物、おそらく紅茶までは隠せなくて、そのことに思わず笑ってしまった。唇の端を歪めるのではない、本当に素で漏れた笑みに自分自身で可笑しくなる。気遣われているのはムカつくけれど、でもこれは、嫌じゃない。
「あの、伏見さん、えっと」
しどろもどろに言い訳しようとする部下たちに、伏見はやはり笑った。年下の上司である生意気な女に、こんなに優しくして、居場所を作って、人がいいのとはまた違う。否定の代わりにあるのは優しさだ。
「ばーか」
ついた悪態は、まるでどろどろのはちみつみたいに甘かった。
不器用で、健気な、セプター4のお姫様。
2012年12月24日(pixiv掲載2012年12月23日)