4.九月上旬
「どっかの副部長が抜け駆けしていると聞いて」
「どっかの副部長が自分だけレシーブを上手くなろうとしていると聞いて」
「これは由々しき問題ですよ、松川さん」
「そうですね、花巻さん。チームプレーの欠片も見られませんね」
「っ・・・分かったよ! 連れてきゃいいんだろ、おまえらも!」
両側からひそひそとわざとらしく聞こえるような声量で話され、元来気の長くない岩泉は乱暴に机を叩いた。了承の返事を取り付けて、うんうん、と満足そうに頷いている花巻と松川は、岩泉と及川と同じように三年生でありながらも引退はせず、一月の春高まで部活を続けると決意した仲間だ。それぞれウィングスパイカーとミドルブロッカーで、身長はやはり百八十センチメートルを越えている、岩泉からしてみれば羨ましい限りの相手だ。もちろんパワーやバネで負けるつもりはないけれども。
「月曜と水曜と土日だっけ?」
「おう。渡もな、体力に余裕があるなら連れてきてぇんだけど」
「金田一と国見は及川とマンツーマンで特訓だな」
「攻撃のバリエーションもっと増やしたいし」
「矢巾もその方が来年の参考になるだろ」
「そんじゃ、後で渡も誘いに行くか」
切っ掛けは違っても、負けたくない、勝ちたい、という思いは誰もが同じだ。特に大学受験という、将来に直接的に係わってくる問題を脇に置いてでも事を成し遂げたいと、一度掲げた決意は固い。だけど、共に挑む者がいるならどんな重圧にも耐えられる。笑っていける。それでいいと岩泉は考えている。重苦しいばかりでは人は進めない。仲間がいるから頑張れるのだと、仲間が一緒だから乗り越えていけるのだと、彼はとうに知っている。
「行きます! 参加させてください!」と、渡も意気込んでそう言った。
2014年1月5日(pixiv掲載2014年1月3日)