フランスはニヨニヨと溢れる笑みを堪えることなく、上機嫌で生徒会室のドアを開けた。
「よぉ、イギリス! おまえ新入生に振られたんだって?」
「馬鹿なことを言うなっ! 俺は振られてない! 領土を断られただけだっ!」
「だけど中国のことを持ち出されて先制攻撃を食らったんだろ? 可愛い女の子が『あの』イギリスをけちょんけちょんにしたって学園中の噂だぜ」
「なっ・・・! 俺はけちょんけちょんになんかされていない!」
「でも圧し負けたのは事実なんだろ?」
フランスに確認され、イギリスはぐっと言葉に詰まる。思い浮かぶのは今朝、自分を見下ろした黒い瞳。翻ったスカートの裾。無表情のあどけない少女の顔立ちだ。確かに瞬間的に、足を引きかけたのは事実だけれど。
「日本ねぇ・・・・・・聞いたことない名前だな」
「亜細亜組だから、どうせ発展国のひとつなんだろ。その分際で俺の誘いを断りやがって」
「落ち着け落ち着け。おまえは女の子の扱いが雑すぎるんだよ。もっと甘い言葉で優しく囁いてやんなきゃなぁ」
「おまえと一緒にするな、変態!」
「ひっでー・・・」
ぎりぎりとノートを丸めてイギリスが怒鳴っていると、生徒会室のドアが開いた。
「こんにちはー。イギリス君、日本君にけちょんけちょんにやられたんだって?」
「ロシア、おまえもかっ!」
「でも久しぶりだね、彼女が学校に来るなんて。僕も挨拶に行こうかな」
悠々と入ってきて自分専用の椅子に座ったロシアに、あれ、とフランスは首を傾げる。イギリスも怪訝そうに眉を顰めた。
「ロシア、日本ちゃんって子と知り合いなのか?」
「うん。家が近いからそれなりに交流もあるし」
「新入生じゃないのか?」
「あはは、違うよ。年だけで言うなら彼女、僕たちよりも上だよ」
「上っ!?」
「あの容姿でか!?」
「うん、あの容姿で。中国君にも言えることだけど、亜細亜組はみんな若いよね」
すごい若作りだよね、とロシアは笑い飛ばしているが、イギリスとフランスは互いに顔を見合わせた。フランスも噂の少女を昼休みにこっそりと見に行っている。日本は黒髪に黒目で象牙色の肌をした、小柄で大人しそうな少女だった。中国と韓国と弁当を囲んでいる様子は、どう見ても外見年齢にしか見えなかったのだけれど。
「すげーな、亜細亜・・・・・・」
「というか、化け物だろう」
「東洋の神秘だな」
あの少女が、自分たちよりも年上。そのことを信じられずに驚いていると、ロシアはにこにこと笑いながら話を続ける。
「日本君はねぇ、おとなしそうに見えて、実際にすごくおとなしいんだけど、激しいところもあるから手を出すなら気をつけた方がいいよ」
「何だロシア、おまえも領土にしようとしたことがあるのか?」
「日本君は声をかけると可愛い反応をしてくれるからね」
「おぉ、意味深! ちょっとお兄さんに詳しく話してみなさいな」
「黙れ、この変態!」
イギリスがノートでフランスの頭を叩けば、ロシアが楽しそうに声を上げて笑う。そこで再びドアが開かれた。勢いよく現れたアメリカは、イギリスを見つけるとだんだんと床を踏みつける。
「イギリスっ! どうしてくれるんだ君は!」
「は、はぁ? 何だよ、一体」
「せっかく日本が学校に来てくれたのに、また明日から来なくなったら君のせいだぞ! せっかく彼女が俺の誘いに乗ってくれたのにっ!」
じたばたと床を踏むアメリカは、兄貴分のイギリス以外から見ても幼いだろう。実際に国家としては若い彼を呆れたようにフランスは眺める。
「アメリカ、おまえが日本ちゃんを学校に誘ったのか? どこで知り合ったんだよ、あんな可愛い子と」
「この前、街で偶然知り合ったんだ! ハンバーガーのソースを零した俺に、日本がティッシュを差し出してくれたんだよ!」
あぁ、やっぱり子供だ、と声には出さないがフランスとイギリスは同じことを考える。しかしアメリカはぱぁっと輝くような笑顔だ。ロシアは底知れないいつもの笑顔だ。
「聞いてみたら同じWW学園だって言うし、登校拒否なんかしてないで学校においでって言ったんだ。もし来ないなら俺が遊びに行くよって!」
「・・・・・・脅しだな」
「ああ、脅しだ」
「失礼だな、イギリス、フランス! 俺は日本の世界を広げたヒーローであって悪役ではないよ!」
「はいはい。とにかくそれで日本ちゃんは学校に来たってわけだ」
「それでイギリス君が『領土になれ』って言ったらあっさり断られたんだ。さすが日本君」
「ううううるさいっ!」
生徒会において、弄られるのは主に会長であるはずのイギリスの役目だった。中国がいればまた違っただろうが、彼は基本的に生徒会に寄り付かない。妹分である日本がまた学校に通いだしたなら、更に足が遠のくことだろう。二人の次に弄られやすいのはフランス。そしてしばし距離を置いてアメリカ。ちなみにロシアは絶対に弄られない。校内の黒い支配者、おそロシア様の呼び名は伊達ではなかった。
否定で真っ赤になった顔で、イギリスはだんっと机を叩いて立ち上がる。
「大体アメリカ! おまえ、何であんな女に学校に来いなんて言ったんだ! 登校拒否なら登校拒否で、スイスだってそうなんだから構わないだろう!」
「だって日本はとってもキュートじゃないか!」
オーバーリアクション気味に両腕を開いて、当然だろうと言うかのようにアメリカが答える。おや、とロシアが面白そうに笑った。おやおや、とフランスがニヨニヨと笑う。イギリスは先ほどとは違う理由で色白の首まで真っ赤に染まった。
「お、おまえっ・・・そんな理由であいつを誘ったのか!?」
「そんな理由ってなんだい? 日本は優しくて、しかもキュートだ! もっと仲良くなりたいと思うのは当然だろう?」
「はいはーい、俺も日本ちゃんと仲良くなりたいでーす」
「フランス、おまえは黙ってろ!」
「あぁっ! もしかしてイギリス、君、日本を好きになっちゃったの!? 駄目だよ、彼女は俺の友達なんだから!」
「だっ!」
「友達ならいいんじゃねーの? 何も横取りするわけじゃねーんだしさぁ」
「なっ!」
「よくないよ、フランス。日本はこれから俺と仲良くなるんだから。彼氏なんか出来たら邪魔じゃないか」
「おっ!」
「でも僕はもう日本君と仲良しだよ。ごめんね、アメリカ君」
「ぎっ!」
「いいよ、ロシア。これから俺は君よりも日本と仲良くなるから」
「〜〜〜〜〜〜おまえら、俺の話を聞けっ!」
「え? あぁごめん、イギリス。何の話だっけ?」
「だから俺は・・・・・・・っ!」
意気込んで先ほどのアメリカの言を否定しようにも、すでに話は流れてしまっている。フランスとロシアはわざとだと分かるが、アメリカは素で頭の上にクエスチョンマークを浮かべているのがイギリスにも分かった。教育を間違ったなどという後悔さえ浮かばないスルーっぷりに、己の存在意義を問いたくなる。しかもここで「俺は日本なんか好きじゃない」と言ったものなら、真実だから否定しているのだとからかわれることは目に見えていた。あまりにも明らかな己の姿に、イギリスは心中で涙する。
「・・・・・・何でもない」
こうして結局何も言えずに引き下がるところが、イギリスが彼を知る者たちの中でヘタレと言われている所以なのだった。





弱肉強食 in 生徒会






WW学園三年ヨーロッパ組、フランス君。生徒会の副会長で、校内にそこそこの領土あり。女の子が大好きで男も好みならいける。アジアいいよアジア、とか思ってる。
WW学園三年ヨーロッパ組、ロシア君。生徒会役員で、校内では常に取り巻きを侍らせている。一般生徒の間では「おそロシア様」と呼ばれるほどの危険対象物。学園はそのうちみんな僕のものになるんだよ、と公言している。
WW学園一年北アメリカ組、アメリカ君。一年生ながらに生徒会役員で、イギリスの弟的存在だが兄弟仲は良くはない。日本に再登校させた張本人であり、無意識の押せ押せ攻撃を仕掛けている。属性はお子様、将来の夢はヒーロー。

2007年9月2日