久し振りに袖を通したユニフォームの中に、あの頃の俺たちがいた。





大人になった僕たちは、再度永遠を口にする





手渡された青いユニフォームの背番号は10番。かつてと同じそれに、豪炎寺は深く眉間に皺を刻んだ。唇を噛み締め、手渡されたそれを押し返す。
「・・・すまない。俺は、このユニフォームを着れない。・・・着る資格がない」
「豪炎寺」
長いドレッドを揺らして鬼道が振り返る。十年という月日を経て、変化したものは多かった。その最たるものが豪炎寺修也という存在で、かつてイナズマイレブンをFFI優勝まで導いたエースストライカーは、サッカーの得点から勝敗まですべてを支配し、管理する「フィフスセクター」の聖帝として日本のサッカーに絶望と諦めを齎した。今となっては彼にも多くの理由があり、事情があったのだと皆知っている。だが、だからこそこのジャパンブルーのユニフォームに身を包む資格が自分にはないと、豪炎寺は言うのだ。子供たちから「楽しいサッカー」を取り上げた自分が今更フィールドに戻ることは許されないと。
「まだ言ってんのかよ。うぜぇな」
「不動!」
モヒカンを辞めた不動が小馬鹿にするように肩を竦める。逆に髪を切った佐久間が、左目だけで厳しく叱責を飛ばす。更に体格の良くなった壁山や飛鷹、相変わらず小柄な木暮や栗松は心配そうに先輩たちのやり取りを見ている。円堂さん、と立向居が思わず縋るように呼んだ肩を、大丈夫だというように綱海が叩いた。
「豪炎寺」
ベンチから立ち上がり、チームメイトの間を歩み、円堂が豪炎寺の前に立つ。フィフスセクターの聖帝と、雷門中サッカー部の監督と、敵対し合っていたふたりが向かい合う。眉を顰めていながらも、どこか泣きそうな顔をしている親友の肩を、円堂は数多のシュートからゴールを守り抜いてきた手でしっかりと掴んだ。
「確かに、この十年の間におまえがしてきたことは消えない」
ぎゅ、とユニフォームを掴む豪炎寺の手がきつく震える。でもな、と円堂は続けた。
「それは豪炎寺、おまえだけの罪じゃない。こんな社会を作ってしまった俺たち全員の責任だ。サッカーの出来るやつが偉いなんて、そんな馬鹿みたいな社会になり始めたときに、俺たちはもっと声を挙げて反抗するべきだった」
「円堂」
「おまえが罪を償うなら、俺も一緒に罪を償う。今からだって間に合うさ。一緒に世界を変えよう」
返された青いユニフォームを、円堂は強く押し付ける。そうして彼はまるで十年前の、中学生だった頃のようににかっと笑った。
「俺のエースストライカーは、いつだって豪炎寺だ!」
有無を言わせないわけではないのに、逆らう気を奪う様な、それどころか歓喜で埋め尽くしてくれる笑顔と台詞に豪炎寺は瞠目する。十年の時を経て、またこうして笑い合うことが出来るなど思ってもいなかった。託された信頼に応えることが喜びだった。隣に並べる自分が誇らしかった。この大きな掌に背中を預け、フィールドを駆ける時間を愛していた。心から、愛して、いたのだ。
「・・・円堂」
すまないも、ありがとうも、どちらも相応しくないような気がして、豪炎寺は円堂と視線を合わせ、ただひたすらに深く頷いた。着ていたジャージを抜いて、ジャパンブルーのユニフォームを纏う。誇り高く掲げられた背番号に、豪炎寺さん、と虎丸が歓声を挙げた。
「それじゃ、豪炎寺は試合開始と同時にファイアトルネードだな」
「おっ、いいなそれ! なまってないとこを見せてくれよ」
風丸のからかいを含んだ提案に、土方が乗って明るい笑い声を飛ばす。染岡が「先取点は任せたぜ」と背中を押し、吹雪は「僕とクロスファイア改も打とうね」と言って微笑みかけた。ヒロトやリュウジも穏やかな表情を浮かべており、ああ、と首肯しながらも豪炎寺は込み上げてくる熱い思いを堪えることが出来ない。先程とは異なる意味合いで歪む表情に気を使ってくれたのだろう。さて円堂、と鬼道が視線を集めて話を逸らしてくれる。
「今回対戦するのはおまえの可愛い教え子たちなわけだが、手加減はしなくていいんだな?」
もともとする気もないだろうに、確認してくる鬼道に円堂も笑う。それは十年前ならしなかっただろう、唇の端を吊り上げる挑戦的な笑みだ。多くの苦汁を舐めてきたからこそ、そういった表情がまた円堂を魅力的に見せる。
「当たり前だろ。あいつらは日本に本当のサッカーを取り戻してくれた。だったら、その熱意に応えてやるのが俺たちの義務だ」
「ならば、戦術は俺に任せてもらおう」
「鬼道チャン、何自分だけいいとこ取りしようとしてんだよ」
「あの女の子みたいなディフェンダー、まるで当時の風丸君みたいだね」
「ヒロト、それはどういう意味だ・・・?」
わいわいぎゃあぎゃあと騒ぎ出せば、もはやそこは懐かしい空気に取って代わる。この十年、本当にいろんなことがあった。誰もが道を違え、遣る瀬無い思いを抱いてひとり、またひとりとサッカーから離れていった。辛いことも悲しいことも、ほんの少しの楽しいことも嬉しいことも、たくさんのことがあったけれども、それを乗り越えて今の自分たちがいる。
「―――俺たちは」
円堂の声に豪炎寺が顔を上げる。仲間たちが振り返り、仰ぐ。キャプテンの横顔はまっすぐにフィールドと、二色のボールへと向けられている。十年の時を経て、今。
「俺たちはサッカーから離れた。だけど、『サッカーを好きだ』っていう気持ちとは、ずっと一緒だった。どんなときだって、その思いはずっと俺たちの中にあった」
芝生ではフィフスセクターを倒し、現在の日本の中学校の頂点に君臨している雷門中イレブンの姿がある。蘭丸とポジションを確認していたのだろう。額を合わせて真剣な顔をしていたキャプテンの拓人が視線に気づいたのか顔を上げ、秀麗な表情を僅かな緊張に変える。けれどすぐにぐっと顎を引き、彼は声を張り上げた。
「円堂監督!」
拓人の呼びかけに、フィールドにいた誰もが振り向く。強張った顔で、それでも雷門中の現キャプテンは剛毅に笑ったのだ。
「この試合だけは、あなたは俺たちの敵です! 絶対に負けませんから!」
教え子からの堂々とした宣言に、思わず円堂の瞳がぱちりと瞬く。天馬も振り返り、握った拳を円堂へと向けて突き出した。
「俺だって! 必ず円堂監督からゴールを奪ってみせます!」
その隣では、雷門中のユニフォームに身を包んだ剣城の姿もある。部員たちの姿に、くらりと十年前の自分たちが重なった。進む先には幸福が待ち受けていると信じていた。馬鹿みたいに疑ってもいなかった。そうして辿った道程が今に至る。ならば、彼らのために未来を切り開いていくのが、大人になった自分たちの役目だ。
「よしっ!」
嬉しくなって円堂は、グローブに包まれた掌に拳を打ちつけた。右に豪炎寺が、左に鬼道が迎え撃つように並ぶ。背を追ってくる仲間たちの存在を信じている。だからこそ力の限り叫ぶのだ。新旧イナズマジャパンの戦いに、キックオフの笛が鳴る。円堂は笑う。―――未来は、明るい。
「サッカーしようぜ!」





超次元捏造だけど、無印メンバーがまたみんなでサッカーしている姿が見たいので、こういう最終回になるって期待してる!
2011年7月9日