8.十月上旬





春高の宮城県予選は十月二十四日から三日間の日程で行われる。その組み合わせが約三週間前の今日に抽選で決まるため、部長の及川は監督の入畑と共に会場へと行っていた。他の部員たちは変わらずに、コーチの溝口の指示の下、練習に励んでいる。昼休憩に入ろうとしたところで、及川がひょっこりと体育館に顔を出した。今日の彼は土曜日にも関わらず制服を着ている。抽選会はジャージではなく制服を着ていかなくてはならなかったらしい。面倒だよー、と今朝岩泉に送られてきたメールでも言っていた。
「おかえり。組み合わせどうだった?」
タオルで汗を拭いながら岩泉が問えば、及川は満面の笑みでダブルピースをしてみせた。
「んふふ、褒めてくれていいよ! 何と白鳥沢とは別ブロック! それと烏野ともね!」
「お、ラッキー」
「順調にいけば勝ち進めそうだな」
組み合わせは勝敗に大きく関わってくる。宮城県内で男子バレーボール部のある学校は四十三校だが、夏のインターハイ予選で優勝した白鳥沢と準優勝の青葉城西は、春高バレー、正式名称は全日本バレーボール高等学校選手権大会というが、その県代表決定戦の一次予選を免除され、本戦からの参加となる。この二校と一次予選を勝ち進んできた十四校を合わせた十六校で、春の県代表を決めるのだ。
及川がフロアに紙を広げると、岩泉や花巻や松川をはじめ、部員たちが我先にと覗き込む。角の多い三角形は、四回勝てば全国へ進めることを指し示している。
「二回戦が伊達工か」
「確かあそこ、三年が夏で引退したよな。一次予選は二年主体で組んでただろ」
「鉄壁って言われるだけあって、高さがありますよね」
「あとリードブロック。あれも厄介だよな」
「代替わりしてまだ連携は完璧じゃないだろうから、狙うとこ狙ってガンガン打ってこうね」
昼食の時間だというのに、誰もが組み合わせ表を見てそれぞれ思ったことを口にしている。青葉城西のバレー部は親御さんたちの協力を得て、他校の試合のデータも記録している。いくつも残されているその中には代替わりを経た伊達工の最新のものも入っており、後で見よう、と皆で頷く。
「和久南は反対側のブロックか。うわ、烏野と一回戦で当たってる」
「決勝で当たりそうなのは、白鳥沢か烏野か和久南って感じですね」
「じゃあそこらへんの対策もがっちり練って」
「おまえら、喋んのはいいけど飯食いながらにしろ。時間なくなるぞ」
「っす!」
溝口からの注意に、後ろ髪を引かれながらも昼食を抜くことは高校生男子的にしたくないので、のんびりと立ち上がる。弁当は鞄ごと部室に置いてあるため、全員が体育館を出て部室棟へと向かう。及川も制服からジャージへと着替えるために、最後尾を岩泉と並んで歩いていた。手の中の組み合わせ表は、部室の掲示板に貼っておく必要がある。決戦は三週間後。
「ウシワカも飛雄も、全部負かさなきゃ全国には行けないなんて、そんな馬鹿なことは言わないよ。敵には潰し合ってもらった方が都合がいい」
「トーナメントだ。運も実力の内だろ」
「今年は余裕を持って白鳥沢に挑めそうだ」
「そのためにはまず目の前の試合だっつってんだろ」
「分かってるよ」
鋭く向けられた視線に頷けば、岩泉も「ならいい」と言ってくる。決勝に上がってくるのが白鳥沢だろうと烏野だろうとどちらでもいい。前者なら牛島を今度こそ負かせるだけだし、後者なら牛島に勝ってきた烏野を負かせることが間接的に白鳥沢への勝利へと繋がる。格好に形振り構ってなんかいられない。欲しいのは勝利だけなのだ。
「勝つよ、岩ちゃん」
「おう」
部員たちの背中を見ながら、拳をひとつ、こつんと合わせた。





描く、勝利への道。
2014年1月5日(pixiv掲載2014年1月3日)