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ひまわりとさくら 【 春 】
ロシアは当時、生まれたばかりの国だった。西からドイツ騎士団をはじめとするカトリック教徒のドイツ人に侵攻され、東からはモンゴルによって数々の町を略奪され、そんな中にぽつんと、国の自覚を持ってロシアは生まれたのである。当時の上司だったイヴァン一世は今後の国を憂慮し、人間にすればまだ五歳にも満たないだろうロシアを、長い歴史を持つ周辺の国家に預けた。「国としての在り方を学んできなさい」と言っていたけれども、それはおそらく長い時間を孤独に生きなくてはいけない幼児への気遣いだったのだろう。
ロシアがまず送られたのは、陸続きであり、アジアで最も長い歴史を持つ隣国、中国だった。世界四大文明のひとつを祖とし、偉大な流れを汲んでいる国。しかし当時の中国はロシアと同じようにモンゴルの脅威に晒されており、加えて新たな王朝を建設しようという動きもあったため、ロシアを預かる余裕などなかった。故に中国は彼の弟分であり、アジアでは中国に次いで歴史のある日本に、ロシアを託すべく訪れた。
初めて海を渡り、たどり着いた日本は春だった。四季がこれほどまでに明確なことにロシアは驚き、潔く風に舞って散る桜に目を奪われた。大地も色鮮やかで、冬の長いロシアとはまるで違う。
「にーほーんー! 来たあるよー」
「はーい。今参りますー」
建物すら違う。この国の建物の多くは木で出来ているようで、中国が連れてきた相手宅も木で出来ていた。大きいのか小さいのかは分からないけれど、町から少し離れたところにある、庭の広い家だった。
少し待っていると、出てきたのは黒い髪の少年だった。ロシアよりは大きいけれども、年はまだ十を過ぎたくらいにしか見えない。とはいえ、三千年以上生きている中国も十代半ばくらいにしか見えないし、アジア系は若く見えるんだ、とロシアは学んだ。少年は中国に向けて腰を折り曲げる。
「ご無沙汰しております、中国さん」
「あいやー。久しぶりあるね、日本。こいつがロシアあるよ」
「はじめまして、ロシアさん。日本です。よろしくお願いしますね」
目線を合わせるためにしゃがみこんだ日本は、瞳まで真っ黒だった。慣れない色彩に逃げたくなるけれども、中国の手ががっしりとロシアの手首を掴んでいるのでそれも出来ない。せめてもの抵抗として、ロシアはマフラーに顔を埋めて日本の視線から逃れた。
「無駄あるよ、日本。こいつはビクビクぷるぷる震えるだけで、何も喋んねーある」
「そうなんですか。でも確か、ロシアさんは独自の言語をお持ちですよね。だとするとまだ慣れていないのでしょう」
「とにかくこいつのことは任せたあるよ。我はもう朱元璋がミンミンうるさくて大騒ぎね」
「はい、確かにお受けしました」
白い手が伸びてくる。逃げたいけれども逃げられなくて、ロシアが固まっているうちに、日本は「よいしょ」と掛け声をかけて彼を抱き上げた。近くになった瞳は見上げていたときの深い森のような闇ではなく、星を散りばめた夜空のように輝いている。ほわ、とロシアは見惚れてしまった。
「これからよろしくお願いしますね、ロシアさん」
ふわりふわりと桜のように日本が笑う。それが、ロシアと日本の出会いだった。
露様はとりあえずイヴァン一世が1360年代に成立させたモスクワ大公国を生まれ年にしています。
2007年11月3日(2008年12月21日mixiより再録)