イギリスがやりかけの仕事を片付けながら昼食を取ろうと生徒会室を訪れると、すでに弁当がひとつ机の上に広げられていた。蓋も開いており、おかずもいくつか減っている。けれども当の持ち主はおらず、一体何なんだとイギリスは眉を顰めた。生徒会室で昼食を取る人間など生徒会メンバー以外にありえない。ということは副会長のフランス、もしくはアメリカ・ロシア・中国のうちの誰かか。弁当を途中で放り出しそうなのは、と考えてイギリスは止めた。四人が四人ともそれぞれに放り出していきそうだ。自由気まますぎるメンバーに頭が痛くなる。
中身で誰だか分かるか、と近づいて弁当を見下ろし、イギリスは思わず感嘆した。四角く平らな弁当は色とりどりの食材で溢れている。下半分に詰められている白いのは米だろう。
「・・・ということは中国か? しかし最近は学食で大陸ごとの弁当も売ってるしな」
米だけでは断定も出来ない。おかずは一体どんなものが、と思って目を走らせてイギリスは再び感嘆した。あのてかてかと光っているのは魚だろうか。イギリスの初めて見る姿をしている。ソースがかけられているのだろうが、それはイギリスの国の料理とも、フランスの料理ともまた違う。ましてや全品に共通する手の込んだ繊細さはアメリカ料理ではありえないだろう。
あの茶色いふわふわしている丸いものは何だろうか。それとおそらく肉らしいボールのようなものも、野菜なのか何なのか見分けのつかないものもある。赤と白のふっくらとした花の形をしたもの、あれも食べられるのだろうか。分からない。分からないものばかりだったが、どれも色艶を失っておらず、見目の麗しさが食欲をそそる。
ごくりとイギリスは唾を飲み込んだ。イギリスの手には学食で購入したサンドイッチがある。ラップに包まれてはいるが、乾燥したパンの端っこは到底美味しそうには見えない。それを認識してしまったからか。
魔が、指した。



「やっと戻ってこれたぞ! ―――ってイギリス? こんなところで何してるんだ?」
ドアを開けて現れたアメリカに、イギリスはサンドイッチを飲み込んで深い溜息を吐き出した。ばたばたという騒がしい足音が聞こえてきていたから、入ってくるのはアメリカだと見当がついていた。
「ここは生徒会室だ。会長の俺がいても不思議じゃないだろう」
「まぁそうだね。そんなことよりランチ、ランチ!」
やはりばたばたと椅子に座り、アメリカは買ってきたらしいコーラのペットボトルを机に置く。放り出していたフォークを握り、いざ弁当にと向かい合い、彼はぱちりと目を瞬いた。次の瞬間に上がった叫び声に、イギリスは思わず耳を手で押さえる。
「ああああああっ! イギリス、イギリス、イギリス!」
「何だうるさいっ!」
「ダシマキダマゴ! ダシマキタマゴがないっ! 俺のダシマキタマゴが!」
あと二つあったのに、とアメリカは頭を抱えて「Oh, My God!」と泣き叫ぶ。眼鏡の奥の目に本気で涙がにじんでいて、イギリスは呆れてしまった。
「ダシマキタマゴって、あのオムレツみたいなやつか?」
「そうだよ! 俺のダシマキタマゴ!」
「それだったらさっき、窓から入ってきた鳥が摘んでいったぞ」
「何だって!? イギリス、何で奪い返してくれなかったんだ!」
「無茶を言うな」
生徒会に置いている自前のセットで淹れた紅茶を飲みながら、イギリスはアメリカの反論を切り捨てた。うう、とフォークを握り、アメリカは未練がましく弁当箱を見つめている。
「せっかく日本が俺のために作ってくれたのに・・・っ!」
「ぶっ!」
「・・・・・・なんだい、イギリス。悪いけど今君にツッコミを入れる気力は俺にはないよ」
「俺だってボケたわけじゃない!」
噴出しかけた紅茶を紳士の意地で堪え、イギリスは慌てて口元を拭う。弁当の横で机に張り付いているアメリカの目に更に焦りを覚え、イギリスは問い返してしまった。
「そ、その弁当・・・っ・・・日本が作ったのか・・・?」
「そうだよ。日本が俺のコールスロー値を心配して作ってくれたんだ。日本食はヘルシーだからって」
「・・・・・・コレステロール値だろ」
「それなのに鳥にダシマキタマゴを食べられるなんて! こんなことならコーラなんか買いに行かなければ良かったよ」
ぶうと不貞腐れてからフォークを持ち直し、アメリカは再び弁当を食べ始める。茶色いふわふわした丸いものに齧りつき、それが気に入ったのか笑顔を輝かせて咀嚼している。弁当の中身がどんどんと減っていく。
ぱさぱさのサンドイッチを片手に、イギリスは頭を抱えてしまった。まさか、あの弁当が日本の手作りだったなんて。再登校初日に自分の領土を断った挙句、ちくりと攻撃までしてきた日本の手作りだったなんて。よもやまさか考えもしていなかった。イギリスはサンドイッチを放り出し、本格的に頭を抱える。ああ、くそ。困った。

あのダシマキタマゴの美味しさは、ちょっと忘れることが出来そうにないというのに。





だし巻き卵の乱






ち、違うからなっ! 美味しいから二切れ食べたんじゃない! 一切れじゃよく分からなかったから二切れ食べただけだ! 断じて美味かったからじゃないからなっ!
2007年9月18日