6.伏見猿比古の切欠
伏見が女だと分かってから、八田は距離を置くようになった。話しかければ二言三言ぎこちなく答えて、そして逃げるように他の仲間たちの元へ行ってしまう。それは今まで伏見が八田の隣にいるときも多く見てきた行動だ。八田は、極端に女子が苦手だ。硬派と言えば聞こえはいいが、ただ単に奥手で臆病なだけだと伏見は考えている。だから女と知られたくなかったのだが、知られてしまった以上仕方がない。きっとそのうち慣れてくれるだろう。そう考えて、伏見は定位置となっているバーカウンターの隅に腰かけて八田を眺めていた。あいつもなぁ、と苦笑する草薙の言葉に心底同意しながら、八田が自分に慣れてくれるのを待っていた。けれど、その日は来なかった。
一週間経っても、二週間経っても、三週間経っても、一ヶ月経っても、二ヶ月経っても、三ヶ月経っても、八田が伏見を前にぎこちなさを失くす日は来なかった。まるで見知らぬ異性に話しかけられたような態度で、ぎこちないロボットのように応対してはそそくさと離れていく。いい加減にしろよ、と胸倉を掴み上げれば、それでも視線を右往左往させて、八田が伏見と目を合わすことはなかった。苛立つ自分が馬鹿みたいだと思った。
そうして決裂の日はやってきた。いつもと同じように抗争に出て、いつもと同じようにナイフを構えて、いつもと同じように先陣を切って特攻を仕掛ける八田の背中を、いつものように守っていたのに。今更ながらにそのことに気が付いたのか、振り向いた八田はぎょっとした顔をして言ったのだ。
「着いてくんじゃねーよ! っ・・・女のくせに!」
随分久方振りに投げかけられたのは、伏見を否定する言葉だった。今まで、八田美咲の隣に並んできた伏見猿比古という人間は、たったひとつの染色体の違いによって、その存在意義を奪われたのだ。
なぁ、みさきぃ。俺が女であることは、そんなに悪いことだった?
2012年12月24日(pixiv掲載2012年12月23日)