埴之塚光邦こと通称ハニー先輩は、きっとケーキから出来ている。
少なくともハルヒの認識はそうだった。
ストロベリーハニー小悪魔風味
「ハールーちゃん! これあげるーっ!」
ぽーんっという効果音と共に抱きついてきたハニーに、ハルヒは前のめりになってたたらを踏む。
「あ、ありがとうございます、モリ先輩」
すっと手を伸ばして支えてくれたモリに礼を言って振り向けば、斜め下にはにこにこと砂糖菓子のように笑っている幼い顔があって。
差し出されているこれまた小さい手に載っているのは、ハルヒも知っている駄菓子だった。
「わぁ、ジュエルリングですね」
その名の通り、指輪の形をした飴である。リングのところはプラスチックになっており、宝石に当たる部分に大きな飴がついている。指輪のように指に嵌めて食べるという、駄菓子屋では女の子に人気の一品だ。
ピンク色なのはイチゴ味だからだろうか。ハニーは嬉しそうに彼専用の花を飛ばす。
「これねぇ、僕が自分で買ったんだよ」
「へぇ、そうなんですか」
「だからね、ハルちゃんにあげる。もらってくれる?」
小首を傾げるハニーは、それはそれは高校三年生に見えないほど可愛らしい。彼のファンの女生徒たちが見たら、きっと涙を流して黄色い声を上げるだろう。
しかし向けられているのはハルヒなので、彼女は泣くわけでもなく目を瞬いた。
「いいんですか?」
「うん!」
「じゃあ頂きます」
「僕がつけてあげる!」
パリッと袋を破く音に、ハルヒは「何分で食べ終わるかな・・・」と思いながら右手を差し出した。
けれどハニーはぷくっと頬を膨らませる。
「違うよーこっち!」
ぐいっと引っ張られたのは左手。そして大きなキャンディーは、ハルヒの薬指にまるであつらえたかのようにピッタリと嵌められた。
懐かしい感覚に、思わずハルヒも笑みを浮かべる。
「ありがとうございます、ハニー先輩」
「ハルちゃんは僕が幸せにするからね!」
「? はい」
「幸せな家庭を作ろうねぇ!」
心底ご機嫌なのか、常の10倍も花を飛ばしているハニーの左手薬指には、ハルヒと同じピンク色のジュエルリングが。
やっぱりイチゴ味かなぁ、とハルヒは思うが、そんな和やかな光景を黙って見逃せないのがホスト部の皆さんであり、自覚無自覚ハルヒスキーの皆さんだ。
「「「ちょーっと待ったぁ!」」」
先陣切って割り込んでくるのは、いつも双子と環だ。
「ハニー先輩! 何僕らを差し置いてハルヒにプロポーズなんかしてんの!」
「そうだよ! ハルヒは常陸院の養子になるんだからね!」
「「抜け駆けなんて許すまじ!」」
「ハハハハハハハルヒィ! お、お父さんの許可もなく他の男と婚約だなんて、そそそそんなことお父さんは断じて認めんぞっ!」
「まぁ俺はバツイチだろうと何だろうと構わないが、世間体というものもあるしな。とりあえず考え直しておけ、ハルヒ」
「・・・・・・・・・」
何だか勝手なことを言っている双子といい、滂沱の涙でしがみついてくる環といい、しれっと言ってくれちゃっている鏡夜といい、無言で頭を撫でてくるモリといい。
今日もみんな元気だなぁ、と間違った感想を抱きながら大きな宝石を舐めてみれば、やはりそれはイチゴの甘い味がして。
「ハルちゃん、大好きっ!」
まるでハニー先輩みたい、とハルヒはそんなことを思うのだった。
――――――数日後。
「藤岡先輩」
「あれ? 確かハニー先輩の・・・・・・」
「弟の靖睦です。いつも兄がお世話になっています」
「いえ、こちらこそ」
「この度は婚約おめでとうございます。あんな兄のどこが気に入ったのかは知りませんけれど、まぁあなたがいれば少しはまともな食生活を送るだろうし。不束な兄ですがどうぞよろしくお願いします」
「はぁ・・・・・・?」
「両親も是非お会いしたいと言ってますので、今度食事にでもいらして下さい」
「はぁ・・・・・・」
「それでは失礼します。光邦のこと、本当にどうかよろしくお願いしますね」
「はぁ・・・・・・」
ハルヒは知らない。ケーキから出来ていると思っている埴之塚光邦が、実はとてもナチュラルに用意周到な人物であることを。
そんな彼の婚約者として周囲に認知されつつある自分を、ハルヒは全然知らないのだった。
鏡ハル双子ハル等ハルヒ総受けが大好きですが、個人的一押しはハニハル。ハニー先輩男前説を推奨してます。ブラックもまた良し。
2006年4月12日