[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
【「紫色の恋」を読むにあたって】
この話は『末端から滲む5題』の続編です。なのでアレルヤが女の子です。ついでのようにティエリアも女の子です。
告白・強襲・懇願を経て、アレルヤと刹那は友達以上恋人未満、だけどやることはやっちゃっている関係になりました。
今回の話はピロートークということで、若干艶やかしい描写を含むかもしれません。何でも大丈夫という方のみどうぞ。
閲覧後の苦情は申し訳ありませんがお受け出来ません。少しでもやばいと思われた方は今すぐお戻り下さいませ。むしろレッツリターン!
▼ 大丈夫です、読みます ▼
紫色の恋
ベッドに誘うのは、いつもアレルヤからだ。というか堪え切れなくて、アレルヤが刹那を押し倒してしまう。世界を相手に戦うガンダムマイスターとはいえ、仮にも女の子がそんなこと、とアレルヤ自身も恥ずかしく思っているのだけれど、相手の刹那は性衝動が薄いというより皆無に近いらしく、放っておけば触れてもらえる可能性などゼロに等しい。ただでさえ告白して、「恋愛は分からない」という微妙な言葉を返されているのだ。ここはもうなし崩し的に押して押して押していくしかない。そうすればいつの日か刹那も、自分と他の女の子とは少し違うと感じてくれることだろう。頑張れ僕、とアレルヤは自らを鼓舞していた。故に日々、少しでも刹那に好きになってもらうための努力は惜しまなかった。もちろん今日も。
「あ、あのね、刹那・・・・・・」
プトレマイオス時間で、所謂午後三時。アレルヤは快楽に心地よく疲労した上半身を少しだけ起こして、同じベッドに寝転ぶ刹那を見つめる。優雅なティータイムに何をしているんだ貴様ら、と極寒地帯のようなティエリアの声が聞こえてきそうだけれども、アレルヤにしてみれは仕方がないのだ。彼女の恋する刹那はガンダムマイスターであることを第一としているため、体調管理を徹底し、夜は定時に就寝してしまう。夜明けのコーヒーなんて夢はGN粒子の前に儚く散った。ならばミッションの空き時間を使うしかないだろう。
「あの、ね、あの」
「何だ」
「きょ、今日の僕のランジェリー、どうだった・・・・・・っ?」
振り向いた刹那が情事後もこうしてベッドにいてくれるのは、アレルヤの努力の賜物だ。初めてのときはすぐに服を着られてしまって、余韻も何もなかった。そりゃ確かに、無理やりに近い形で押し倒したのはアレルヤの方だったのだけれど。それでも何度目かのときに、「もうちょっと話とかしたいな・・・」と恐る恐る願い出てみたら、彼は意外にも「別に構わない」と返してくれた。刹那は恋愛やセックスに関して淡白な分、もしかしたらピロートークなどの甘い行為を知らないのかもしれない。ともかく、話を断られなかったということは一緒にいることを疎まれてはいないということで、その事実はアレルヤを十分に喜ばせた。
意を決したアレルヤの質問に、刹那は不可解そうに彼女を振り向く。その際に剥き出しの鎖骨が蛍光灯に晒されて輝き、アレルヤの胸を高鳴らせた。褐色の刹那の身体は、アレルヤが想像していたよりもずっと、男のそれだった。
「・・・・・・下着?」
「う、うん。今日の、新しいやつだったんだけど・・・・・・」
語尾がしおしおと力を失っていく。刹那を前にすると、アレルヤは自分が如何に俗物的かを思い知らされることが多々ある。セックスにおいてもそうだし、他の面でも刹那は滅多に自己主張をしない。譲らないのはガンダムに関することだけだ。
刹那がベッドから上半身を起こすと、薄いタオルケットが彼の身体を流れて、アレルヤの肩を少しだけあらわにさせた。見上げる形になって、引き締まった腹筋や理想的な二の腕、すっきりとした首筋に流れる癖のある黒髪に、綺麗だなぁとアレルヤは思わずにはいられない。幼さを残した姿態。少年期の危ういバランスが放つ色香と、先程堪えきれずに刻んでしまった脇腹のキスマークに再び鼓動が跳ねる。身体の奥がじんとしてきて、誤魔化すようにアレルヤも床に顔を背けた。脱ぎ散らかした衣類の一番上に、先日購入したばかりの下着が落ちている。
「刹那がどんなのが好みか分からないから、とりあえずスメラギさんに薦められたのにしてみたんだ」
上司であり同性でもあるスメラギは、笑顔でアレルヤに巨乳専用のランジェリーブランドを紹介してくれた。アレルヤももう子供じゃないんだし、下着もシックな方がいいんじゃないの、とほろ酔い加減で進められ、熱に浮かされるようにして購入してしまったブラジャーとショーツは深いパープルだ。さり気無いレースの縁取りは、限りなくシンプルでありながらもクールな、大人の女性向けの品の良い一品である。どきどきしながら身につけてきて、けれどいざ事を始めてしまったら頭の中から飛んでしまった。僕が悪いんじゃない、これは刹那の魅力が、とアレルヤは責任転嫁なことを小さく考える。
「・・・・・・種類があるのか」
感心したらしい台詞に思わず笑う。
「そりゃあね。男の人もトランクスとかブリーフとかあるでしょ? それと同じだよ」
「そうか」
刹那がひとつ頷く。それは年齢よりも幼い所作で、アレルヤはふふ、と唇を綻ばせた。寝返りを打って刹那を見上げれば、今度は赤茶の瞳がアレルヤを見下ろしてくる。非常に今更だが、アレルヤはタオルケットを少しだけ引き上げた。
「刹那は、レースとリボンとフリルなら、どれが好き?」
好みを聞くのは、意外にも初めてかもしれない。どきどきしながらも期待して問いかければ、返されたのはやはり刹那らしい答えだった。
「特にない」
「じゃあ、色は? 何色が好き?」
「青」
「理由は?」
「エクシアの色だから」
―――負けるな、僕。頑張れ、僕。ううう、とアレルヤは泣きそうになる自分を必死に励ました。刹那がエクシア一筋なのは今に始まったことじゃないだろう。横恋慕してるのはむしろ僕の方なんだからめげるな、めげちゃだめだよねハレルヤ、と懸命に己を奮い立たせる。もはやここまで来たら多少のことでは挫けられない。チャンスなんだから聞いてしまえ、とアレルヤは開き直った。
「刹那!」
「何だ」
「刹那は女の人を見るとき、一番に踝を見るって本当!?」
真っ先に尋ねたのは、ずっと心の中に引っかかっていたことだった。しばらく前に、プトレマイオスのデッキで男性クルーたちがグラビア雑誌を見ながら話をしていた。刹那はいささか眠そうだったけれども、ロックオンに「女性を見るときに一番最初にチェックするのは?」と聞かれて、彼は「踝」と答えていたのだ。あれからずっとアレルヤは踝に気を使ってきた。クリームによる保湿はもちろん、形を美しくする努力や格好良いウォーキングの仕方、艦内では動きやすい靴が義務だけれど、戦闘じゃないミッションのときや王留美の別荘で過ごすときなどはパンプスやミュールなども履くようにした。慣れない華奢な靴で血豆を作ったのは記憶に新しい。せっかく足をきれいに見せようと挑戦したのに、あれは酷い逆効果だった。ティエリアに高笑いで馬鹿にされた。何さ、自分は美しい踝を持ってるからって。
しかし、刹那はあっさりとアレルヤの気がかりを払拭してくれた。
「別に、そんなことはない」
「本当!? だって前、ロックオンに聞かれたとき・・・・・・」
「適当に話を合わせただけだ」
「じゃ、じゃあ、刹那は女の子ならどんな服装が好き!? お姉さん系? ゴスロリ系? 姫系? ギャル系? 清楚系? それともナースとか女子高生とか制服が好きなタイプ!? あっ、もしかしてボンテージとか!?」
「・・・・・・落ち着け、アレルヤ」
ヒートアップするアレルヤを、刹那が落ちたタオルケットを彼女にかけなおすことで引き戻す。刹那にとってはランジェリーはもとより服装など特に気にかけるようなものではないのだが、アレルヤはそうではないらしい。答えを返すまで納得しなさそうな様子に、刹那はとりあえず考える様子を示して見せた。
「・・・・・・露出は、多くない方がいい」
それは刹那の生まれ育ったクルジスの慣習から来たものだったが、それを知らないアレルヤは胸元の開いた服やノースリーブやミニスカートで出歩かないことを誓った。水着のビキニはどうだろう。許容範囲内だろうか、NGだろうか。
「服の種類よりも、本人が何を着たくて、何が似合うかが問題だろう」
「・・・・・・僕の、いつもの格好は・・・?」
「悪くはない。時々寒そうに見えるが」
「寒くないよ、刹那が温めてくれればっ!」
思わず口走ってしまった言葉に刹那が目を丸くする。アレルヤも自分が何を言ったのか遅れて気づき、慌てた。片手の指を超えるくらいに肌を重ねたとはいえ、これではあまりに押し付けがましい。好かれたいのなら、嫌われたくないのなら、もっと慎重にならなくてはいけないというのに。情事の余韻もその後のピロートークによるテンションも、ざぁっと血の気と共に下がってしまう。どうしよう、とアレルヤは泣きたくなってしまった。他人との接触を嫌う刹那がこうして共にいることを許してくれている、それに満足しなくてはならなかったのに。なんて恋は欲深く愚かなのだろう。
堪えきれず湛えた涙が、アレルヤの長い睫毛に震えた。刹那に恋をして、好きになってもらいたくて、少しでも自信を持ちたくて、ビューラーを買った。化粧を覚えた。下着も服も、全部好きになってもらいたくてだ。それなのに。
広がる沈黙が重苦しくて悲しくて、本格的に泣いてしまいそうだ。それは駄目だ、ずる過ぎる。ああ、でも。
「・・・・・・リヒテンダールが言っていた」
呟かれた声に顔を上げる。刹那は少し複雑そうに、困ったように眉を顰めていた。まるで自分の方が年下のようだとアレルヤは思う。
「おまえの胸に顔を埋められたら、死んでもいいと」
「・・・・・・へ?」
「『巨乳で美乳で正直堪らない』らしい。スメラギ・李・ノリエガでもいいと言っていたが」
「・・・・・・ええ、と」
話題がぽんっと飛んでしまったけれど、これはもしかして、刹那なりに場を和ませてくれようとしているのだろうか。フォローと、思ってもいいのだろうか。リヒテンダールの件が本気か冗談か分からないけれど、刹那のその気持ちが嬉しい。
身を起こすと、タオルケットがアレルヤの腰元まで落ちる。服はまだ床に散らばったままだから、アレルヤも刹那も裸だ。おずおずと両手を開いて、アレルヤは微笑んだ。せめて精一杯可愛らしく見えていたらいい。
「・・・・・・どうぞ?」
「・・・・・・俺に死ねと言うのか?」
「そうだね、じゃあ」
えい、と勢いをつけてアレルヤは刹那に抱きついた。体格はまだアレルヤの方が大きいため、刹那が背後の壁に軽くぶつかってしまったけれども、呻き声や怒声は降ってこない。それを良いことに、アレルヤは刹那の胸に顔を埋めた。とくとく、と心臓の動いている音が聞こえる。常とほとんど変わらないペースなのが少し寂しいけれど、嬉しくもある。
「・・・・・・これじゃ、僕の方が死んじゃいそうだよ」
「それは困る」
「うん。だけどもう、刹那無しじゃ生きてけなさそう」
だから抱き締めて、と願えば、一拍の間の後で鍛えられた、それでも細い少年の腕が回される。その熱の愛しさに、アレルヤは今度は違う意味で泣きたくなってしまった。まだ想いは等しくないし、アレルヤの一方通行だけれど、それでもきっと可能性がないわけじゃない。
好きだよ、と気持ちを込めて身を乗り出し、口付けた。いつか、刹那からキスしてもらうのを目標に頑張ろう。アレルヤは再度心に誓った。下着も服装も化粧も踝もスタイルも全部全部努力し続けようと、微笑んで愛しい少年の胸に頬を摺り寄せる。
まだまだ先の長そうな二人を、床の上から紫色のブラジャーとショーツが見守っていた。
あれりゃーは普段はアウターに響かないシームレスブラを着用してます。せっちゃんににゃんにゃん仕掛けるときのみ、可愛い綺麗なものに着替えてきます。いじらしい努力・・・?
2008年2月24日