ひまわりとさくら 【 はじまり 】
大きな長椅子の上でロシアは浅い眠りについていた。意識が覚醒しているようで、どこか夢の中にいる。感覚だけが鋭敏で、窓の外の空気が徐々に下がり、まもなくすれば冬がやってくるのを耳が捉えた。忌々しいけれど仕方がない。冬将軍に挨拶に行かなくちゃ、と考えていると、控え目なノックが厚い扉の向こうから聞こえてくる。
「どうぞー」
「リトアニアです。失礼します」
ぼんやりと瞼を押し上げて返事をすれば、静かに重い扉を開いてリトアニアが現れる。その後ろにはエストニアとラトビアもいて、二人は籐で出来た籠のようなものを持っていた。ランチを入れるバスケットにしては大きい。だけど見たことある気がして、ロシアは身を起こしながら首を傾げる。リトアニアたち三人は「あいらぶもすくわ」という揃いのエプロンをつけていた。
「お休みのところすみません、ロシアさん。納戸を掃除していたら、これが見つかったのですけれど・・・」
「うーん、何だろ。見たことはあるんだけどなぁ」
「ヨーロッパでは珍しい入れ物ですよね」
「アジア系みたいだね。中国君から何か借りてたかなぁ? まぁいいや、開けてみてよ」
言えば、エストニアとラトビアが籠を床に下ろし、十字に結んであった紐と格闘を始める。ロープではなく何本もの糸を編みこんであるらしいそれは、埃をかぶって鮮やかさは失っていたけれども、元は綺麗な飾りだったのだろう。やっぱり見覚えがある、と首を傾げていたロシアは、出てきた中身にようやく記憶を蘇らせた。セピア色に染まっている紙の中から、明るい水色と透明に近い白の布が現れる。
「これは・・・・・・洋服、ですか?」
「うん、服。なんだ、倉庫にあったんだね」
どこに行ったのかと思ってた、と笑えば、エストニアが不思議そうに聞いてくる。
「ロシアさんが着ていたんですか?」
「そうだよ。僕がまだ生まれたばっかりのときに、日本君が着せてくれたんだ」
「「「日本さんが!?」」」
まさかここでロシアのお気に入りの―――相手からしてみれば大迷惑以外の何物でもないだろうが―――日本の名前が出てくるとは思っていなかったため、三人の声が重なる。懐かしいなぁ、とロシアは着物を手に取った。寒さが保存に良く働いたのか、何百年も経過しているというのに未だ綺麗だ。籠の裏には雀の文様が記されていて、んん、と首を傾げる。
「えっと・・・・・・な、何で日本さんがロシアさんに着物を着せてくれたのか・・・・・・」
き、聞いてもいいですか、と訪ねてくるリトアニアの顔色は微妙に悪い。けれど好奇心には勝てないのだろう。彼の後ろでエストニアは眼鏡の奥の目を輝かせているし、いつもはぷるぷる震えているラトビアも大きな目でロシアを見つめてくる。まぁ別に隠すことじゃないし、と呟きながら、ロシアは着物を広げて苦笑する。子供サイズのそれは、さすがにもう着れない。
「僕はねぇ、生まれてすぐ一年間、日本君のところにお世話になったんだよ。国として勉強してきなさいって当時の上司に言われてね」
懐かしいなぁ、と再度笑い、ロシアは遠い過去を思い出す。それはまるで昨日のことのように鮮やかだ。
端から端まで超捏造です。すべてがネタですので、許せる方のみお付き合いくださいませ。
2007年11月2日(2008年12月21日mixiより再録)