ぴかぴか





きゅ、きゅ。先ほどからそんな音ばかりがドック内に響いている。少なくともハレルヤが来てからの三十分は、戦闘開始のアラートどころかハロの鳴く声さえしない。つまんねぇ。呟きはせずに舌打ちだけをして、ハレルヤは座り込んだ床から天井を見上げた。通常の建物なら三階は楽に入りそうな空間には、ガンダムが四機、行儀良く整列している。その一番手前の青と白の機体に、今は無重力を活かして小さな子供が張り付いていた。きゅ、きゅ。布を片手に刹那はエクシアを磨き続ける。ハレルヤが知る限り、三十分もきゅ、きゅ、と。
「刹那ァ、あんま磨き過ぎると禿げっぞ」
「エクシアは剥げない」
「あーおまえ知らねぇのか? ガムダムの装甲ってのは熱に弱いんだよ。だからおまえが磨きすぎてエクシアが禿げても知らねぇぞ」
「・・・・・・エクシアは剥げない」
「全面色落ちして灰色のガンダムになっちまうかもなぁ。まぁ、おまえがいいなら俺は構わねぇけど」
出鱈目を当然のように語って肩を竦めれば、エクシアの腕の位置にいた刹那がちらりと振り返ってくる。けれどハレルヤはわざと視線を合わせずに、壁に背を預けて素知らぬ顔を作ってみせた。しばし何もない沈黙が続き、ふわりと移動した気配にハレルヤは己の目論見が達成されたことを悟って心中で笑う。案の定、瞼を開けば刹那がエクシアから離れて降り立っているのを見ることが出来た。ガンダムに傾倒している刹那は、ガンダムにとってマイナスとなることだけは絶対にしない。だからこうしてハレルヤの子供騙しの言葉にも素直に従ってしまうのだ。
「つーかおまえ、いつもより念入りな手入れだったじゃねぇか。何かあったのか?」
立ち上がって問えば、僅かに汚れた布をダストボックスに落としていた刹那が振り向いた。滅多に感情を示さない赤い瞳が、じっとハレルヤを見上げてくる。
「沙慈・クロスロードに聞いた。経済特区日本では、年末には『大掃除』をするのだと」
「大掃除? 何だそりゃ面倒くせぇ」
「身の回りを綺麗にして、新たな気持ちで新年を迎えるのだと」
「は! だったら世界ごと消さなきゃなんねぇな。でなきゃいつまで経ってもこの世に新年なんか来ないぜ」
ハレルヤは嘲笑うが、刹那はやはり表情を変えない。代わりとでもいうかのようにエクシアの背後に並んでいる機体を見上げる。オレンジ色をメインとしたカラーリングはハレルヤの、アレルヤの専用機だ。
「ハレルヤは、キュリオスを磨かないのか?」
「あー? ガンダムなんざ五体満足で動きゃそれでいいだろ。どうしてもっていうならアレルヤが磨くさ」
指についていた油を拭い終わったのを見計らい、刹那の腕を掴む。そもそもハレルヤはドックになんか用は無かったのだ。自身が始めからキュリオスに搭乗することなど皆無だし、アレルヤとて整備以外ではあまりガンダムに近寄らない。入り浸るのは専ら刹那だけで、この子供がいるからこそハレルヤも足を踏み入れているに過ぎない。しかし今日はすでに三十分も無駄にしてしまった。短気を自覚しているハレルヤにとっては、いい加減に我慢の限界だ。刹那がなすがままであるのを良いことに、ハレルヤはさっさとドックを出て通路を進む。
「どこに行くんだ」
「食堂。日本じゃ正月に屠蘇って酒を飲むんだろ? スメラギが飲みつくす前に盗っとこうぜ」
「・・・・・・知ってたのか」
「あーでも、おまえはミルクだな。ココアにしてマシュマロを浮かべてやるよ。んで、アレルヤ秘蔵のクッキーを食おうぜ」
「それは、アレルヤが怒るだろう」
「いんだよ、怒らせときゃ」
脳内で喚く半身をシャットアウトして、ハレルヤは食堂への道を辿る。振り返れば刹那は眉を顰めてはいたけれども、それだけで明確な拒否はない。炬燵がねぇのがな、と少しだけ思うが、別にいいかとハレルヤは思いなおす。どうせ刹那は気紛れな猫ではなく、忠実な犬属性なのだ。炬燵があっても中に入らず、外で走り回るに違いない。エクシアと一緒に。
しかしとりあえず飽きるまでは外に出さず、自分の相手をしてもらおうか。そんな勝手なことを考えながらハレルヤは酒とココアと刹那を抱えてドアを開け、そして中に入りロックをかけた。がちゃり。これで楽しい引き篭もり年末休暇の完成だ。





あー? ロックオンの叫び声? ティエリアの怒声? んなもん空耳だろ。
2008年12月27日