WW学園は朝八時半に始業する。それ以前に生徒たちは登校するが、時間はまちまちだった。イタリアなどは兄弟そろって時間ぎりぎりに滑り込んでくることが多く、逆にドイツやプロイセンは八時には教室にいたりする。ロシアはリトアニア・エストニア・ラトビアを連れて登校するのが常だったし、イギリスは生徒会の用事があるときとないときで時間が異なる。生徒たちは朝から賑やかに登校し、昇降口をくぐる。
しかし今朝だけは違った。ライフルを肩にかけた男子生徒がひとり、昇降口の前に立っていたのだ。
「・・・・・・スイス?」
ぽつりとした呟きに、スイスは伏せていた瞼を押し上げる。ぎらりと獲物を前にしたような鋭さは、イギリスを一瞥すると興味なさげにまた伏せられた。
「何でおまえがここにいるんだ?」
「我輩とてこの学園の生徒であるはずだが?」
「それは、そうだが」
取り付く島もないとはこのことだ。どうしたものかとイギリスは逡巡したが、これ以上突付いて逆に痛めつけられるのは拒否したい。ちらりとスイスの無表情な横顔を見つつ、イギリスは彼を通り過ぎた。
しかし気になって二階の生徒会室の窓から見下ろしていると、徐々に登校してきた生徒たちもそれぞれスイスを見て首を傾げたり、ぎょっとしたりしている。フランスはスイスを見るなり顔を青くさせ、彼から五メートルの距離に入らないよう円を描いて昇降口に駆け込んだ。オーストリアとハンガリーは僅かに驚いたようだが、二・三言葉を交わしているのが見えた。アメリカやトルコやギリシャ、スウェーデンやフィンランドは直接面識を得ないのか素通りしていく。中国はあからさまに嫌そうに顔を歪め、韓国も険をあらわにしている。けれど彼らに挟まれている日本は、スイスがそこにいるのが当然のように挨拶を投げかけた。
「おはようございます、スイスさん。学校にいらっしゃったんですね」
「貴様が持ってきたテスト対策の中に、貴様のノートが紛れていたから持ってきただけである」
「そうですか。ありがとうございます」
あっさりと礼を述べた日本に、イギリスは「あれ?」と思った。他者に礼を尽くす日本ならば、スイスに手間をかけさせてしまったことに対し謝罪を連ねると思ったのだが、それがない。受け取ったノートを鞄に収め、日本はスイスに微笑みかける。
「よろしければ御礼をさせていただけませんか? 放課後、お茶でもご馳走させてください」
はっと息を呑み、スイスが悔しげに唇を歪めた。
「・・・・・・貴様、これが狙いだったのか」
「さぁ? 何のことでしょうか」
「我輩に学園に来させるため、わざとノートを紛れさせておいたのだな。小賢しい真似を」
「戦略と仰ってくださいな。昨日のお返しです」
むむ、とスイスが眉根を寄せると、日本は楽しそうに笑った。どこか「してやったり」といった感じの表情はイギリスが初めて目にするもので、溌剌とした印象を与える。キュートだと、以前にアメリカの言っていた言葉が何故か思い出された。
「教科書がない」
「偶然にも、今日のヨーロッパ組と亜細亜組の時間割内容は同じなのです」
「昼食もない」
「偶然にも、今日はひとつ多くお弁当が出来てしまったのです」
「退屈だ」
「偶然にも、今日はクロスワードパズルの雑誌を持っているのです」
「・・・・・・その茶とやらは、日本茶なのであろうな?」
その言葉は推測の範囲外だったのか、日本は睫毛を瞬いた。その顔を見てスイスは意趣返しが出来たのか、満足そうに腕を組んで笑う。つられるようにして日本も笑顔になった。
「お望みでしたら和菓子もお付けしますよ」
「ならば商談成立だ」
他の者には割って入れない雰囲気の二人に、イギリスは唇を噛み締める。日本が昨日、スイスの家に届け物に行ったのは知っている。だとしても一日だ。それだけでこんなにも何かを通じさせるものなのか。自分はまだ、彼女と二度目の対面すら出来ていないというのに。拳を握り締めた窓枠の下、スイスと日本は並んで昇降口に入っていった。





本日、晴ときどき桜とチーズ






一部で「猛獣使いの日本」という名前がついたとかついてないとか。
2007年11月22日