WW学園には女の子が少ない。国の習性によるものなのかは知らないが、一クラスに五人いれば良い方である。だからフランスが大手を振って同性にモーションをかけているのかもしれないと考え、ハンガリーは緩く首を振った。おそらく女子が男子と同数いたとしてもフランスの性癖は変わらないだろう。好みの相手にちょっかいを出す。それがオーストリアを除いての話なら、自分とて後頭部をフライパンで狙い撃ちしなくて済むものを。
とにかく、女子の少ない学園では、女生徒はそこにいるだけで視線を集めることが多々ある。ハンガリーはすでに長くこの学園にいるのでそうでもないが、今目の前から歩いてくる日本は違う。在籍だけならハンガリーよりも長い彼女は、欠席していた期間も長いので他の生徒たちに周知されていない。歩く度に黒い髪がさらさらと肩を流れて、それに従って男子生徒たちの視線もちらちらと移動している。可愛い、とハンガリーは微笑ましくなってしまった。自分に気づいて「ハンガリーさん」と声をかけてくれる日本に、もっと可愛い、と笑顔を向ける。
「こんにちは、日本さん」
「こんにちは、ハンガリーさん。風紀委員のお仕事ですか?」
「ええ。オーストリアさんが日直だから、先に校内を見回ってしまおうと思って。日本さんは?」
「私はドイツさんとイタリア君とお茶の約束をしておりまして」
ハンガリーにとっても親しい名前を口にして、日本はふわりと笑う。ブラウスのボタンは一番上まで留められており、リボンは左右対称で歪みもない。スカートの長さは今時珍しく規定のそれで、日本の小さな膝小僧を半分以上隠している。ソックスに包まれている足は細く、旋毛から爪先まで可愛らしくコンパクト。校則をひとつも破っていない服装は貴重で、あの制服を改造することに余念のない中国の妹分とはとても思えない。
可愛い可愛い、とハンガリーは笑顔になる。年上なのだけれど、日本はとても可愛い。イタリアに対するのとはまた違った愛らしさがあるとしみじみ思う。もちろんオーストリアへの想いとはまた違ったものだ。
「そうです、よろしければこれを」
通学鞄と一緒に持っていた紙袋の中から、日本が小さなケースをふたつ取り出す。プラスチックのそれは上部が透明で、中に入っている物がよく見えた。淡い色のそれは芸術品のようで、ハンガリーは小さな吐息を漏らす。
「上生菓子という私の国のお菓子なんです。よろしければオーストリアさんと召し上がってください」
「お菓子!? こんなに綺麗なのに?」
「上生菓子は、そのときの季節感を表すものが多いんです。こちらは桜の花びらが一片舞い落ちた様子の『ひとひら』、こちらは唐衣に例えられる杜若で『唐衣』です」
「日本は風流を大切にする国だと聞いていたけど、お菓子までそうなのね。素敵、是非いただくわ」
「オーストリアさんにもよろしくお伝えください」
当然のようにそう言われて、ハンガリーは少し照れを覚えながら頷き返した。初対面のときにオーストリアと一緒だったからか、それともイタリアに何かを聞いているのか、彼女はハンガリーとオーストリアを二人一組で捉えているようである。面映いけれど嬉しい。あのイギリスに言い返したと聞いてどんな少女なのかと思っていたが、実際の日本は大人しく控え目で、周囲に気を使える普通の女の子だ。しかも可愛い。ハンガリーの天秤は当然イギリスよりも日本の方に傾いた。
「今度は私ともお茶しましょうね」
「はい」
それでは失礼します、と頭を下げる日本に、ハンガリーもひらひらと手を振った。もう片方の手の中には、どう見ても芸術品としか見えないお菓子。日本の手先の器用さにはほとほと感心してしまう。美しいものを好むオーストリアもきっと気に入ることだろう。一緒に食べるシーンを想像したらすごく幸せな気持ちになって、ハンガリーはさっさと見回りを終わらすべく早足で歩き始めた。
オーストリアがこのお菓子を気に入ったら、日本に作り方を教えてもらおう。そんなことを考えながら。
黄金色の昼下がりに
WW学園三年ヨーロッパ組、ハンガリーさん。風紀委員会副委員長。委員長のオーストリア君と親しく、一時イタリア君も含めて一緒に暮らしていた過去がある。見苦しい男よりも女の子の方が好き。オーストリアさんはもっと好き。
WW学園三年ヨーロッパ組、オーストリア君。風紀委員会委員長。のドイツ君やハンガリーさん、イタリア君などいろんな人と同居した過去がある。外見振る舞いともに貴族な御方。三年ヨーロッパ組のスペイン君の親類。
2007年9月9日