Last.三月





まだ寒さの残る季節、岩泉と及川は青葉城西を卒業した。最後の最後までバレー部の後輩たちに涙ながらに見送られ、また遊びに来るから、と手を振った。顔を上げて、胸張ってコートに立てよ、と岩泉は背中を押した。ひとりで無茶するんじゃなくて、みんなで頑張りな、と及川は肩を叩いた。ばいばい、と最愛のコートに別れを告げる。涙はない。やれることはやり切った三年間だった。
最後のチャンスとばかりに女子に猛追される及川を見捨て、岩泉は花巻と松川とさっさと学校を後にした。他愛ない話をして、分かれ道で「またな」と挨拶する。花巻は都内の大学に、松川は逆に地元で進学することが決まっていた。岩泉と及川が埼玉へ発つ前にまた集まろうと約束しているため、暫時の別れは軽いものだ。それに、距離が離れたところで疎遠になるような浅い三年間ではなかった。じゃーな、と卒業証書の入った筒を揺らして、岩泉はひとり家路を辿る。のんびり歩いていると、後ろから足音が聞こえてきた。速いそれはあっという間に近づいてきて、荒い息遣いさえ分かる距離に来る。呼びかけられる。
「待ってよ、岩ちゃん! 置いてくなんて酷い!」
「着いてこないおまえが悪い」
「そうだけど、そうだけどー」
唇を尖らせて及川が隣に並ぶ。ブレザーのボタンはひとつもないし、ネクタイは死守したのだろうけれどもよれよれだ。いい格好だな及川サン、と揶揄すれば、女の子って本当に怖いよね、と青褪めた顔で返される。いつもは女子に騒がれても笑って対応する及川だが、今日ばかりは鬼気迫るものがあったらしい。思わず岩泉は笑ってしまった。
「何笑ってんの」
「べっつにー」
じっと恨めしげに見られても怖くなんかない。岩泉がにやにやと逆に見返せば、及川は小さく肩を竦めた。ふたりが手に持つ卒業証書が、ぶつかりこつんと音を立てる。春からまた、新しい生活が始まる。新しい場所で、新しい仲間と共に、新たな挑戦が始まるのだ。何も恐れることはない。隣を向けば及川が、岩泉がいる。時に叱咤し合い、殴り合い、引き摺り立たせ、支え合って、そして並び立てばいい。そう出来る相手と出逢えたことが何よりの幸福だ。
「岩ちゃん」
「何だよ」
蕩けるように及川が笑うものだから、岩泉もつい表情を緩めてしまった。差し出された手を握り締める。絶対が、ここにある。この温もりさえあればいくらだって飛べる。心の底から、そう思う。
いつかバレーを辞めるその日まで。バレーを辞めたらその先も。共に在ろうと、固く誓った。





君がいるならどこへでも行ける。挑戦こそが人生だ!
2014年1月5日(pixiv掲載2014年1月3日)