2.伏見猿比古の憂鬱





「おはよーございます・・・」
「おはようございます」
屯所の扉を押し開けてやる気ない挨拶をすれば、朝の涼やかな空気に相応しい凛とした挨拶が複数返される。年齢だけなら伏見は十九歳というセプター4の中でも最年少だが、席次は上から三つ目、実力的にも実権的にも室長と副長に次ぐ地位を任されている。だからこそ向けられる挨拶は丁寧なものばかりで、それは伏見が女であっても変わらなかった。元より、セプター4には淡島がいる。あれだけ優秀な女性が室長の右腕を務めて組織を纏めているのだから、この「青のクラン」において女性軽視は有り得ない。
己の席に着いてパソコンを立ち上げる。つきん、と下腹部に走った痛みに顔を歪めた。途端に今朝方に見た夢が思い起こされて、伏見は小さく舌打ちをする。排出されていく血の感覚にふたつめの舌打ちをすれば、ことん、とささやかな音を立てて机の端にマグカップが置かれた。コーヒー、ではなく柔らかい色合いのミルクティーが温かな湯気を立てている。伏見が顔を上げれば、道明寺がウェーブの髪を傾けて微笑んでいた。
「どうぞ、伏見さん」
「・・・どーも」
「顔色が良くありませんが、大丈夫ですか?」
「別に。ちょっと生理中なだけ」
「・・・そうですか。無理はしないでくださいね」
あけすけな台詞にも、道明寺は苦笑するだけで頬を赤らめたりはしない。確かに、年下とはいえ綺麗な顔立ちをしている伏見に女性特有の事情を話されて、異性として思うところもあるのだろう。けれど伏見は淡島とは違い、口の悪さがすでにセプター4に浸透している。毒のある美少女、それが伏見へ与えられている評価だった。鈍い痛みを訴え続ける腹を左手で押さえ、右手でマグカップを持ち上げる。紅茶にはミルクだけでなくはちみつも融かされているのか、甘ったるい匂いが鼻についた。喉を流れて、胃へと温もりが移動していく。ほんの少しだけ痛みがマシになった気がした。
「おはよう」
「おはようございます!」
扉を開けて副長である淡島がやってくる。そうしてセプター4の勤務は始まるのだ。





やるき、でない。
2012年12月24日(pixiv掲載2012年12月23日)