グッバイ聖夜
「せっかくのお誘いなのですが・・・・・・スイスさんは、クリスマスはご家族で過ごすものだと仰っていらっしゃいましたので、私などがお邪魔したらご迷惑かと・・・」
消え入るような声で顔を俯かせてしまった日本に、リヒテンシュタインは珍しく怒りを覚えてしまった。もちろん相手は目の前の楚々とした大和撫子ではなく、今頃自宅のリビングで電話を前にぐるぐると熊のように歩き回っているだろう兄に対してである。クリスマスを一緒に過ごそうと誘えなかったのは百歩譲って見逃そう。もちろんそれでも十分情けないが。しかし「家族で過ごすもの」と自ら言ってしまっては、今後永久に日本とクリスマスを過ごすことなんて不可能になってしまうではないか。もちろん結婚すれば話は別だが、誘いの一言さえ言えない兄がプロポーズの言葉を紡げるなどと夢みたいなことをリヒテンシュタインは思わない。敬愛している兄だが、恋愛となっては話は別だ。情けないです、お兄様。リヒテンシュタインは心中で思い切り溜息を吐き出した。
「そうですか・・・お兄様が、そんなことを」
「はい。きっとクリスマスを恋人の行事や商戦としか扱っていない私を、軽蔑されたのでしょう」
「そんなことありません。お兄様に代わって謝ります。お兄様も本当は日本さんと過ごしたかったに違いありません」
言葉を連ねるけれども、日本は淡く微笑んだだけだった。真意を悟らせないその表情はとても儚く美しかったけれども、リヒテンシュタインにはもどかしくて仕方がない。ああもうお兄様の馬鹿。地団駄を踏みたくなりながら、リヒテンシュタインはサンタクロースに願った。意地っ張りなお兄様をもう少し素直にしてください、と。
「ですがお誘いいただけて本当に嬉しかったです。今度また、別の機会に是非ご一緒させてください」
ようやく日本が明るさを含んで笑ってくれた。ほっとリヒテンシュタインも肩を下ろし、しっかりと頷く。
「お正月はお互いに忙しいでしょうし、桃の季節はいかがですか? うちには三月に、女の子のための行事があるのです」
「あら。じゃあお兄様は参加できないんですね。内緒にしなくちゃ」
「そうですね。ハンガリーさんや台湾さんたちも呼んで、女性だけでこっそり楽しみましょう」
約束を交わして、リヒテンシュタインは日本の家を後にした。去る途中に振り向けば、日本はずっと家の前で立っており、リヒテンシュタインに手を振り続けてくれている。黒い髪が遠目にも艶やかで、落ち着いた色合いの着物なのに鮮やかに見えて仕方がなかった。
「・・・・・・お兄様のお馬鹿」
今度こそ声に出して罵り、リヒテンシュタインは頬を膨らませた。クリスマスに誘えないどころか日本さんを悲しませるなんて男の風上にも置けません。お兄様なんて電話の前でチーズにでもなってしまえばいいんです。そんなことを考えながら、リヒテンシュタインはぽこぽこ怒ってクリスマスの街中を歩いたのだった。
ぽこぽこの怒り方は墺太利さん似かと。
2008年12月25日