15.十月下旬
第二セットをもぎ取り、フルセットへと持ち込んだときの牛島の顔を、及川は一生忘れないだろうと思う。得意の強烈なスパイクをかなりの確率で拾われて、驚いているのが手に取るように分かる。ざまぁみろ! 試合中でなければ及川は声高々に叫んだだろう。白鳥沢は確かに強いし、牛島は及川の知る限り才能的には最高のスパイカーだけれども、それだけで王者で在れるほど、在らせてやるほど、高校バレーをしている者たちは甘くない。よっしゃあ、と歓声に青葉城西のコートが、ベンチが、客席が沸いた。打倒白鳥沢は宮城県内すべてのバレーボール部の悲願だ。それだけ牛島を擁する白鳥沢は勝ち続けてきた。壁であった。ぶつかれば砕ける、強すぎる壁であった。だけど、でも、諦めたことなど一度もない。
ぐるぐると目まぐるしく体内で血が回る。その一方で思考は冷静だ。仲間の肩を叩き、声を掛け合い、拳をぶつけて意志を重ね、眼を見つめる。行くぞ、と上げるのは叫びだ。六年かけてここまで来た。そうして今ようやく、刃が届かんとしている。ずっと積み重ねてきた努力という名の刃が。
コート上で六人がまるでひとりになったかのような感覚を覚える。すべての鼓動が、呼吸が、願う一瞬のために共有されていく。
おまえにこの感動が理解できるか?
2014年1月5日(pixiv掲載2014年1月3日)