短編『末端から滲む5題』と同じ設定で、あれりゃーが女の子でせっちゃんに恋をしてます。てぃえは男女どっちでも可。いろいろと暴走していますので、何でも大丈夫という方のみどうぞ。





アレルヤの居場所が分かり、刹那たちをはじめとするプトレマイオスの面々は、彼女を奪還すべく作戦に入った。まもなくトレミーも大気圏に突入する。ガンダムに乗り込む前に、マイスターたちはスメラギから提供されたミッションプランの最終確認をしていた。
「刹那が施設に突入し、アレルヤを見つけ解放する。その間はセラヴィーがダブルオーを防衛。ケルディムは援護に回り、敵モビルスーツを破壊せよ。300秒か、十分な時間だな」
「おいおい。モビルスーツに乗るのも初めての俺に、そんな大任を任せていいのか?」
「貴様の能力値なら問題はあるまい。外せばその程度。所詮オリジナルのロックオン・ストラトスには敵わないということだ」
「・・・・・・言ってくれるねぇ」
ティエリアの冷ややかな切捨てに、ライルは唇で弧を描きながらも瞳だけをすっと細める。僅かに変化した彼の空気に気づかないでもなかろうに、ティエリアも、そして刹那も何ら反応を返さない。ライルからしてみれば、年下だろう彼らのその落ち着いた態度はいささか腹の立つものでもあった。さすがは四年前に、世界中を敵に回して戦っただけのことはある。揺るがされない沈毅は確かに武人のものであり、戦いに身を投じている殉教者のものだった。
「それにしても中に入るのは本当に刹那一人でいいのかよ? 相手は軍人だ。あちらさんだって守りを固めてるだろうし、多勢に無勢だぜ?」
「それこそ無駄な心配だな。白兵戦で刹那に勝てる輩はそうはいない。ソレスタルビーイングにおいて、地上戦では最も頼りになるエージェントだ」
「マジかよ」
「俺は、幼少期を少年兵として過ごしている。多数相手の戦いも何度も経験した。今回はアレルヤの拘束されている部屋が分かっているから、情報も十分すぎる」
「刹那、銃と換えのマガジンは持ったな?」
「ああ。ナイフと剣も支給してもらった」
「こんなことは言いたくないが、身の危険を感じたら容赦せずに殺せ。おまえの背中は俺が必ず守る。手を汚すのは俺も一緒だ」
「・・・ティエリア」
美しく整ったティエリアの顔が、刹那に向けてだけその冷酷さを和らげる。刹那も眼差しを上げ、ありがとう、と小さく呟いて厚意を受け入れた。ガンダムマイスターはライルが思っていたよりもずっと強靭で、それでいて人間らしい優しさを持っている。自分の兄が所属していたことから非道なだけの組織ではないだろうとは考えていたが、ティエリアと刹那の間にある信頼はとても深くライルの目に映った。戸惑いを感じていたからか、それに、と眼鏡を押し上げたティエリアに対し反応が遅れる。
「アレルヤは刹那が救出に行かないと意味が無い」
「は? 何でだ?」
「昔から言うのだろう? 捕らわれのお姫様を助け出すのは、白馬の王子様の役目だと」
ダブルオーガンダムは白いし、ちょうど良い。目を丸くしているライルを見やり、ティエリアが愉快そうに意地悪く笑った。
「アレルヤ・ハプティズムは、刹那に心底惚れている。所謂、恋する乙女なガンダムマイスターというやつだ」





恋するマイスター!





ミッションは無事に終了した。ライルも撃たれることなく援護することが出来、その行動が及第点だったのかティエリアからお小言を食らうことも無かった。そしてようやく顔を合わせたアレルヤ・ハプティズムというアリオスガンダムのマイスターは、確かに女だった。しかも拘束着の上からでも分かる、見事なナイスバディの持ち主。年はライルより五歳下らしいが、長い捕虜生活で得たのかアンニュイな雰囲気がそうと見せない。控え目な物腰で、アルトの声が心地よい。結論として「すげぇいい女」とライルはアレルヤを評価した。このいい女が、更に年下の刹那に恋をしている。にわかには信じがたい事実だ。しかしそう認識しているのも僅かな間だけだった。
「そういや、刹那ももうすぐこっちに来るって言ってたぜ。ダブルオーの調整も終わったって」
「えっ!?」
アレルヤがぱっと顔を上げる。そこに一瞬前までの影は無く、頬が徐々に色を取り戻し始める。金と銀のオッドアイがライルを見てから、慌てたように左右に揺れ始めた。どうしようと表情が如実に語っており、ティエリアが小さな溜息を吐き出している。
「せ、刹那が来る・・・!? ど、どうしよう! 刹那が来る!?」
「何だよ、会いたくないのか?」
「会いたくないわけないでしょう! だけどっ・・・ああ、どうしようハレルヤ! 刹那が来るって!」
「来るも何も、再会はもう済ませてるだろ? あんたを解放したのは刹那なんだし」
「それとこれとは話が別ですよ! だってあそこは暗かったし、拘束を解いてくれたら刹那は別のところに行っちゃったし、感動の再会なんてする暇も無かったし!」
感動の再会をするつもりだったのか。ミッション前にティエリアの言っていた「白馬の刹那王子を待つアレルヤ姫」という話がやにわに現実味を帯びてきて、ライルは思わず少しばかり引いてしまった。大人びて見えたアレルヤが、両頬に手を当てて右往左往している。どうしようハレルヤ、どうしよう。呟きの中には困惑と焦りだけでなく歓喜も見えて、その姿は明らかに恋する乙女にしか見えない。こうなってしまえば24歳という年齢よりも幼く感じられ、ライルはすぐさまアレルヤという人間の印象を修正するに到った。彼女はティエリアに掴みかかるかの勢いで、縋るように願いを口にする。
「ティエリア! お願いだよ、せめてシャワーを浴びさせて! シャンプーやボディーソープなんて贅沢は言わないから! 石鹸でいいから、お願いシャワーを浴びさせて!」
「君はトレミーの支給品すら忘れたのか。シャワー室に行けばシャンプーもリンスもコンディショナーもボディソープも、ついでに女性ブースには乳液も化粧水も揃っている」
「ついでに、あの、本当申し訳ないんだけど、むだ毛処理のクリームとか剃刀とか、そういうのも貸して! だって僕、四年も収監されてたんだよ!? ぶっちゃけ手入れなんて出来るような状況じゃなかったし! 拘束着は長袖だからいいけど、だからってこんな格好じゃ刹那の前に出れない!」
「おーい、女の裏事情は男に知られないところでやってくれよ、頼むから」
「あと、それとトレーニングルームも貸して! この四年間全然動いてなかったから、絶対に太っちゃってるよ! 胸だってほら、こんなに垂れてきてるし・・・っ! こんなんじゃ刹那を楽しませてあげられないよっ! 肌だってがさがさになっちゃってるし!」
「見ている限りその程度の体重増加は問題ない。それよりも自分で自分の胸を揉むな。体型はたいして変わってないだろう」
「だって、だって・・・!」
「え、っていうか俺としては『楽しませてあげられない』の方が気になるんだけど。もしかして、すでに肉体関係あり? うっわぁ、刹那の奴おいしいなぁ!」
「髪も伸び放題だし・・・っ! そうだロックオン、僕の髪を切ってください! 綺麗に可愛くお願いします! 服はスメラギさんに借りるとして、あとはえっと、えっと、えっと」
「―――その刹那のことだが、アレルヤ」
暴走するアレルヤは楽しい。刹那に恋する乙女なあまり周囲が見えなくなっている彼女は、ライルが今まで見てきたどんな女性とも異なるタイプだ。新鮮だと感じると同時に、面白いという傍観者の興味がわき上がってくる。何だ、ガンダムマイスターっていっても人間じゃん。しかもそこらの人間より愉快そうだ。そんなことを思っているライルの前で、ティエリアはアレルヤの肩に手を置いて落ち着くよう促した。
「その刹那のことだが、アレルヤ」
「何、ティエリア?」
「君が刹那に会う前に、伝えておくことがある」
首を傾げたアレルヤに、ティエリアは一度口を噤んだ後、言い聞かせるようにゆっくりと告げた。
「この艦に、マリナ・イスマイールが乗っている」
出された名前は、ライルにも覚えがあるものだった。アザディスタン王国の第一王女、マリナ・イスマイール。アレルヤと同じ収容所に入れられており、今回のミッションで刹那が救出してきた人物だ。しかしそれ以上に、ライルにとっては同じカタロンに属するシーリンのかつての上司という印象が強い。刹那とマリナの間にどんな関係があるのか知らないが、アレルヤはぱちぱちと目を瞬いている。
「マリナって・・・・・・えっと」
「アザディスタンの第一王女だ。君も覚えているだろう? 刹那が丸腰のエクシアで降り立った国だ」
「え、あ、うん、覚えてる。誘拐されていた指導者を助け出して、刹那が送っていった国だよね? え、でも何で、その国の王女が?」
「刹那は、彼女が拘束されたのは自分があのときに接触したからだと気にしていた。今回、同じ収容所にいるのだからついでに助ければいいと俺が進言した。まさかカタロンが混乱に乗じて他の囚人たちを解放するとは思わなかったからな」
ちらりとティエリアの瞳がライルを見た。
「まさか、カタロンが、混乱に乗じて他の囚人たちを解放するとは思わなかったからな。そうと分かっていれば助けに行けなんて言わなかったさ」
同じ台詞を丁寧に繰り返されて、ライルは自分とカタロンが未だ繋がっていることを知られているのだと理解する。それでも泳がされているのは、何か理由があってのことか、それともその程度は支障がないと思われているのか。どちらにせよ目をつけられているのは事実なので、小さく肩を竦めて反応を返しておいた。アレルヤは何かを考えるようにして俯き、色の薄い唇に指先を当てている。オッドアイの瞳が揺れたかと思うと大粒の涙が浮かんで、ライルはぎょっとした。
「まさか僕、刹那に捨てられた・・・っ!?」
「落ち着け、アレルヤ。第一君と刹那は交際していたわけじゃないだろう」
「あ、じゃあやっぱりセフレだったんだ?」
「僕が、僕が、四年も拘束なんかされていたから! 刹那だって一番お盛んな時期だったし、寄って来る女に興味を示しちゃっても仕方ないよね・・・! 仕方ないけど、でも! でもでもでも! だからって王女なんて・・・王女なんて、そんな高貴でお淑やかな人じゃ僕なんて敵わないよ! 刹那に捨てられちゃう・・・っ!」
「少なくとも若さでは君の方が勝っている。相手は今年で29歳のはずだ。刹那とは九つも違う」
「そうそう、それにスタイルじゃあんたの方が断然上だって」
「じゃあ僕、若さと身体で刹那を繋ぎとめればいいんだね!?」
「誰が極論に走れと言った」
「じゃあどうすればいいのさっ!? ティエリアには僕の気持ちなんか分からないよ! どうせ王女様は踝が綺麗な人なんだ! 刹那好みの美脚を持つ人なんだ!」
「・・・・・・・・・」
「否定しなってことはやっぱりそうなんだ・・・っ!」
うわあああん、とついにアレルヤが泣き出した。ティエリアが大きな溜息を吐き出すが、ライルは楽しくって仕方がない。密室空間で戦争浸けの生活になるかと思っていたが、意外に愉快な日々を送れそうじゃないか。他人の恋路ほど見ていて面白いものはなく、しかも暴走乙女アレルヤの相手が無表情な青年、刹那というのも興味深い。にやにやと笑いながら眺めていれば、シュッと音が立って部屋のドアが開かれた。現れたのは話題の刹那で、アレルヤは結局脱毛処理どころかシャワーを浴びることさえ出来ず、泣き顔を彼の前に晒すことになってしまった。金と銀の瞳が更なる涙で歪む。さてどうなるか、とライルは観客に徹した。すっと刹那の腕が持ち上がる。
「アレルヤ」
「・・・・・・っ」
「生きていてくれて良かった。―――おかえり」
ほんの少しだけれど和らげられた表情に、アレルヤの顔がくしゃりと潰れる。差し出された手に飛びつくようにして、アレルヤは刹那に抱きついた。声をあげて泣きじゃくる肩を、刹那の意外にも大きな手が優しく撫でる。その一端の男の仕草に、ライルは感心しながら壁に背を預けた。ティエリアが呆れたように肩を竦め、優しく笑う。
おかえり。温かな声がアレルヤの帰還を祝福した。





第3話、誰かあれりゃーの両目にツッコミを入れて・・・! それとてぃえ、せっちゃんに好意的すぎるって! どうしたの本当、何があったの!
2008年10月19日