(注意)
我らがキャプテンが生まれつき女の子です。ツインテールです。それでもよろしければどうぞー!






円堂守。雷門中サッカー部のキャプテンであり、イナズマキャラバンの、日本代表イナズマジャパンのキャプテンでもあるその存在は、今や日本中で広く知られる有名人だ。襲い掛かる数々の危機を、グローブを嵌めた掌と、何よりサッカーに対する熱い情熱で乗り越えてきた円堂に寄せられる信頼はとても大きい。同じフィールドに立ってプレーをしたら、惹かれない輩など決していない。それだけ円堂守という存在は魅力的なプレイヤーなのだ。そう、まるで太陽のように眩しく輝く。
しかしそんな円堂とて、プライベートでは普通の中学生だ。いや、常にサッカーのことを考えているから「普通の」とは言い難いかもしれないが、それでもどこにでもいそうな中学生ではある。ただ他の仲間たちと違うのは、円堂が纏う雷門中の制服は、黒の学ランではなく白いブラウスに緑のスカート、そして同じく緑のリボンであることだ。すらりと伸びたふくらはぎを覆うハイソックスに、ツインテールに結わかれているこげ茶色の髪。さすがに制服のときはバンダナを外しているけれども、笑う彼女はどこからどう見ても女子中学生だ。そう、円堂守は女の子だった。世界に認められたナンバーワンゴールキーパーは、中学二年生の女の子なのである。
運動神経は抜群だけれど、勉強はどちらかと言えば苦手でテスト前はいつも大変。騒がしくして教師に起こられることも時々あるけど、決して憎めないから男女ともに交友関係は幅広い。大きな口を開けて笑う姿も、お弁当じゃ足りなくて購買に走る姿も目撃される。黙っていれば容姿はそれこそ美少女と呼ばれるに足るものなのに、泥だらけになって練習に勤しむことの方が大切だと胸を張って主張する。それが円堂守だ。誰もが目で追ってしまう、それこそが円堂守という女の子だった。





青春には早すぎる





「? それのどこに問題があるんだ?」
露わになっている右目を心底不思議そうに瞬いて、風丸は小首を傾げる。長い髪と中性的な顔立ちが相俟って、その様子は酷くコケティッシュだったが、彼の性格を知っている鬼道は嘆息せざるを得なかった。風丸一郎太という人物は、その容姿に反して非常に男らしい性格をしている。些か繊細過ぎるきらいはあったが、それも責任感の強さからくる反動だと考えれば納得できた。何よりあの円堂の幼馴染であり、昔から彼女の良き相談相手を務めてきたのだ。フォローが上手くて常識があって、共にフィールドを駆けるのに相応しい相手だと認識している。しかし、今の発言はいただけない。心なしか痛む頭を押さえて、鬼道は溜息を吐き出した。
「・・・問題があるどころの話じゃないだろう」
「何がだ?」
「円堂に告白しようとする男を影で全部退けてきたなんて・・・。いくら幼馴染とはいえ、それは許されないだろう」
そうなのだ。授業が終わった放課後、いつものようにサッカー部の練習に向かうまでの時間、鬼道と風丸は他愛ない話をして暇を潰していた。隣の円堂のクラスはいつだってホームルームが少し長くて、いつも彼女はサッカーボールを抱えて今か今かとうずうずしながら「さようなら」の号令を待っているらしい。それが分かっていながらも切り上げようとしない担任教師は、おそらくそんな円堂が可愛くて、良い意味で焦らしたくて仕方ないのだろう。若い女性教師だからいいものの、これが男性教師だったら目の前の少年にセクハラとして訴えられた挙句、同じく円堂を愛する理事長の少女によって職を失う羽目になっていたに違いない。この学校は円堂を中心に回っているな、と今更ながらに鬼道は思った。もちろん彼とてその中の一人である自覚はあるが、目の前の風丸ほどではない。と、思いたい。
「だって鬼道、円堂なんだぞ?」
この「円堂だから」は、強力な呪文だと鬼道は認識している。それこそ円堂の「サッカーしようぜ!」に匹敵する一撃必殺の呪文だ。だって円堂だから、そうだよ円堂だもんな。こうしていくつ難題を呑み込んできただろうか。円堂だから、で納得させてしまう少女自身にも問題はあるけれども、風丸の言う「円堂だから」には少しばかり違ったニュアンスも含まれている。だって円堂だから仕方ない。風丸の場合は、その台詞の後にこう続く。だって円堂だから仕方ない、俺がこうして動くのは。
「円堂が可愛いのは鬼道も知ってるだろ?」
「・・・ああ」
何のてらいもなく幼馴染を「可愛い」と言ってのける風丸には、思春期という言葉はないのだろうか。鬼道は思わず考えてしまった。いや、これはおそらく豪炎寺が「夕香は可愛い」と言うのと同じなんだろう。つまりは鬼道自身が妹である春奈を「可愛い」と思うのと同義であるはずだ。いやしかし鬼道とて、まさかここまで馬鹿正直に真顔で妹のことを第三者に褒めるなんて出来ないはずだ。そこまでシスコンではない、と、思いたい。
「円堂は昔から可愛くて、もちろんサッカーばかりやってたから一緒に遊べばいつだって泥だらけになったけど、それでも可愛いから、変な奴に目をつけられることが多いんだ」
「変な奴? まさか変質者か?」
「ああ。俺が知ってるだけで、両手の指の数は超える」
「っ・・・!」
もちろん全員通報して警察送りにしてやったけどな、なんて風丸の声は素通りだ。あの天真爛漫にサッカーする円堂と、変質者。最も繋がってはいけないふたつが結ばれてしまい、鬼道の中を怒りと焦りが席巻する。
「円堂は人見知りをしないだろ? 声をかければちゃんと返事をするし、ましてやあの可愛さだ。『これあげるよ』って渡されるお菓子は断れても、『一緒にサッカーしようか』って言われたら断れない。というか、断らない」
「・・・ああ、断らないな」
真っ先に鬼道の脳裏に浮かんだのは、何故だかイナズマジャパンの仲間であるはずの基山ヒロトの顔だ。今でこそ「円堂君!」と信頼と敬愛の中に限りない愛しさを込めて名を呼ぶヒロトだが、彼もエイリア学園に在籍する宇宙人として自分たちと敵対していた過去がある。正体を隠して円堂に近づき、「サッカーしよう」と誘ったこともあり、当初は鬼道もヒロトを不審者と判断していた。今でもその考えは実は間違っていなかったのではないかと思わないでもないが、とりあえずヒロトも優秀なサッカー選手ではある。センスは、認める。
「警戒心の薄い円堂を守るためには、俺がしっかりするしかなかったんだ。一番最初に覚えた電話番号は110番だった」
「いや、風丸、おまえの行動は間違っていない。今までよく円堂を守ってくれた」
「鬼道・・・」
「円堂に代わって礼を言おう。本当にありがとう」
ゴーグル越し、鬼道は本気で感謝した。円堂が今の円堂でいられたのは、間違いなく風丸の力が大きい。確かにあれだけの可愛さなのだ。こげ茶色の髪の毛や、くるくると動く大きな瞳など、愛らしい顔立ちだけではない。円堂はスタイルだっていい。サッカーするのに邪魔で仕方ないと彼女自身はぶつぶつ不満を言っているけれども、その胸の大きさはサッカー部のマネージャーたちからしてみれば羨ましいを通り越して狡いと言いたくなるほどらしい。ぷりんとした尻の形だって、鍛え上げられているけれど柔さを失っていない足だって、体中のどのパーツを取っても十二分に魅力的だ。そんなことを思って、鬼道は反射的に己の頭を右から殴った。何を考えている。これでは円堂に悪戯しようとした変質者と一緒じゃないか。女であろうと彼女は自分の大切なチームメイトであり、頼れるキャプテンであり、誰より尊敬するプレイヤーなのだ。いやでも円堂が魅力的な女の子であることも、やはり事実だ。すでに成熟しかかっている身体と、明るくて無邪気ないくつもの表情。アンバランスなその二極は、更に彼女を蠱惑的に見せている。
「しかし・・・だからといって、円堂に告白しようとする男を全部蹴散らすのはやり過ぎじゃないか・・・?」
少しばかり脱線したが、今度は物理的な意味で痛む頭を押さえて鬼道は話を戻した。そう、最初はこの話をしてたのだ。鬼道は今日、クラスメイトの男子が「円堂って可愛いよな」と言っているのを聞いた、と風丸に話した。あいつはもてるんだな、と少しばかり誇らしげに、それでいてやはりどこか寂しく思ったりしながら言えば、風丸はその男子生徒の名前を聞いてきた。素直に鬼道が答えれば、風丸は言ったのだ。じゃあそいつ、明日の放課後には校舎裏に呼び出さなくちゃな、と。不穏な気配に詳細を聞き出せば、風丸は円堂に好意を向けている男に対して一人も逃さず牽制してきているらしい。時に言葉で、時に笑顔で、部活に支障が出るから暴力は伴わないけれども、時に脅しも含むのだろう。顔で笑いながらも目だけは決して笑っていない、そういった器用な表情をすることが出来る男なのだと、鬼道は風丸を知っている。
「だって、そいつが円堂に何かするかもしれないだろ?」
「何かって・・・いや、皆まで言うな。確かに知らない大人なら危険だが、中学生で、しかも同じ学校に通っているんだぞ? 誰かを好きになったりするのは当然じゃないか? その相手が円堂だったというだけの話で」
「鬼道。性犯罪の半分以上が知人によって行われているって知ってるか?」
「・・・・・・」
「まぁ、今のは言い過ぎだとしても。相手が円堂だからな。よっぽどしっかりした奴じゃないと彼氏にはなれないと思うんだよ」
だから俺に何か言われたくらいで引く男なんてもっての外だと、風丸は笑う。隣の円堂のクラスは、まだ終わらない。今更ながらに鬼道は今が放課後だということを思い出した。教室にはまだちらほらと生徒が残っているのに、何で自分はこんなにヘビーな話を聞いているのだろうか。心底不思議で仕方がないが、風丸はいつも通りの涼しい顔で机に肘をついている。
「・・・それなら、どんな奴なら円堂に相応しいんだ?」
「とりあえず円堂が困らないように、ある程度の収入は必要だな」
もはや同年代は斬り捨てられた。大人は変質者扱いするくせにどういうことだ。鬼道は思わず眉間に眉を刻んでしまったが、風丸は細くて形の良い、それでも少年らしく骨ばった指を折って条件を羅列する。
「優しいのは当然だし、円堂が恥をかかなくて済むようにある程度の容姿もいるだろ? 円堂は少し抜けてるから頭が良くてしっかりしてないと駄目だし、円堂は一人娘だから婿入りしてくれなきゃ困る。サッカーに理解があるのは当然だし、円堂がサッカーをするのを邪魔するような男は論外だ」
「おまえは円堂の父親か」
「まさか。せめて兄かと言ってくれよ」
はは、と風丸は笑うが、彼の言っていることはそこら辺の娘を溺愛している親馬鹿と大して変わらない。もちろん鬼道も妹を嫁に出す日が来たら目を皿のようにして相手の男を査定する気ではいるが、血縁でない風丸と円堂の間でそれが行われるのも不可思議な話だ。そこで鬼道はふとある考えを思いついた。可能性がないわけではないし、ある意味当然だとも思うわけだが。
「・・・おまえが、円堂の彼氏になるつもりか?」
後で振り返り、何て色気のない聞き方だったのかと鬼道自身反省したが、問われた風丸は虚を突かれたかのように瞳を丸くした。そしてぷっと吹き出して、肩を震わせて笑い始める。あはは、と今度こそその声は明るいものだった。
「まさか! 円堂は俺には勿体なさ過ぎる。俺は円堂に相応しい誰かが現れるまで、あいつを守っていくだけさ」
「・・・そうか」
「ああ。だから鬼道と豪炎寺には感謝してるんだ。おまえたちも円堂のことを守ってくれてるだろ? 特に鬼道は円堂に常識を説いてくれるから、俺も助かってるんだ」
「・・・円堂だからな」
「そうそう、円堂だから」
一枚壁を隔てた向こう側で、がたがたと椅子や机の動く音が重なる。たちまち賑やかになった空気を鑑みるに、ようやくホームルームが終わったらしい。がらっと扉の勢いよく開く音がして、二秒後には予想通りサッカーボールと大きな鞄を抱えた円堂が顔を出した。ツインテールに結わかれている髪が嬉しそうに肩先で跳ねている。
「鬼道、風丸っ! 早く部活に行こうぜ!」
「行こうぜって、おまえのことを待ってたんだぞ」
苦笑しながら鬼道も風丸も立ち上がって鞄を手に取る。円堂の後ろには当然のごとく豪炎寺が立っており、その様子はさながら姫を守る騎士のようだ。雷門中でも豪炎寺や鬼道、風丸はその整った容姿から女子生徒に人気がある。そんな彼らが大切にしている女子として、円堂に嫉妬の矛先が向かいそうなものだが、「円堂だから」という呪文は同性にも有効らしい。むしろ誰かを守る姿が格好いいよね、と評判はうなぎのぼりで、円堂自身が色恋に興味を示さないからこそその傾向は顕著だった。早く早く、と今にもサッカーがしたくて堪らないらしい円堂は、満面の笑顔でふたりを手招きしている。鬼道の愛しい、太陽のような笑顔で。
「ああ、でも」
一歩前を行っていた風丸が振り向いた。
「円堂の彼氏になりたいっていうなら、俺はふたりも認めないからな? 鬼道には音無がいるし、豪炎寺には夕香ちゃんがいるだろ? 円堂だけが大事だっていう奴じゃないと、俺は許せないからさ」
行こうぜ、と笑って扉へと向かう背中を、鬼道は立ち尽くして見送ってしまった。ボールを抱き締めている円堂が今日の練習メニューについて風丸に話しかけている。うんうんと頷きながら、風丸が優しい所作でブラウスの襟元に挟まれてしまっているこげ茶の髪を解いてやった。首筋を掠める指先にも円堂はくすぐったそうに笑うだけで、そこには甘さと慣れだけがある。つまりそれだけ、風丸は円堂を大切にしてきたということだ。彼女を傷つける可能性のあるものすべてを排他する勢いで。
「鬼道、どうした?」
「・・・いや」
豪炎寺に声をかけられても、鬼道は曖昧に首を振るしか出来ない。先を行く風丸と円堂はどちらも笑顔で、そのことが奇妙に感じられてしまい仕方がなかった。円堂と、妹である春奈と、秤にかけることなんて鬼道には出来ない。どちらも大切なのだ。向ける愛情の種類は違うかもしれないけれど、どちらも。自然と歩みが遅くなってしまったのか、先に昇降口に辿り着いた円堂が振り返って手を振る。
「鬼道、豪炎寺! 早くー!」
その隣で風丸が優しい眼差しで円堂を見ている。とてもじゃないが鬼道は、この鉄壁ディフェンダーを抜ける気がしなかった。―――少なくとも、今は。





春奈がしかるべき相手と結ばれて結婚した暁には、とか考える鬼道でした。豪炎寺以下略。守ちゃんはツインテール!
2011年4月10日